【完結 】悪役令嬢ですが、破滅するどころか逆に好感度爆上がりしてます。なぜ。

くろねこ

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第9.5話  ――王太子レオン、理解してしまう

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それは、ほんの偶然だった。

中庭。
放課後。
日差しがやわらぎ、生徒たちの声も落ち着いてきた時間。

レオン・グレイシアは、少し離れた場所から二人を見ていた。

エリザベート・フォン・ローゼンベルク。
そして――ミア・フローラ。

(……話しているのか)

それだけで、胸の奥がざわつく。

本来なら、ミアが笑っていれば安心できた。
彼女は守るべき存在で、繊細で、か弱くて――
自分が「正しい側」でいられる象徴だったから。



「……エリザベート様」

ミアが、小さく声をかける。

怯えはない。
逃げ腰でもない。

ただ、真っ直ぐだった。

(……あれ?)

レオンは、眉をひそめる。

ミアは、確かに“怖がっていた”はずだ。
エリザベートを前にすると震え、言葉を失い、泣いていた。

……なのに。

「ありがとう、ございます」

その声は、落ち着いている。

「私……ちゃんと、言いたかったんです」



エリザベートは、驚いた顔をしたあと、ゆっくりと頷いた。

猫耳が、ぴこりと揺れる。

(……また、出てる)

だが、誰も騒がない。

それどころか。

「……大丈夫ですわ」

穏やかな声。

「今は、ちゃんと聞けますから」

その瞬間。

ミアが、笑った。

怯えのない笑顔。
誰かに守られるための笑顔ではない。

(……あ)

レオンの中で、何かが噛み合わなくなる。





「私……」

ミアが言う。

「エリザベート様が怖かったんじゃ、ありませんでした」

はっきりと。

「……え?」

思わず、声が漏れた。

(今、なんて)

ミアは、少しだけ目を伏せてから続ける。

「自分が、嫌だったんです」

「助けてもらってばかりで」
「何も返せなくて」
「……ちゃんと立てない自分が」

(……それは)

(俺が、守ってやればよかったんじゃ)

そう思った瞬間。



「――違いますわ」

エリザベートが、静かに言った。

レオンは、息を呑む。

「ミア」

名を呼ぶ声は、優しい。

「あなたは、立っていました」
「ただ、あなた自身が気づいていなかっただけ」

猫耳が、ぴこり。
尻尾が、ゆっくり揺れる。

――感情は出ている。
だが、押しつけはない。

(……こんな声)

(俺、聞いたことない)



その時だった。

一歩、前に出る影。

黒髪の騎士――ルシアン。

「……ここまでで」

穏やかだが、完全に区切る声。

「これ以上は、感情が高ぶります」

(……止めた?)

(いや)

ミアを、ではない。

エリザベートをだ。

彼女の感情を守るために。



エリザベートは、素直に頷いた。

「……ええ」

迷いがない。

信頼が、ある。

(……あれ?)

レオンの胸が、冷える。

(俺)

(婚約者だったのに)

(あんな風に、委ねられたこと――)

なかった。



ミアは、ルシアンを見てから、エリザベートを見る。

それから、少し困ったように笑った。

「……殿下」

レオンに向けて。

「私、殿下が思っているほど……弱く、なかったみたいです」

優しい声。
責めてはいない。

だが――線を引いた声だった。



その瞬間。

レオンは、はっきりと悟った。

(あ)

(……無理だ)

エリザベートは、もう戻らない。
ミアも、「守られる役」ではなくなった。

そして何より。

――あの騎士。

ルシアン・ヴァルトは、
最初から最後まで、迷っていない。



(俺は)

(“正しい役”を演じていただけだ)

(誰の感情も、見ていなかった)

胸の奥で、何かが静かに崩れる。



その背中を。

エリザベートは、もう振り返らなかった。

猫耳が、風に揺れる。

その横には、
当然のように、ルシアンが立っている。

(……ああ)

(これは)

(護衛じゃない)

王太子レオン・グレイシアは、この日――

完全に理解してしまった。

自分はもう、
物語の中心にはいないのだと。

そして。

それを奪ったのは、
誰かの悪意ではなく――

自分自身だったのだと。
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