皆様覚悟してくださいませ。偽聖女の義妹から全て取り戻します。今まで受けた仕打ちは倍にしてお返し致します。

くろねこ

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二十

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セドリック vs カイザス

――無言の火花

 最初に気づいたのは、空気だった。

 庭に満ちていた穏やかな生命の流れが、
 ほんの一瞬、張りつめる。

 浮遊クッションに身を預けたオリビアが、
 わずかに眉を動かした、その直後。

 ――視線が、重なった。

 王太子セドリック・フォン・ヴェルトリナス。
 黒騎士カイザス・フォン・ヴァンサイト。

 距離は、十歩ほど。
 互いに一歩も動かない。

 だが。

 周囲の者たちは、即座に悟った。

(……まずい)

 これは挨拶ではない。
 牽制でもない。

 格の確認だ。

 セドリックは、穏やかな微笑みを浮かべている。
 だが、その視線は笑っていない。

 王太子としてではなく、
 **「一個の雄」**として見ている目。

 一方のカイザスは、微動だにしない。

 剣からも、オリビアからも、
 視線を外さない。

 まるで――
 この場にあるすべてを、
 同時に測っているかのように。

 木々が、ざわりと音を立てた。

 拒絶ではない。
 だが、警戒でもない。

 様子見。

 セドリックは、わずかに顎を上げる。

 ――先に動けば、負ける。

 それを理解している。

 だから、動かない。

 カイザスも、同じだ。

 彼は王太子を見ている。
 だが、王家を見ていない。

 見ているのは――
 オリビアに近づく存在として、許容範囲かどうか。

 数秒。

 いや、十数秒か。

 沈黙が、刃のように伸びる。

 文官が、喉を鳴らす。
 武官が、無意識に一歩下がる。

 ここで剣が抜かれれば、
 誰も止められない。

 そのとき。

「……ねえ」

 オリビアの声が、軽く落ちた。

「二人とも、立ったまま日光浴する趣味?」
「それ、健康に悪いわよ」

 ――ぷつり。

 張りつめていた何かが、切れた。

 セドリックが、先に笑った。

「はは……参ったな」
「君の前だと、つい真面目になる」

 そう言いながらも、
 視線はカイザスから外さない。

 カイザスは、ほんの一瞬だけ目を伏せた。

 剣に触れ、
 そして――離す。

 敵ではない
 そう、判断した。

 木々が、静かに揺れる。

 肯定。

 セドリックは、その様子を見て、
 内心で舌を巻いた。

(……なるほど)

(こいつ、俺を“脅威”として処理しなかった)

 それは敗北ではない。
 だが、完全な優位でもない。

 同じ土俵に立たされたという感覚。

 セドリックは、ゆっくりと息を吐く。

「君が、噂の黒騎士か」

 カイザスは、短く答える。

「名乗る必要はない」

「だろうね」

 セドリックは、楽しそうに目を細めた。

「でもさ」
 一拍。
「オリビアの近くにいるなら、無視はできない」

 カイザスの視線が、鋭くなる。

 だが、声は低く、静かだ。

「それは、こちらも同じだ」

 再び、火花。

 だが今度は――
 燃え広がらない。

 オリビアが、片手をひらりと振る。

「はい、そこまで」
「喧嘩は庭が荒れるから禁止」

 二人の視線が、同時に彼女へ戻る。

 その瞬間。

 勝負は、決していた。

 中心は、彼女だ。

 セドリックは苦笑し、肩をすくめる。

「……参った」
「振り向かせる以前の問題だな」

 カイザスは、何も言わない。

 ただ、静かに理解していた。

 ――王太子は、敵ではない。
 だが、油断できる相手でもない。

 そしてセドリックは、確信していた。

 ――この黒騎士。
 簡単には、退かない。

 無言の火花は、
 まだ消えていない。

 ただ――
 次に燃える場所を、
 二人とも、オリビアに委ねただけだった。
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