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三十ニ
パトリック、オリビアに論破され人格再構築される回
――第二王子、完全敗北
パトリックは、決意していた。
(今日は、負けない)
兄――セドリックの背中ばかり追いかけてきた人生。比べられて、拗ねて、逃げて、また追いかけて。その繰り返しを、今日こそ終わらせる。
だから来た。
――ハーベルト公爵邸の庭。
オリビアの庭。
木々は今日も青々としている。日差しは柔らかく、風は穏やか。
(……くそ、雰囲気が反論を許さない)
すでに不利な気がするが、気のせいだ。
浮遊クッションに寝転がるオリビアを見つけ、パトリックは咳払いした。
「……その、少し話がある」
オリビアは目も開けない。
「どうぞ」
「三分以内で」
制限付き。だが、パトリックは食い下がる。
「兄上のことだ。最近、様子がおかしい」
ちらり、とオリビアが片目を開ける。
「具体的に」
「王太子としての自覚が――いや、その……立場を軽く考えているというか?」
途中で言葉が迷子になる。
オリビアは、ため息をついた。
「それ、あなたの不安ですよね」
即答。
「え?」
「兄が変わったから困ってるんじゃない。“自分がどうしていいか分からなくなった”だけ」
パトリック、詰まる。
「そ、そんなことは……」
「あります」
きっぱり。
「あなた、兄を“基準”にしすぎ、勝っても負けても、軸が兄」
胸に刺さる。
「兄が上なら劣等感、兄が下がれば不安」
オリビアは、クッションの上で寝返りを打つ。
「どっちに転んでも、あなたは不安定」
「……っ」
「それで、“兄がおかしい”って言葉に逃げてる」
ぐうの音も出ない。パトリックは、反射的に声を荒げた。
「じゃあどうしろって言うんだ!兄がいなきゃ、俺は何なんだ!」
その瞬間。庭の木々が、ざわりと揺れた。だが、威圧ではない。
“聞いてる”だけだ。
オリビアは、ようやく身体を起こし、パトリックを見る。視線が合う。逃げ場は、ない。
「いい質問ですね」
優しい声。
「答えは簡単」
一拍。
「兄がいなくても立っていられる自分を、今から作るだけ」
「簡単じゃないだろ!」
「簡単じゃないですね」
即認める。
「だから、やる価値がある」
パトリックは、頭を抱えた。
「無理だ……」
「兄は王太子だぞ」
「俺は……」
「第二王子」
オリビアが、淡々と言う。
「それ、役職です。人格じゃない」
完全に、トドメ。
「あなた、王になりたいんですか?」
パトリック、即答できない。
「……分からない」
「でしょうね」
オリビアは、満足そうに頷く。
「分からないなら、今は“なりたい自分”を作る段階」
立ち上がり、パトリックの目の前まで来る。
「兄を倒す必要も、追いかける必要もない。あなたは、あなたの人生をやればいい」
静かな声。
「比較をやめなさい。それ、怠慢です」
ぐさり。
「自分で考えるのが怖いから、兄を物差しにしてるだけ」
完全論破。パトリックは、膝をついた。物理的ではない。精神的に。
「……ひどい」
「事実です」
容赦なし。だが、次の言葉は、少しだけ柔らかかった。
「でも」
一拍。
「ここに来たのは、正解」
パトリックが顔を上げる。
「逃げずに来た。兄の名前を使わずに、話をした」
「それ、進歩です」
庭の木々が、さらりと揺れる。肯定。パトリックは、深く息を吐いた。
「……俺、どうしたらいい?」
完全降伏。
オリビアは、にこりと笑った。
「まず、自分の強みを書き出しなさい」
「え?」
「社交力。人の話を聞ける。場を和ませる。全部、兄にはない」
パトリックの目が、見開かれる。
「……それ、強み?」
「はい。国を回すには、必須」
少し意地悪な笑み。
「あなた、案外“王向き”ですよ」
――ぐさり(別方向)。
その日。
第二王子パトリックは、兄と比べるのをやめ、オリビアの庭に通い詰めることを決意した。
そして後日。
王は、報告を聞いて頭を抱えることになる。
「……第二王子が」
「“自分探し”を始めました」
原因は、もちろん。昼寝しながら人格再構築をする、あの公爵令嬢だった。
(続けたら、第二王子の方が先に完成しそうだな…)
――第二王子、完全敗北
パトリックは、決意していた。
(今日は、負けない)
兄――セドリックの背中ばかり追いかけてきた人生。比べられて、拗ねて、逃げて、また追いかけて。その繰り返しを、今日こそ終わらせる。
だから来た。
――ハーベルト公爵邸の庭。
オリビアの庭。
木々は今日も青々としている。日差しは柔らかく、風は穏やか。
(……くそ、雰囲気が反論を許さない)
すでに不利な気がするが、気のせいだ。
浮遊クッションに寝転がるオリビアを見つけ、パトリックは咳払いした。
「……その、少し話がある」
オリビアは目も開けない。
「どうぞ」
「三分以内で」
制限付き。だが、パトリックは食い下がる。
「兄上のことだ。最近、様子がおかしい」
ちらり、とオリビアが片目を開ける。
「具体的に」
「王太子としての自覚が――いや、その……立場を軽く考えているというか?」
途中で言葉が迷子になる。
オリビアは、ため息をついた。
「それ、あなたの不安ですよね」
即答。
「え?」
「兄が変わったから困ってるんじゃない。“自分がどうしていいか分からなくなった”だけ」
パトリック、詰まる。
「そ、そんなことは……」
「あります」
きっぱり。
「あなた、兄を“基準”にしすぎ、勝っても負けても、軸が兄」
胸に刺さる。
「兄が上なら劣等感、兄が下がれば不安」
オリビアは、クッションの上で寝返りを打つ。
「どっちに転んでも、あなたは不安定」
「……っ」
「それで、“兄がおかしい”って言葉に逃げてる」
ぐうの音も出ない。パトリックは、反射的に声を荒げた。
「じゃあどうしろって言うんだ!兄がいなきゃ、俺は何なんだ!」
その瞬間。庭の木々が、ざわりと揺れた。だが、威圧ではない。
“聞いてる”だけだ。
オリビアは、ようやく身体を起こし、パトリックを見る。視線が合う。逃げ場は、ない。
「いい質問ですね」
優しい声。
「答えは簡単」
一拍。
「兄がいなくても立っていられる自分を、今から作るだけ」
「簡単じゃないだろ!」
「簡単じゃないですね」
即認める。
「だから、やる価値がある」
パトリックは、頭を抱えた。
「無理だ……」
「兄は王太子だぞ」
「俺は……」
「第二王子」
オリビアが、淡々と言う。
「それ、役職です。人格じゃない」
完全に、トドメ。
「あなた、王になりたいんですか?」
パトリック、即答できない。
「……分からない」
「でしょうね」
オリビアは、満足そうに頷く。
「分からないなら、今は“なりたい自分”を作る段階」
立ち上がり、パトリックの目の前まで来る。
「兄を倒す必要も、追いかける必要もない。あなたは、あなたの人生をやればいい」
静かな声。
「比較をやめなさい。それ、怠慢です」
ぐさり。
「自分で考えるのが怖いから、兄を物差しにしてるだけ」
完全論破。パトリックは、膝をついた。物理的ではない。精神的に。
「……ひどい」
「事実です」
容赦なし。だが、次の言葉は、少しだけ柔らかかった。
「でも」
一拍。
「ここに来たのは、正解」
パトリックが顔を上げる。
「逃げずに来た。兄の名前を使わずに、話をした」
「それ、進歩です」
庭の木々が、さらりと揺れる。肯定。パトリックは、深く息を吐いた。
「……俺、どうしたらいい?」
完全降伏。
オリビアは、にこりと笑った。
「まず、自分の強みを書き出しなさい」
「え?」
「社交力。人の話を聞ける。場を和ませる。全部、兄にはない」
パトリックの目が、見開かれる。
「……それ、強み?」
「はい。国を回すには、必須」
少し意地悪な笑み。
「あなた、案外“王向き”ですよ」
――ぐさり(別方向)。
その日。
第二王子パトリックは、兄と比べるのをやめ、オリビアの庭に通い詰めることを決意した。
そして後日。
王は、報告を聞いて頭を抱えることになる。
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