1 / 57
一章:秘密は殻の中(鳳一郎視点)
01:鳳凰と雛の日常
しおりを挟む
「来島ってさぁ、彼女ちゃんとは長いの?」
学校の昼飯時というのは色々と緩んでしまう頃。
友人からのやや不躾な質問に対して、来島鳳一郎はとりあえず箸を止めた。
窓際の席は陽射しが眩しくて軽く睨むような形になってしまうが、野性的な鋭い目は生まれつき。
襟足が長めで少し癖のある髪に縁取られた顔立ちは彫りが深く冷たい印象なので、ただでさえ不機嫌と思われがち。
加えて耳に幾つも突き刺さるシルバーのピアス、学ランと机が窮屈そうな筋骨隆々の巨漢ときた。
こんな鳳一郎と気安い言葉を交わせる友人は度胸があるのか単に阿呆なだけか。
何にしても貴重なので無碍に扱わず、悠々とした態度を崩さず聞き返す。
「急に、何だって?」
「毎日登下校一緒で、こうして俺らが遊び誘っても断って優先するから」
なるほど納得。
ちょうど今「放課後にゲーセン行こう」という誘いを断ったところなので急という訳でもなかったか。
この「彼女」というのが、事情を他人に説明するには特殊かつ非常に面倒臭い。
母親同士が親友の幼馴染だったが、彼女の両親が亡くなった時に親戚に引き取られて音信不通の空白が数年。
その親戚も亡くなったそうでいよいよ身寄りが無くなり、半年前から来島家に同居している。
流石に居候では悪いからと、本人がお手伝いさんの形を希望した上で。
現に、この弁当も作ってもらった物だったりする。
とは言えやしない、この場では。
「……家が隣同士の幼馴染だからなぁ」
返答はこれだけ、敷地内同居なので「隣」ということなら事実。
ただ、ここのところ鳳一郎が入り浸りだけにどっちに住んでいるんだか分からない状態ではあるが。
却って興味津々で馴れ初めなどを訊かれることになったものの、適当に流して話は終わり。
肌寒い季節の放課後は太陽が足早に空から去ろうとする。
身を隠す雲はあらず眩しさそのままで、風だけが木々の枝を揺らして残りの葉を奪い去るような厳しさ。
鳳一郎が当番を終えて教室に戻ると、自分の席に座っている少女の姿に気付いた。
こうしていると、窮屈な机が随分と大きく見えるものである。
金色の頭、黒いセーラー服の上にモノクロのスカジャン。
「彼女」の倉敷雛子は既に帰り支度万端で待っていた。
「悪ィな、自分の教室で待ってても良かったのに」
「……ん」
待ち合わせなんて約束するまでも無し。
短く頷いた雛子は席を立ち、鳳一郎に連れられて同じ家へ帰る。
外国人の血を引いている雛子は生まれつき淡い金髪。
身動ぎすると三つ編みが素直に揺れて、どことなくちょこちょこ歩くヒヨコを思わせた。
薄いそばかすが色白の肌に映える一方、大きめの垂れ目は暗褐色で可愛らしい顔立ち。
例えるなら、レモネードの髪にブラックコーヒーの目といったところか。
さぞ目立つかと思いきや、名前が書ければ合格出来るお馬鹿で自由な学校なので派手な髪色ならありふれている。
周りの女子達からも「頭カッコイイね!」で受け入れられて友好的な関係を築いていた。
髪の所為で否応なく注目を浴びがちな雛子の処世術なのか、周囲に溶け込むことに長けているらしい。
いや、目立つのは髪だけでもないか。
同年代の女子達に比べて背丈が高く、太っている訳ではないが体格も良い方。
ベビーフェイスとセーラー服に、肉感的な曲線の大人びた身体つきはアンバランスな色気があった。
いわゆる男好きする容姿なのだが、当の鳳一郎にとってストライクかといえばそうでもない。
可愛らしいと思っているのは事実であろうと。
というのも。
「鳳一郎……野球、好きだっけ?」
「いや、見てるだけ」
校舎の三階はグラウンドがよく見渡せる。
練習中の野球部を目で追ってしまっていたことに、雛子から指摘されて初めて気付いて微量の疚しさ。
特殊かつ非常に面倒臭い事情なら鳳一郎にもある。
実のところ両性愛者というか性的指向は男寄りで、そちらの経験を明かせば童貞でも処女でもない。
更に言えば頑丈そうな年上の男が好み。
野球部の監督なんて非常に目の毒。
入学した頃に恵まれた体躯の鳳一郎は目を付けられて是非にと熱心な勧誘を受けたことがあるのだが、逃げるように断ってそれきり。
これが純愛ならまだしも、性欲のみの視線なので接点を持たない方がお互いの為である。
いつものバスを降りてから家までは北風に晒されながら徒歩。
着込んでいても隙間から冷気が沁みてきて、寒さを理由に寄り添って手を繋ぐ。
バス停の付近は夜も賑やかで店が多く、寄り道を決めるなら今。
パフェの美味しいカフェ&バーなんかもある。
「寄って行くか?」
「ん……いい。それより、早くあったまりたい……」
鳳一郎が誘っても指先を絡めてくる雛子に柔らかく断られてしまう。
鈍くも子供でもなし、それだけで意味なら分かる。
残念どころか一瞬で熱が巡った。
