皆様覚悟してくださいませ。偽聖女の義妹から全て取り戻します。今まで受けた仕打ちは倍にしてお返し致します。

くろねこ

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三十

第二王子パトリック視点

――兄がおかしい。ついでに俺もおかしい。

正直に言う。兄上の様子が、おかしい。
セドリック兄上は完璧だ。完璧すぎて、逆に人間味がない。

 剣を振れば勝つ。
 話せば納得させる。
 笑えば場が和む。

なのに最近――ぼーっとしている。

しかも。名前を呼ぶ。女の名前を。

「……オリビア」

いや、誰だよ。

(兄上、女の名前を呟くタイプじゃないだろ……)

 不安にならない弟はいない。
 しかも王太子だぞ。
 国の象徴だぞ。

結果。俺は来てしまった。

ハーベルト公爵邸。

問題の女――
オリビア・ヴェルトリナス・ハーベルトの元へ。



庭に足を踏み入れた瞬間、理解した。

(あ、これ俺、場違いだ)

空気が違う。というか、地面が違う。

 芝が元気すぎる。
 木が近い。
 近いのに怖い。

中心にいた。浮遊クッションにだらけきった姿で。

(だらけてるのに、なんで威圧感あるんだよ)

オリビアは、こちらを見るなり言った。

「……で?」

 え、挨拶なし?王子なんだけど?

「兄のことで来ました」

 言った瞬間、後悔した。オリビアの目が、完全に「またそれか」だった。

「ああ」
「王太子がちょっと自分の人生考え始めちゃった件」

 軽っ。

兄上の悩み、そんな軽いカテゴリ?

「兄上が王太子を降りるかもしれないって……」
「俺は……」

言葉が詰まる。

 オリビアは、頬杖をついた。

「はいはい」
「比べられて育った弟」
「兄が眩しすぎて拗ねた結果、自己評価低下」

 ……ちょっと待て。

「なんで知ってるんですか」

「だいたい顔に書いてあります」

 ぐさっ。

「兄がいなくなったら」
「次は俺が見られるんです」
「俺、兄ほど完璧じゃない」

 言い切った瞬間、胃が痛くなった。

 オリビアは、少し首を傾げる。

「ねえ」

 嫌な予感しかしない。

「あなた」
「兄がいなかったら、何者なんですか?」

 ……え?

 考えたこと、なかった。

「兄上の代わりに……」

「はいストップ」

 即止められた。

「それ、人生じゃない」
「代打です」

 ばっさり。

「あなたね」
 指を一本立てる。
「兄が好きなのは分かる」
「尊敬もしてる」

「でも」
 にこり。
「兄がいないと“自分が分からない”のは重症です」

 心が折れる音がした。

「俺は……どうすれば」

 半泣きで聞いた。

 オリビアは、木を一瞥する。

 ざわり。

 木々が、肯定するように揺れた。

「まず」
「兄と比べるのやめなさい」

「次」
「王になる前提、外しなさい」

「最後」
 真顔。
「自分で選びなさい」

 ……簡単に言うな。

「俺、逃げてませんか」

 オリビアは即答した。

「逃げです」

 うわ。

「でも、正しい逃げもあります。整理してから戻る。それは戦略」

 戦略……?

「兄は」
「あなたが思ってるより」
「あなたを信じてます」

 その一言で、胸がきゅっとした。

「……酷い人ですね」

 絞り出すように言うと、

「褒め言葉として受け取ります」

 即答。ずるい。この人、ずるい。

「兄上に会うの、怖いです」

 正直に言った。

「じゃあ今は会わなくていい」

 軽い。

「兄弟喧嘩って、準備不足でやると致命傷ですから」

 やけに実務的。でも。少し、笑えた。
第二王子は、深く息を吐いた。初めてだ。

 兄と比べず、
 王でもなく、
 ただの自分として話したのは。

「……俺、ちゃんと立てますか」

オリビアは、はっきり言った。

「立てます」

 一拍。

「立たないと、この国、兄が可哀想」

 え、そこ?

 でも――

 それでいい気がした。第二王子は、初めて笑った。ぎこちなく。情けなく。でも、確かに前より軽く。

(兄上)
(俺、逃げるけど)
(ちゃんと戻るからな)

 オリビアは、その背中を見て思った。

(はい)
(これで兄弟、両方育成完了)

 ……王家、難易度高すぎでは?

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