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第37話 後もどりはもう出来ない
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アレクシス視点
――用意されたのは、逃げ場ではな「席」だったその報告は、いつものように書類の束に紛れて届いた。
第三国レグナール。
港湾再編に関する進捗。
責任者補佐の正式配置。
アレクシスは、最初、流すつもりで目を通した。数字は問題ない。工程も妥当。特に、帝国の立場を脅かす要素はない。
――はずだった。
視線が、ある一行で止まる。
配置先:港湾再編統括補佐(公爵夫人直轄)
(……直轄?)
一瞬だけ、思考が静止する。
第三国の公爵夫人。あの女は、前に出ない。名を使わない。だが、すべてを動かす。
そして――その直轄の席に置かれた名前。
エリシア・マルセワ。
アレクシスは、ゆっくりと書類を机に戻した。
(……なるほど)
これは、亡命ではない。保護でもない。
逃避でもない。
“切れない席”だ。
帝国の手が届かず。商会の裁量が残り。第三国の権威が、盾になる。
しかも、前線だ。飾りではない。責任と判断を伴う位置。
(……よく、こんな配置を)
思わず、息が漏れる。
これは、エリシア自身の策ではない。
彼女は、ここまで政治的な“安全網”を張らない。
ならば――
誰だ。
脳裏に浮かぶのは、一人しかいない。
(……公爵夫人か)
あの女なら、やる。血縁を名乗らず。情を表に出さず。ただ、「切れない構造」だけを残す。アレクシスは、指先で机を叩いた。
(彼女は、知らないな)
エリシアは、この席の意味を、まだ理解していない。これは、距離を取るための仕事ではない。戻れなくなるための配置だ。
帝国が切ろうとすれば、第三国との関係が壊れる。
商会を責めれば、
市場が揺れる。
そして、彼女個人を切る理由は――どこにも存在しない。
(……詰ませたな)
そう思ってから、アレクシスは気づく。
これは、彼女を守るための布陣であると同時に――彼自身をも、試す配置だ。
ここまで席が固められた以上、帝国が動く。
必ず、誰かが問う。
「王子殿下は、どうされるおつもりですか」と。
逃げ道は、もうない。
彼女が前に出た以上、自分もまた、“曖昧な立場”には戻れない。アレクシスは、目を閉じ、短く息を吐いた。
(……覚悟を、先に決められたか)
それでも。
不快ではなかった。
恐ろしくもない。
むしろ――胸の奥が、静かに定まる。
(彼女は、もう席に立った)
ならば、自分が立つ場所も、決めるだけだ。アレクシスは、書類を閉じた。
第三国に用意されたのは、エリシアの逃げ場ではない。
選ばれるための席。
そしてそれを知った瞬間、彼は悟っていた。
――自分もまた、もう後戻りはできない場所に立っているのだと。
――用意されたのは、逃げ場ではな「席」だったその報告は、いつものように書類の束に紛れて届いた。
第三国レグナール。
港湾再編に関する進捗。
責任者補佐の正式配置。
アレクシスは、最初、流すつもりで目を通した。数字は問題ない。工程も妥当。特に、帝国の立場を脅かす要素はない。
――はずだった。
視線が、ある一行で止まる。
配置先:港湾再編統括補佐(公爵夫人直轄)
(……直轄?)
一瞬だけ、思考が静止する。
第三国の公爵夫人。あの女は、前に出ない。名を使わない。だが、すべてを動かす。
そして――その直轄の席に置かれた名前。
エリシア・マルセワ。
アレクシスは、ゆっくりと書類を机に戻した。
(……なるほど)
これは、亡命ではない。保護でもない。
逃避でもない。
“切れない席”だ。
帝国の手が届かず。商会の裁量が残り。第三国の権威が、盾になる。
しかも、前線だ。飾りではない。責任と判断を伴う位置。
(……よく、こんな配置を)
思わず、息が漏れる。
これは、エリシア自身の策ではない。
彼女は、ここまで政治的な“安全網”を張らない。
ならば――
誰だ。
脳裏に浮かぶのは、一人しかいない。
(……公爵夫人か)
あの女なら、やる。血縁を名乗らず。情を表に出さず。ただ、「切れない構造」だけを残す。アレクシスは、指先で机を叩いた。
(彼女は、知らないな)
エリシアは、この席の意味を、まだ理解していない。これは、距離を取るための仕事ではない。戻れなくなるための配置だ。
帝国が切ろうとすれば、第三国との関係が壊れる。
商会を責めれば、
市場が揺れる。
そして、彼女個人を切る理由は――どこにも存在しない。
(……詰ませたな)
そう思ってから、アレクシスは気づく。
これは、彼女を守るための布陣であると同時に――彼自身をも、試す配置だ。
ここまで席が固められた以上、帝国が動く。
必ず、誰かが問う。
「王子殿下は、どうされるおつもりですか」と。
逃げ道は、もうない。
彼女が前に出た以上、自分もまた、“曖昧な立場”には戻れない。アレクシスは、目を閉じ、短く息を吐いた。
(……覚悟を、先に決められたか)
それでも。
不快ではなかった。
恐ろしくもない。
むしろ――胸の奥が、静かに定まる。
(彼女は、もう席に立った)
ならば、自分が立つ場所も、決めるだけだ。アレクシスは、書類を閉じた。
第三国に用意されたのは、エリシアの逃げ場ではない。
選ばれるための席。
そしてそれを知った瞬間、彼は悟っていた。
――自分もまた、もう後戻りはできない場所に立っているのだと。
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