1 / 8
開かない部屋
しおりを挟む
風は知っている。黄金の稲穂達の囁きを。
風は知っている。添えられた花の意味、そこに降る小雨の優しさを。
ツーツーツー
床に転がる携帯から通話終了の音が鳴り響き、目を覚ます。部屋は暗く、辺りがどうなっているかよくわからない。時計が掛けられている。5時だ。
ーこの部屋の間取りには見覚えがある。僕の部屋だ。ー
ーなぜだろう、時計を見ると凍えるような寒気が背筋を走る。ー
「ここは、僕の部屋?」
部屋を開けようとドアへ近づき、手をノブにかけた。ガチャガチャと音が鳴る。
「え?」
「ドア・・・開かない。なんでだ?」
部屋には見慣れない謎の大きな看板があり、『このドアは開かない』の文字。看板に書かれた通り、ドアは開かない。
「どうなってるんだよ、これ」
彼は看板の字を見てハッと気がつく。
「これ・・・僕の字だ」
つい手が伸びて看板に触れたその時、突如として女の顔が脳裏に浮かんだ。
「この人は誰だろう。」
「ああ、思い出せそうなのに、思い出せない。」
身悶えて振り向くと、目の前にその顔をした女がいた。女の髪は白く、背は低い。カイに微笑みかけているが、その顔はどこか暗い影が落とされたように冷たい。
女は落ちていた携帯をそっと拾い、画面を操作して、鳴り響いていた音を切った。
「うわぁ!」
「目が覚めたのね」
彼の中に、思い出の断片が不協和音のようにフラッシュバックする。そして、なぜか女の名前が出てきた。
「ケミコ?」
女は、ハッとしたような顔を一瞬見せた。しかし、次の瞬間には落ち着いて一言こう言い放った。
「出られなくなったんでしょ。この部屋から。」
「そうみたいだ。」
「ごめん、君の名前は咄嗟に出てきたのに、あとは何も思い出せない。」
「全部忘れちゃったの?」
「・・・ごめん。」
「自分の名前も思い出せない?」
「カイ。僕の名前はカイだ。よろしく。」
「そう。・・・やっぱりそうなのね。」
彼女は暗い顔になった。
「大丈夫。・・・あなたが私に何をしてきたのか、教えてあげる。」
「え?」
ケミコが壁に向かってスタスタと歩き、そして触れた。彼女は、顔と見紛うほど暗い壁を指先で優しくなぞる。
「見えてないと思うけど、ここにもう一つのドアがある。私には、そのドアが見えている。」
「開かないのか?」
「開かないのよ。私だけの力じゃ無理。あなたの協力が必要なの。」
「何をすれば良いんだ?」
「私がこれからする質問に答えて。」
「は?」
「簡単な話よ。あなたの答えが鍵になるの。私はドアを出現させる。」
「全く意味不明だ。」
「仕方ないでしょ?それがこの世界のルールなんだから。」
カイはあまりの展開に空いた口が塞がらなかった。
「大丈夫。あなたが『答え』を教えてくれたら、あなたはきっとこの部屋から出られるから。」
「いい?まずは始まりの儀式よ。簡単な質問をするから、ちゃんと答えてね。今までの話を聞いてれば簡単に答えられるはずよ。」
「始めるよ。儀式の名前は、『見料の儀』。」
「なんだ?それ」
「通行量って意味よ。これから私たちが見る景色、その通行量。それが問いの形で今からあなたに渡される。」
そう言い終えると、ケミコは肩を軽く上げて深呼吸しカイの方は振り返った。
「最初の質問。私の名前は?」
「ケミコ」
「次の質問。私を思い出したのは何に触ったとき?」
「えっと、看板」
「最後の質問。時計を見たとき、最初はどう思った?」
「凍えるように寒いと思った、かな」
答えた瞬間、自室が突如発光し黄金に輝きだす。その光に包まれ、何も見えなくなり、元の暗い部屋に戻ったかと思われたが、ケミコの手が触れた壁には光るドアが出現していた。
「うわっ。本当にドア出てきたよ。」
「これで先に進むための準備が整ったわ。」
そう言って彼を手招きする。
「待ってよ。ドアの先は何なんだ?」
「私の見せたい景色。」
「は?」
「いいから行くわよ。あなたは私に答えを教えて。」
ー全く意味不明だが、今はケミコについて行くしかなさそうだー
風は知っている。添えられた花の意味、そこに降る小雨の優しさを。
ツーツーツー
床に転がる携帯から通話終了の音が鳴り響き、目を覚ます。部屋は暗く、辺りがどうなっているかよくわからない。時計が掛けられている。5時だ。
ーこの部屋の間取りには見覚えがある。僕の部屋だ。ー
ーなぜだろう、時計を見ると凍えるような寒気が背筋を走る。ー
「ここは、僕の部屋?」
部屋を開けようとドアへ近づき、手をノブにかけた。ガチャガチャと音が鳴る。
「え?」
「ドア・・・開かない。なんでだ?」
部屋には見慣れない謎の大きな看板があり、『このドアは開かない』の文字。看板に書かれた通り、ドアは開かない。
「どうなってるんだよ、これ」
彼は看板の字を見てハッと気がつく。
「これ・・・僕の字だ」
つい手が伸びて看板に触れたその時、突如として女の顔が脳裏に浮かんだ。
「この人は誰だろう。」
「ああ、思い出せそうなのに、思い出せない。」
身悶えて振り向くと、目の前にその顔をした女がいた。女の髪は白く、背は低い。カイに微笑みかけているが、その顔はどこか暗い影が落とされたように冷たい。
女は落ちていた携帯をそっと拾い、画面を操作して、鳴り響いていた音を切った。
「うわぁ!」
「目が覚めたのね」
彼の中に、思い出の断片が不協和音のようにフラッシュバックする。そして、なぜか女の名前が出てきた。
「ケミコ?」
女は、ハッとしたような顔を一瞬見せた。しかし、次の瞬間には落ち着いて一言こう言い放った。
「出られなくなったんでしょ。この部屋から。」
「そうみたいだ。」
「ごめん、君の名前は咄嗟に出てきたのに、あとは何も思い出せない。」
「全部忘れちゃったの?」
「・・・ごめん。」
「自分の名前も思い出せない?」
「カイ。僕の名前はカイだ。よろしく。」
「そう。・・・やっぱりそうなのね。」
彼女は暗い顔になった。
「大丈夫。・・・あなたが私に何をしてきたのか、教えてあげる。」
「え?」
ケミコが壁に向かってスタスタと歩き、そして触れた。彼女は、顔と見紛うほど暗い壁を指先で優しくなぞる。
「見えてないと思うけど、ここにもう一つのドアがある。私には、そのドアが見えている。」
「開かないのか?」
「開かないのよ。私だけの力じゃ無理。あなたの協力が必要なの。」
「何をすれば良いんだ?」
「私がこれからする質問に答えて。」
