CODE:AW 赤き指輪と夢見の魔女

黒咲鮎花

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第三章 赤黒き指輪

代償への覚悟

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 2026年09月01日。15時00分。※残り約9時間。
 UCIA日本支部捜査基地グラウンドベース。食堂。

 結局、昨日の夜はあまり眠れず、ようやく寝付くことが出来たのは朝方だったような気がする。そのせいか、今日は非常に眠い……。

 私の指に嵌められた赤黒い指輪。その輝きは明るく、明らかに当初とは違う光り方をしている。早く願いを唱えろと言っているかのように、その輝きは私の心を怪しく誘惑している……。

 昨晩はずっと考えていた。願いを唱えるべきか、否か……。

『願いを唱えてはなりません。これ以上進めば貴女は確実に闇に呑み込まれる』

 もう既に、片足を突っ込んで抜け出せない状態になっている気はする。思い返せばUCIAへの転属を決めたその瞬間に、深淵が私を覗き始めた気がしてならない……。

 考えれば考えるほど、謎は深まるばかりだ…… 神蔵の事。AW。恐らく全てを把握し動いていると思われる国防総省……。

 UCIAへ配属になって今日で5日目。昨日までの4日間で、わたしはこの世界の裏側を垣間見た気がする。現実であるが、その非現実的な事象…… まるで別世界への入り口に迷い込んでしまったかのような錯覚……。

 わたしは…… どうしたらいいのだろうか…… こうやって悩んでいる間にも、時間は刻一刻と過ぎている。朝霧の言うとおりだとしたら、あと約9時間で指輪は消失し、わたしは願いを叶える事が出来なくなる……。

 神蔵の空白の一年間…… 私はその答えが知りたい。彼に何があったのか、何が彼を変えたのか…… 全ての謎はここに集約されている気がする。

 FBI時代の仲間も、誰一人として神蔵の行方を知らなかったし、またその話題を避けていたかのように思う。遠回しに詮索するなと皆が忠告していた気がするのは、私の思い違いでは無いはずだ。

 CODE:AWについてはFBIやCIAには知らされていない。神蔵はそう言っていた。つまりは神蔵がいた機関はFBIやCIAよりも上位機関と推測できる。配属当初はAWについて半信半疑だった所もあったが、自分が密かに接触を受けていることを考慮すると、AWは確実に実在する。そして世界中で事件を起こしている。つまりこう仮定して間違いでは無い。

 神蔵は、国防総省が直轄すると思われる対AW機関にいた。そして何かしらの作戦で神蔵は彼らと対峙し重傷を負った。

 AWの存在を確信した今、こう考えれば全ての辻褄が合う。

『――姫宮。もし仮にだ。UCIAの海外支部がとある辺境にあって、得体の知れないたった一人の人間に襲撃され、支部が壊滅に追い込まれた…… そんな話があったとしたら今の体制をどう思う?』

 神蔵はこの時人間と言っていたが、違う。襲撃をかけたのはAWだ。その圧倒的な力で対AW機関の施設を壊滅に追いやったのだろう。このグラウンドベースも相当な警備体制が敷かれ、地下深くに存在する理由…… それがやっと腑に落ちた。

 私が今感じている不安や恐怖…… それを思うと、警備はこれでも足りないくらいだ……。

「姫宮さん。午前は作業手伝ってくれてありがとう。助かったよ」

 その時、にこやかに笑いながら葉山が入ってきた。今日の午前中は葉山の資材発注や倉庫の管理などを手伝っていた。といっても私はほぼ何もやることが無かったが……。

「スティーブン!3時のおやつだ。3人分頼む。冷たいジェラートと暖かいティーを用意してくれ」

 奥の厨房にそう頼む葉山。

 UCIAの予算は潤沢だ。施設、装備、環境。何も不満がない。配属当初から気になっていたが、そのテクノロジーも最新、もしくはそれ以上のものが使われているような気がする。UCIA日本支部の正式メンバーは、室長、神蔵、葉山、クリス、そして私の5人。仮にスティーブンを入れたとしてもたった6人だ。この他に警備やその他任務に当たっている特殊部隊やチームがあるが、それらはあくまで外部班という位置づけになっている。

 この極少人数に与えられたこれだけのリソース。つまりそれは対AWへの捜査がそれだけ重要な意味を持っている、と言うことになる。なにより日本の公安警察とも連携しているのだ。この事を考えると、何か裏で世界的に重大な事案が起きようとしているのだろうか……。

「葉山、姫宮。お疲れ様」

 室長がやってきた。3人分というのはそう言うことだった。

「どう? 昨日は羽を伸ばせたかしら?」

 室長が薄らと笑う。

「お気遣いありがとうございます。おかげで良いリフレッシュになりました」

 あくまでクリスの警護、という名の休暇だった。室長の気遣いには感謝している。

「一ヶ月の停職処分については、まあ気にしないようにね。姫宮の判断ミスとは誰も思ってないわ。私も含めてね」

「そうそう。姫宮さんはベストを尽くしたと思う。しかしあの上條とか言う女、酷いことをするね。よりにもよって姫宮さんの顔を平手打ちしたあげく吹き飛ばす勢いで裏拳まで叩き込むとは……」

