金盞花の光

鳥崎蒼生

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沢村静佳

再開

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まずは波の音が耳に入る。
それから、瞼が上がる感覚と明るい日の光で目がくらむ。
再度、目を閉じて開けると、目の前には空が広がっていた。
両手をついて起き上がると、そこは見たことのある風景の中だった。
エメラルドグリーンの海、白い砂浜、広がる水平線・・・・・・
(ここは、私の生まれ故郷だ。)
静佳は今でこそ本州に住んでいるが、生まれ故郷は南の小さな島で、そこで8年間育った。
短く、幼い頃の記憶だが、この風景だけはちゃんと覚えている。
毎日、通った海辺だからだ。
ここで、静佳は毎日遊んでいた。
暑い太陽の下で、紫外線なんか気にせず、ただひたすら遊んだ場所だ。
(さっきまで、カフェにいたはずなのに、夢でもみてるの?)
そう思い、頬を叩いてみたが、痛みは感じる。
という事は夢ではないのか・・・
その場で立ち上がり、体に付いた砂を手で払いながら、周りを見回す。
日差しの強さと、爽やかな風、遠くに見える島影まで見覚えのある風景。
懐かしさと同時に疑問が浮かんでくる。
(何故ここにいるのだろう?)
先ほどまでの出来事の記憶はしっかりある。
ここに私の捜し物があるという事なのか・・・・
それでも、まるでワープでもしたかのようなこの感覚に戸惑うばかりだ。
周りを再度、見回してみる。
(?あれは・・・人?)
浜辺の端の方に、人影があるような気がして、目を細める。
(さっきの桔梗とかいう人だろうか?)
ここからでは、その容姿までは確認できない。
仕方なく、そこまで歩いてみることにした。
砂に足がめり込みはするが、不快な感覚はなく、むしろその感触も懐かしい。
記憶はちゃんとこの感触を覚えているんだなと、感心する程だった。
遠かったその人影に少しずつ、少しずつ近づいていく。
その人影がはっきりと目視出来たとき、息をのんだ。
そこに立っているのは、間違いなく、会いたくて、会いたくない人だった。
(母・・・だ。死んだ頃のままの姿で、私を見ている。)
足が止まる。鼓動が跳ね、息が止まる。
何故、死んだはずの母がここにいるのか・・・
(私はやはり、死んだのだろうか?ここは死後の世界なのか?)
静佳は死後の世界など信じてはいない。
人は死ねば土へと還る。
そう思っていたが、この状況はその考えを真っ向から反対している。
死後の世界というしか説明が付かない。
そのことも混乱してしまう。
(何かの幻覚でも見ているの?)
その方がまだ現実的なような気がした。あのカフェで飲んだお茶のせいで幻覚を見ていると思う方が納得がいく。
これは幻覚・・・・
母はずっと立ったまま、その場を動く気配はなく、ずっと静佳を見ていた。
(あれから10年以上経つのに、何だか、私の方が老けているように思える・・・)
「久しぶり。老けたわね。いくつになったの?」
母から声を出した。
その声も紛れもなく母の物だった。
もう十年以上も経って、思い出そうとしても、思い出せなくなっていた母の声はそう、こんな声だった。
「もう40歳です。もうすぐ41歳になります。」
反射的に答える。
「私が死んだ歳に近づいているのねぇ。なんだか変な感じ。」
それは静佳も同じ気持ちだ。それに複雑な気持ちも混ざっている。
「幻覚でも、死後の世界でも無いわよ。ここは。どちらかというと、狭間という方が近いかもね。それも少し違うけど。」
母はそう言うが、この状況を飲み込めるだけの知識はない。
というかもうどちらでも良くなっていた。
幻覚でも何でも。
ただ達の悪い世界ではある。
静佳は、母を愛した分だけ、憎んでもいた。
母のせいで、静佳の人生の28年は過酷な物だったからだ。
そんな人に再会するなんて、どんな形でもあって欲しくはなかった。
「何か、言いたいことがあるんでしょ?」
「言いたいことですか?」
「そう、何かあるんでしょ?だから私はここに呼ばれたのだから。静佳は私に何が言いたかったの?」
言いたいこと・・・・
そんなのも、沢山ある。
恨み言ならいくらでも探せば出てくる。
でも今更な話だ。
ここで恨み言を並べ立てても、過去が変わるわけでも無い。
「別に、今更・・・」
「今だから、話せることもあるんじゃない?私は生前に静佳の話をあまり聞いていなかった、というか言われても、それが正しいと思ってなかったし。それでも、今は静佳の気持ちを聞くだけの時間はあるから。」
そう言われても、何を話していいか分からず、静佳はその場に腰をおろす。
母もそれに習って横に座る。
膝下の砂を突きながら、母に返す言葉を探していた。
それでも、何をどう話せば良いかも分からない。
「静佳は私を恨んでる?」
確信を付いた質問に、ギョッとする。
母に視線をぶつけながら、戸惑った。
「恨み言でも良いのよ?恨まれるだけのことをしたのは、分かっているから。」
そう言われても、いざ言えと言われると言葉に詰まる。
これまでの静佳の人生を考えれば、恨みだけでは言い切れない物がある。
「少しだけ、考えさせて・・・欲しいです。」
まとまらない考えと、理解不能な状況を抱えたまま、何も答えられない。
静佳はしばらく波の行き来を見ながら、過去を思い出し始めた。
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