「は?」
「簡単な話よ。あなたの答えが鍵になるの。私はドアを出現させる。」
「全く意味不明だ。」
「仕方ないでしょ?それがこの世界のルールなんだから。」
カイはあまりの展開に空いた口が塞がらなかった。
「大丈夫。あなたが『答え』を教えてくれたら、あなたはきっとこの部屋から出られるから。」
「いい?まずは始まりの儀式よ。簡単な質問をするから、ちゃんと答えてね。今までの話を聞いてれば簡単に答えられるはずよ。」
「始めるよ。儀式の名前は、『見料の儀』。」
「なんだ?それ」
「通行量って意味よ。これから私たちが見る景色、その通行量。それが問いの形で今からあなたに渡される。」
そう言い終えると、ケミコは肩を軽く上げて深呼吸しカイの方は振り返った。
「最初の質問。私の名前は?」
「ケミコ」
「次の質問。私を思い出したのは何に触ったとき?」
「えっと、看板」
「最後の質問。時計を見たとき、最初はどう思った?」
「凍えるように寒いと思った、かな」
答えた瞬間、自室が突如発光し黄金に輝きだす。その光に包まれ、何も見えなくなり、元の暗い部屋に戻ったかと思われたが、ケミコの手が触れた壁には光るドアが出現していた。
「うわっ。本当にドア出てきたよ。」
「これで先に進むための準備が整ったわ。」
そう言って彼を手招きする。
「待ってよ。ドアの先は何なんだ?」
「私の見せたい景色。」
「は?」
「いいから行くわよ。あなたは私に答えを教えて。」
ー全く意味不明だが、今はケミコについて行くしかなさそうだー
0
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
どうぞお好きになさってください
みおな
恋愛
学園に入学して一ヶ月。
婚約者の第一王子殿下は言った。
「学園にいる間くらい自由にさせてくれないか。君が王太子妃になることは決定事項だ。だから、せめて学園に通う二年間は、僕は恋がしたい」
公爵令嬢はその綺麗な顔に冷酷な笑みを浮かべる。
「好きになさればよろしいわ」
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」
まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。
目が覚めたら、婚約破棄されていた。
理由は「地味で面白みがない」から。
泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。
最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。
でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。
厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。
そして就任スピーチで宣言した。
「500人全員の名前を、覚えます」
冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。
悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。
元婚約者は——後悔し始めていた。
婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。
なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結
まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。
コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。
「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」
イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。
対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。
レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。
「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」
「あの、ちょっとよろしいですか?」
「なんだ!」
レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。
「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」
私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。
全31話、約43,000文字、完結済み。
他サイトにもアップしています。
小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位!
pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。
アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。
2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。
「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」
あなたが後悔しても、私の愛はもう戻りません
藤原遊
恋愛
婚約者のアルベルトは、優しい人だった。
ただ――いつも、私より優先する存在がいただけで。
「君は分かってくれると思っていた」
その一言で、リーシェは気づいてしまう。
私は、最初から選ばれていなかったのだと。
これは、奪われた恋を取り戻す物語ではない。
後悔する彼と、もう戻らないと決めた私、
そして“私を選ぶ人”に出会うまでの、静かな恋の終わりと始まりの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる