鳳凰の巣には雛が眠る〜かつて遊び人だった俺と慰み者だった君が恋人になるまで〜

タケミヤタツミ

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一章:秘密は殻の中(鳳一郎視点)

01:鳳凰と雛の日常

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来島くるしまってさぁ、彼女ちゃんとは長いの?」

学校の昼飯時というのは色々と緩んでしまう頃。
友人からのやや不躾な質問に対して、来島鳳一郎ほういちろうはとりあえず箸を止めた。

窓際の席は陽射しが眩しくて軽く睨むような形になってしまうが、野性的な鋭い目は生まれつき。
襟足が長めで少し癖のある髪に縁取られた顔立ちは彫りが深く冷たい印象なので、ただでさえ不機嫌と思われがち。
加えて耳に幾つも突き刺さるシルバーのピアス、学ランと机が窮屈そうな筋骨隆々の巨漢ときた。

こんな鳳一郎と気安い言葉を交わせる友人は度胸があるのか単に阿呆なだけか。
何にしても貴重なので無碍に扱わず、悠々とした態度を崩さず聞き返す。

「急に、何だって?」
「毎日登下校一緒で、こうして俺らが遊び誘っても断って優先するから」

なるほど納得。
ちょうど今「放課後にゲーセン行こう」という誘いを断ったところなので急という訳でもなかったか。


この「彼女」というのが、事情を他人に説明するには特殊かつ非常に面倒臭い。

母親同士が親友の幼馴染だったが、彼女の両親が亡くなった時に親戚に引き取られて音信不通の空白が数年。
その親戚も亡くなったそうでいよいよ身寄りが無くなり、半年前から来島家に同居している。
流石に居候では悪いからと、本人がお手伝いさんの形を希望した上で。
現に、この弁当も作ってもらった物だったりする。

とは言えやしない、この場では。


「……家が隣同士の幼馴染だからなぁ」

返答はこれだけ、敷地内同居なので「隣」ということなら事実。
ただ、ここのところ鳳一郎が入り浸りだけにどっちに住んでいるんだか分からない状態ではあるが。

却って興味津々で馴れ初めなどを訊かれることになったものの、適当に流して話は終わり。




肌寒い季節の放課後は太陽が足早に空から去ろうとする。
身を隠す雲はあらず眩しさそのままで、風だけが木々の枝を揺らして残りの葉を奪い去るような厳しさ。

鳳一郎が当番を終えて教室に戻ると、自分の席に座っている少女の姿に気付いた。
こうしていると、窮屈な机が随分と大きく見えるものである。
金色の頭、黒いセーラー服の上にモノクロのスカジャン。
「彼女」の倉敷くらしき雛子ひなこは既に帰り支度万端で待っていた。

「悪ィな、自分の教室で待ってても良かったのに」
「……ん」

待ち合わせなんて約束するまでも無し。
短く頷いた雛子は席を立ち、鳳一郎に連れられて同じ家へ帰る。


外国人の血を引いている雛子は生まれつき淡い金髪。
身動ぎすると三つ編みが素直に揺れて、どことなくちょこちょこ歩くヒヨコを思わせた。
薄いそばかすが色白の肌に映える一方、大きめの垂れ目は暗褐色で可愛らしい顔立ち。
例えるなら、レモネードの髪にブラックコーヒーの目といったところか。

さぞ目立つかと思いきや、名前が書ければ合格出来るお馬鹿で自由な学校なので派手な髪色ならありふれている。
周りの女子達からも「頭カッコイイね!」で受け入れられて友好的な関係を築いていた。
髪の所為で否応なく注目を浴びがちな雛子の処世術なのか、周囲に溶け込むことに長けているらしい。

いや、目立つのは髪だけでもないか。
同年代の女子達に比べて背丈が高く、太っている訳ではないが体格も良い方。
ベビーフェイスとセーラー服に、肉感的な曲線の大人びた身体つきはアンバランスな色気があった。

いわゆる男好きする容姿なのだが、当の鳳一郎にとってストライクかといえばそうでもない。
可愛らしいと思っているのは事実であろうと。

というのも。


「鳳一郎……野球、好きだっけ?」
「いや、見てるだけ」

校舎の三階はグラウンドがよく見渡せる。
練習中の野球部を目で追ってしまっていたことに、雛子から指摘されて初めて気付いて微量の疚しさ。

特殊かつ非常に面倒臭い事情なら鳳一郎にもある。
実のところ両性愛者というか性的指向は男寄りで、そちらの経験を明かせば童貞でも処女でもない。
更に言えば頑丈そうな年上の男が好み。

野球部の監督なんて非常に目の毒。
入学した頃に恵まれた体躯の鳳一郎は目を付けられて是非にと熱心な勧誘を受けたことがあるのだが、逃げるように断ってそれきり。
これが純愛ならまだしも、性欲のみの視線なので接点を持たない方がお互いの為である。




いつものバスを降りてから家までは北風に晒されながら徒歩。
着込んでいても隙間から冷気が沁みてきて、寒さを理由に寄り添って手を繋ぐ。
バス停の付近は夜も賑やかで店が多く、寄り道を決めるなら今。
パフェの美味しいカフェ&バーなんかもある。

「寄って行くか?」
「ん……いい。それより、早くあったまりたい……」

鳳一郎が誘っても指先を絡めてくる雛子に柔らかく断られてしまう。
鈍くも子供でもなし、それだけで意味なら分かる。
残念どころか一瞬で熱が巡った。
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