皆様覚悟してくださいませ。偽聖女の義妹から全て取り戻します。今まで受けた仕打ちは倍にしてお返し致します。

くろねこ

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三十三

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悪役令嬢、現る

――有力貴族と派閥の女王

 王城に彼女が足を踏み入れた瞬間、社交界の空気が、静かに塗り替えられた。

 ロザリア・フォン・エルヴァイン。

南方最大の穀倉地帯を支配するエルヴァイン侯爵家の長女。王国の食糧流通、港湾輸送、金融の一部を握る――
 「数字で王国を動かす家」の娘。

剣を持たず、魔法も得意ではない。だが、彼女の背後には常に有力貴族の影があった。

 ・南方諸侯連合
 ・穀物商人ギルド
 ・神殿穏健派
 ・第二王子支持派貴族

 彼女が微笑むだけで、いくつもの家が「どちらにつくか」を考え始める。

 それほどの女だった。

 謁見の間。

ロザリアは、深紅のドレスを揺らしながら進み出る。

 その色は、偶然ではない。
 王家の色ではなく、
 「力を誇示する貴族の色」。

扇子で口元を隠し、目だけで場を見渡す。

 ――即座に理解した。

(派閥、割れてる)

 王太子派は沈黙。第二王子派は様子見。
中立貴族は、彼女の一挙一動を値踏みしている。

 ロザリアは、内心で笑った。

(やりやすい)

 そして、パトリックを見る。かつての彼なら、この視線だけで背筋を伸ばし、 「期待に応えなければ」と思っただろう。

 だが――

 今のパトリックは、微妙に違った。

 一瞬、視線を逸らし、それから考えるように、ロザリアを見返す。

(……あら?)

 ロザリアは、わずかに眉を動かした。

 人格が変わっている。

 これは由々しき事態だ。



 ロザリアは、柔らかく告げる。

「殿下」
「長らくお会いできませんでしたわね」

 声音は甘い。
 だが、含意は一つ。

 ――なぜ、私を差し置いて姿を消した?

「最近は、随分と外出が多いとか」

 一拍。

「“ハーベルト公爵邸”へ」

 謁見の間に、わずかなざわめき。

 有力貴族たちの耳が、一斉に立つ。

(食いついたわね)

 ロザリアは、確信する。

 オリビア・ヴェルトリナス・ハーベルト。

 最近、王都で最も厄介な名前。

 ・神殿が扱いきれない
 ・王家が距離を測っている
・貴族が勝手に集まっている

(……無秩序の象徴)

 ロザリアは、穏やかに続ける。

「殿下」
「立場に相応しい交友関係というものがございますわ」

 これは忠告であり、
 同時に――宣戦布告。



 王は、嫌な汗をかいていた。

(来たな……)

 この女は、
 「王家を安定させる」ことに関しては、
 間違いなく優秀だ。

 だが。

 制御できないものを嫌う。

 それは、王家にとって諸刃の剣。



 ロザリアは、謁見後すぐに動いた。

 控えの間で、側近に命じる。

「派閥ごとに整理しなさい」
「誰がハーベルト寄りか」
「誰が中立か」
「誰が、私に取り込めるか」

 指示は、速く、正確。

「オリビア・ヴェルトリナスについては」
 一拍。
「特に丁寧に」

 側近が、慎重に答える。

「……情報が、ほとんどありません」

 ロザリアの目が、細くなる。

「ありません、ですって?」

「屋敷の内部が把握できません」
「使用人も、貴族も」
「皆、口を閉ざしています」

 一瞬の沈黙。

 そして、ロザリアは微笑んだ。

「……面白いわ」

 心からの、楽しそうな笑み。

(潰せない相手は)
(“上書き”するしかない)

 彼女は、確信していた。

 この王都は、
 自分の戦場になる。

 だが――

 まだ知らない。

 オリビアの庭では、
 派閥も、序列も、意味を持たないことを。

 そして、
 その庭に足を踏み入れた者がどうなるかを。



 その頃。

 ハーベルト公爵邸の庭。

 オリビアは、浮遊クッションに沈みながら、
 木々のざわめきを聞いていた。

「……ああ」

 小さく呟く。

「これは、社交界が荒れるわね」

 葉が、さわりと揺れる。

 同意。

「でも」

 オリビアは、目を閉じる。

「派閥の女王様も」
「庭に来るなら、平等よ」

 その声は、淡々としていた。

 ――育成か。
 ――排除か。
 ――それとも、再構築か。

 それを決めるのは、
 彼女ではない。

 庭そのものだ。

 こうして。

 悪役令嬢ロザリア・フォン・エルヴァインは、
 初めて――

 「自分より大きな盤面」が存在することを、
 まだ知らぬまま、歩き出した。
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