学校の昼飯時というのは色々と緩んでしまう頃。
友人からのやや不躾な質問に対して、来島鳳一郎はとりあえず箸を止めた。
窓際の席は陽射しが眩しくて軽く睨むような形になってしまうが、野性的な鋭い目は生まれつき。
襟足が長めで少し癖のある髪に縁取られた顔立ちは彫りが深く冷たい印象なので、ただでさえ不機嫌と思われがち。
加えて耳に幾つも突き刺さるシルバーのピアス、学ランと机が窮屈そうな筋骨隆々の巨漢ときた。
こんな鳳一郎と気安い言葉を交わせる友人は度胸があるのか単に阿呆なだけか。
何にしても貴重なので無碍に扱わず、悠々とした態度を崩さず聞き返す。
「急に、何だって?」
「毎日登下校一緒で、こうして俺らが遊び誘っても断って優先するから」
なるほど納得。
ちょうど今「放課後にゲーセン行こう」という誘いを断ったところなので急という訳でもなかったか。
この「彼女」というのが、事情を他人に説明するには特殊かつ非常に面倒臭い。
母親同士が親友の幼馴染だったが、彼女の両親が亡くなった時に親戚に引き取られて音信不通の空白が数年。
その親戚も亡くなったそうでいよいよ身寄りが無くなり、半年前から来島家に同居している。
流石に居候では悪いからと、本人がお手伝いさんの形を希望した上で。
現に、この弁当も作ってもらった物だったりする。
とは言えやしない、この場では。
「……家が隣同士の幼馴染だからなぁ」
返答はこれだけ、敷地内同居なので「隣」ということなら事実。
ただ、ここのところ鳳一郎が入り浸りだけにどっちに住んでいるんだか分からない状態ではあるが。
却って興味津々で馴れ初めなどを訊かれることになったものの、適当に流して話は終わり。
肌寒い季節の放課後は太陽が足早に空から去ろうとする。
身を隠す雲はあらず眩しさそのままで、風だけが木々の枝を揺らして残りの葉を奪い去るような厳しさ。
鳳一郎が当番を終えて教室に戻ると、自分の席に座っている少女の姿に気付いた。
こうしていると、窮屈な机が随分と大きく見えるものである。
金色の頭、黒いセーラー服の上にモノクロのスカジャン。
「彼女」の倉敷雛子は既に帰り支度万端で待っていた。
「悪ィな、自分の教室で待ってても良かったのに」
「……ん」
待ち合わせなんて約束するまでも無し。
短く頷いた雛子は席を立ち、鳳一郎に連れられて同じ家へ帰る。
外国人の血を引いている雛子は生まれつき淡い金髪。
身動ぎすると三つ編みが素直に揺れて、どことなくちょこちょこ歩くヒヨコを思わせた。
薄いそばかすが色白の肌に映える一方、大きめの垂れ目は暗褐色で可愛らしい顔立ち。
例えるなら、レモネードの髪にブラックコーヒーの目といったところか。
さぞ目立つかと思いきや、名前が書ければ合格出来るお馬鹿で自由な学校なので派手な髪色ならありふれている。
周りの女子達からも「頭カッコイイね!」で受け入れられて友好的な関係を築いていた。
髪の所為で否応なく注目を浴びがちな雛子の処世術なのか、周囲に溶け込むことに長けているらしい。
いや、目立つのは髪だけでもないか。
同年代の女子達に比べて背丈が高く、太っている訳ではないが体格も良い方。
ベビーフェイスとセーラー服に、肉感的な曲線の大人びた身体つきはアンバランスな色気があった。
いわゆる男好きする容姿なのだが、当の鳳一郎にとってストライクかといえばそうでもない。
可愛らしいと思っているのは事実であろうと。
というのも。
「鳳一郎……野球、好きだっけ?」
「いや、見てるだけ」
校舎の三階はグラウンドがよく見渡せる。
練習中の野球部を目で追ってしまっていたことに、雛子から指摘されて初めて気付いて微量の疚しさ。
特殊かつ非常に面倒臭い事情なら鳳一郎にもある。
実のところ両性愛者というか性的指向は男寄りで、そちらの経験を明かせば童貞でも処女でもない。
更に言えば頑丈そうな年上の男が好み。
野球部の監督なんて非常に目の毒。
入学した頃に恵まれた体躯の鳳一郎は目を付けられて是非にと熱心な勧誘を受けたことがあるのだが、逃げるように断ってそれきり。
これが純愛ならまだしも、性欲のみの視線なので接点を持たない方がお互いの為である。
いつものバスを降りてから家までは北風に晒されながら徒歩。
着込んでいても隙間から冷気が沁みてきて、寒さを理由に寄り添って手を繋ぐ。
バス停の付近は夜も賑やかで店が多く、寄り道を決めるなら今。
パフェの美味しいカフェ&バーなんかもある。
「寄って行くか?」
「ん……いい。それより、早くあったまりたい……」
鳳一郎が誘っても指先を絡めてくる雛子に柔らかく断られてしまう。
鈍くも子供でもなし、それだけで意味なら分かる。
残念どころか一瞬で熱が巡った。
0
あなたにおすすめの小説
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる