黄仁の花灯り

鳥崎蒼生

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療養

第1章 2-4

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どれくらいそうしていたかは分からないが、戸口から鈴明リンメイが入ってくるのが見えた。
手には盆、その上に湯気の上がる茶碗が乗せられている。
「桜綾、薬出来たよ。特別に50年物の人参が入ってるの!すごいでしょ。」
なぜ鈴明が得意げなのかは、聞かずにおいた。
鈴明の言う人参とは、日本で言う高麗人参のような物だ。滋養、疲労回復、食欲増進など体に良いとされる代表格だ。
勿論、高価なものだし、その収穫年数で価値は何倍にもなる。50年物なら、かなりの価値になるだろう。
鈴明と一緒にその高価な物が運ばれてくる。さっきは分からなかったが、薬とは別に飴が盆に乗せられていた。
私の視線に気づいた鈴明が、
「これは宇航ルビユーハン様が、薬が苦いだろうからって一緒にってくださったの。大切にされてるね。」
(大切にというか・・・完璧に子供扱いしているだけでしょ。)
そう思ったが口には出さなかった。
蓮華で掬った薬をふぅふぅして冷まし、私の口に上手に薬を流し込む。
最初のうちは、私の喉を通らない薬と、人に薬を飲ませたことのない鈴明(リンメイ)とで上手く薬を取ることが出来なかったが、今では鈴明も手慣れた物だ。
血もつながっていないのに、鈴明は嫌な顔一つせず、私の世話をしてくれる。私は赤ん坊のようにただ、鈴明の優しさに甘えるしかない。
口の中に流された薬は思ったよりも苦く、舌がビリビリする。
それを我慢して飲みきると、今度は口に甘い味が広がる。
鈴明が口に飴を放り込んだせいだ。飴を食べるのも、久しぶりだった。
黄泰の通りで鈴明が山査子の飴を買ってきてくれた時は、大喜びした。あの時の味は、きっと二度と味わえないだろうなと思う。
「甘い・・・鈴明も・・・食べよう。」
そう言って鈴明に視線を向けると、大口を開けて入っている飴を見せつける。
「もう食べてる。」
そう言いながら、コロコロ口の中で飴を転がす。
(こういう所、可愛いなぁ)
そう思いながら、私も飴をなめる。
「失礼します。桜綾様。お食事をお持ちしました。」
薄い朱色の衣をまとった、綺麗な人・・・と思ったら、それは夏月さんだった。
今日は女性らしい恰好をしているので、一瞬誰か分からなかった。
「夏月さん、どうして・・・」
「あぁこの恰好ですか?領主様に桜綾様が他の物に顔を見られるのを嫌がるだろうからと、ここで護衛とお世話を申しつかりました。恰好は・・・ここの正装に合わせて・・・」
少し恥ずかしそうに答える。
「似合ってますよ。とっても。」
素直にそう言うと、更に顔を赤らめて、小さく
「ありがとうございます。」
と言った。どんなに強くてもやはり女性なのだと思う。領主様と並んでも見劣りしない。2人はお似合いだといつも思っていたが、今日はそれがはっきりと分かる。
「でも、領主様の護衛は・・・良いのですか?私なん・・・かの世話より、そっちの・・・方が大切なんじゃ・・・。」
「私の他にも護衛はおりますので。桜綾様のお世話も、私には大切ですから。」
領主様に申し訳なくも思うが、夏月さんの言葉は嬉しかった。大事にされていることが伝わってきたから。
「待医の指示で、今日は柔らかく炊いた米が少し入っていますので、ゆっくりと食べてください。久しぶりの食べ物でしょうが、急がずに。」
飢餓状態が続いた後、一気に栄養を入れると臓腑が驚いて死んでしまう事がある。前世ではショック死という言葉を使うらしいが。それを知っているのはこの国では僅かだろう。
鈴明がその器を取ると早速、私の元へ持ってきた。良い香りがする。
器の中身をかき混ぜ、下に溜った米粒を掬いながら、そっと口元へ運んでくる。
ゆっくりそれを口に入れると、久しぶりに米の味が口に広がる。
大半は上澄みだが、その中に少しだけ入った米は口の中で宝探しをしているような気分だ。
それをゆっくりと飲み込むと、次が運ばれてくる。
それを繰り返しながら、全部食べきった。
それを確認した夏月は、器を回収しつつ、
「この後、領主様からお話があるそうです。そろそろこちらへ来られるかと。後でお茶をお持ちしますね。」
そう言って、部屋を出て行った。
しばらく鈴明のおしゃべりを聞いて過ごした。
護衛が皆、顔が良いとか、その中の1人が優しくて良い人だとか、来る途中の花畑が素敵だったとか・・・・
そんな他愛ない話を、身振りを添えて話してくれる。
あまりに必死に話をするので、傷が痛むのに笑いが出る。
「宇航だ。入ってもいいかい?」
そうこうしているうちに領主様がやってきた。鈴明は扉を開けると
「じゃぁまた後で来るね。」
と領主様と入れ違いに去って行く。
これから、私の疑問が一つ解けそうだ。
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