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見せたかった景色
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ケイはしばらくの間考えていた。目の前に書かれた看板に違和感を覚える。
ーここは僕の部屋だ。記憶が確かなら、ここにあったのは看板じゃなくてー
ケイは何かに気がついた。
ー逆に辿る、ならー
「そうか。最初の儀式だ。」
「え?」
「君が最初に行った儀式だよ。ほら、名前は何だったっけ?」
「見料の儀。」
カミコも何かに気がついた。
「あ。・・・『か』と『け』は逆になる。」
「そうだ。『か』と『け』を逆に、質問も逆に辿るんだ。儀式の名前は、完了の儀だ。」
「私が最初にした質問を、『か』と『け』を入れ替えて、逆に質問すればいいのね?」
「うん。」
「分かった。じゃあ、いくよ。ケイ。」
「最初の質問。都会を見た時、最初はどう思った?」
「鳥肌が立つほど感動した。」
「次の質問。私を思い出したのは何に触ったとき?」
「鍵盤。」
「最期の質問。私の名前は?」
「・・・カミコ。」
最後の扉が開く。洪水のように光が降り注ぐ。その先に現れた光景を見たカミコの顔に驚きが溢れる。
「これって」
そこには2人の老夫婦の姿があった。1人は鍵盤を弾き、もう1人はそれを静かに聞いている。
外からわずかに雨音がする。
耳は遠くなっているが、ピアノの音はよく聞こえているようだ。部屋はケイの部屋のようだった。看板ではなく、そこにあるのは鍵盤だが。
「愛の夢」がゆっくりと、昔と同じ優しさのまま流れている。
カミコはケイの方に顔を向けた。その目には、涙が溢れていた。
「ごめんね。」
「あなたは、私との未来を見ていた。」
「そう。僕が見せたかった景色は、君との未来だった。」
涙を拭きながら、カミコは笑顔でケイに応える。
「ケイ。最期に素敵な景色を見せてくれてありがとう。」
「何を言ってるんだ、カミコ。」
「え?」
「風になるんだろ?風になって、いろんな景色を見るんだろ。」
「いつか僕に教えてくれ。その時がいつになるかは分からないけど・・・待ってるから。」
「ケイ、ありがとう。」
「扉、開けるよ。」
ケイがドアノブに手をかけると、自室の扉が開いた。何度も聞いたことのある、優しい風の音が聞こえた。外からの光が入ったその部屋には、すでにあの看板はなく、代わりによく使い込まれた鍵盤が、一つ、ポツンと置いてあるだけであった。そして光と共に、カミコの姿は跡形もなく消えていた。
ケイの顔から一筋の涙が溢れた。だがその顔は笑顔だった。そのまま彼は鍵盤に静かに座り、「愛の夢」を演奏し始める。
ーあの時の風の音がどこからともなく聞こえてくる。どこか懐かしく、なんだかこんなふうに言っている気がする。ー
ー「大丈夫。いつだって私はここにいる。だって、私は風になったんだから。」ー
風は知っている。黄金の稲穂達の囁きを。
風は知っている。添えられた花の意味、そこに降る小雨の優しさを。
ーここは僕の部屋だ。記憶が確かなら、ここにあったのは看板じゃなくてー
ケイは何かに気がついた。
ー逆に辿る、ならー
「そうか。最初の儀式だ。」
「え?」
「君が最初に行った儀式だよ。ほら、名前は何だったっけ?」
「見料の儀。」
カミコも何かに気がついた。
「あ。・・・『か』と『け』は逆になる。」
「そうだ。『か』と『け』を逆に、質問も逆に辿るんだ。儀式の名前は、完了の儀だ。」
「私が最初にした質問を、『か』と『け』を入れ替えて、逆に質問すればいいのね?」
「うん。」
「分かった。じゃあ、いくよ。ケイ。」
「最初の質問。都会を見た時、最初はどう思った?」
「鳥肌が立つほど感動した。」
「次の質問。私を思い出したのは何に触ったとき?」
「鍵盤。」
「最期の質問。私の名前は?」
「・・・カミコ。」
最後の扉が開く。洪水のように光が降り注ぐ。その先に現れた光景を見たカミコの顔に驚きが溢れる。
「これって」
そこには2人の老夫婦の姿があった。1人は鍵盤を弾き、もう1人はそれを静かに聞いている。
外からわずかに雨音がする。
耳は遠くなっているが、ピアノの音はよく聞こえているようだ。部屋はケイの部屋のようだった。看板ではなく、そこにあるのは鍵盤だが。
「愛の夢」がゆっくりと、昔と同じ優しさのまま流れている。
カミコはケイの方に顔を向けた。その目には、涙が溢れていた。
「ごめんね。」
「あなたは、私との未来を見ていた。」
「そう。僕が見せたかった景色は、君との未来だった。」
涙を拭きながら、カミコは笑顔でケイに応える。
「ケイ。最期に素敵な景色を見せてくれてありがとう。」
「何を言ってるんだ、カミコ。」
「え?」
「風になるんだろ?風になって、いろんな景色を見るんだろ。」
「いつか僕に教えてくれ。その時がいつになるかは分からないけど・・・待ってるから。」
「ケイ、ありがとう。」
「扉、開けるよ。」
ケイがドアノブに手をかけると、自室の扉が開いた。何度も聞いたことのある、優しい風の音が聞こえた。外からの光が入ったその部屋には、すでにあの看板はなく、代わりによく使い込まれた鍵盤が、一つ、ポツンと置いてあるだけであった。そして光と共に、カミコの姿は跡形もなく消えていた。
ケイの顔から一筋の涙が溢れた。だがその顔は笑顔だった。そのまま彼は鍵盤に静かに座り、「愛の夢」を演奏し始める。
ーあの時の風の音がどこからともなく聞こえてくる。どこか懐かしく、なんだかこんなふうに言っている気がする。ー
ー「大丈夫。いつだって私はここにいる。だって、私は風になったんだから。」ー
風は知っている。黄金の稲穂達の囁きを。
風は知っている。添えられた花の意味、そこに降る小雨の優しさを。
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