「その後の手当、ありがとうございました……」

 あの後、医務室で顔の手当をしてくれた葉山。もっとも内出血したわけでは無かったが、顔はしばらく腫れていたように思う。

「まあ素直に殴られるのが姫宮のお人好しなところかしらね。私だったら逆に相手の手首掴んでるけど。

 小さく笑いながら室長はそう言った。

「昔の室長ならそこから逆に関節決めるくらいは最低やりそうだが、丸くなったよな。室長も」

 笑いながら言う葉山。だが室長の目線が鋭く切り替わる。

「あら、あなたに関節決めてメディック(医療班)呼んでも良いのよ? 最近少したるんでいるんじゃ無いかしら。葉山」

 スティーブンが冷たいジェラートと暖かいティーを運んでくる。葉山の表情も凍り付いている。

「し、しかしあの上條と朝霧は、何者なんだい? 公安に圧力をかけられるとなれば、相当な人物と色々繋がっていそうだが……」

「――上條律子。調べによれば、朝霧は上條の実質的な養子ね。両親は交通事故で朝霧が幼稚園の頃に他界している。それから小学校3年生まで朝霧は施設で暮らしてるわ。それから上條が施設から朝霧を引き取ったそうよ。もっとも名字が変わっていない所から、正式な養子では無いようだけどね」

(なるほど。叔母様と言うのはそう言うことだったのか……)

「上條は正社員として霧峰重工に入社後、順調に出世し、とうとう社長秘書にまで登りつめているわ。相当なやり手みたい。実際に上條が社長秘書として就任以来、霧峰重工の業績は上昇傾向にある。新たな軍事関連部門がかなりの業績を上げているようね」

 室長の言葉に葉山も続く。

「まあ規模として本国のLMT社、BA社には敵わないが、日本の霧峰重工を初めとする軍事メーカーは、その先端素材や冶金技術が凄く進んでいる。この国でしか作れない物は数多くある。国内事情からか、ゼロからの発明はとても難しい側面があるのは本当にもったいないよ。人、技術も優れているのに、上がその価値を分からないし、金も出さない。バックアップできないんだからな」

 葉山の言うとおりだ。日本にいた中学、高校の6年間。私はそこでこの国の素晴らしさ、そして占領政策の闇を知った。

 日本人。和を重んじる、その豊かな精神性。どんなに政治が酷くとも、まるで完成された社会主義国家のように、暴動が起きることも無く、皆が優しく道徳を重んじ生きている。私の両親も日本人。その血を継いでいる。

 アメリカ建国以来、本国に対し本気でぶつかってきて脅威を感じたのは日本だけだと皆が言う。真珠湾へ奇襲攻撃を仕掛け、幾多の戦艦が海中に没し、甚大な被害が出た。ミッドウェー海戦で反撃に転じることが出来たが、日本軍の作戦次第では空母艦隊も大打撃を受けた可能性が十分にあった。

 もしもそうなっていれば、ハワイやグアムは日本領になり、今とは大きく違う世界になっていただろう。

 日本人の崇高な精神性。そして高度な技術力。本国が恐れたのはそこだ。だからこそ、その後の占領政策で航空機の製造や研究を禁止させ、徹底的な非軍事化と民主化を推し進めた。そして中国やロシアなどの共産圏への防波堤とする為に占領施策を転換した。第二段階として、経済を大きく復興させる事で、経済及び軍事的植民地とすることに成功したのだ。

 だが、それと同時に韓国や中国、ロシアのスパイも便乗し、数多く暗躍するようになった。それらは教育、メディア、政治へと侵食し、今はもう完全に教育とメディアは外国勢力に乗っ取られた状態だ。

 占領政策、そして日本を狙う者達によって植え付けられた自虐史観……。

 戦争はダメだ…… 核はダメだ…… 軍隊はダメだ…… 戦うことはダメだ……。

 只ひたすらに戦争の恐怖を煽り、戦いを放棄することが平和への道……。

 それをひたすらに、日本国民は浴びせ続けられたのだ……。

『みんなー。良く聞け。姫宮の作文は、再び日本が戦争をできる国にしようと言っているんだ。軍事力を持てば他国を刺激し、結果戦争になる。戦争は怖い。そして悲惨だ。まあ姫宮はアメリカ生まれだから戦争が好きなんだろうが――』

 あの時のことは今でもハッキリ覚えている…… 中学2年生の自由研究で国防の重要性について私なりに研究し作文として発表したが、担任の口から飛び出した心ない言葉…… 本国での同時多発テロを目の前で経験し、あの地獄のような光景が今でも目に焼き付いている私にとって、日本でも同じような事が起こってほしくない。平和を叫ぶだけでは平和を守れない。その想いを綴ったものだったが……。

 その次の日から、私を避けるようになった生徒も少なからずいた……  その中にとても仲の良かった子がいたことは、今でも忘れることが出来ない……。

「……どうしたの姫宮。何か考え事かしら?」

「いえ、すみません…… 今日はちょっと寝不足で…… 昨日クリスとはしゃぎすぎたせいですかね」

「クリスは大喜びだったみたいね。これからもよろしく頼むわ。ああ見えて結構ナイーブなところもあるしね。貴女にはとっても懐いているわ」

「クリスはだ。その分やってることが専門的かつハードワークだからね。僕からもよろしく頼むよ」

「ええ、なんだか年の離れた妹みたいで。私も嬉しいです」

「いやー、イイねイイね。美人姉妹の誕生じゃ無いか」

 微妙にセクハラ感のある葉山の言葉。その時、クリスが食堂にやってきた。

「あ、スティーブンさーん! ジェラート4つおねがいしますー! キャラメルソースたっぷりでー!」

 それをクリスが一人で全部食べることは、私達には暗黙の了解だった……。


 同日。23時32分。 ※残り約30分。
 UCIA日本支部捜査基地グラウンドベース。居住エリア私室。

 あの後は再び17時まで葉山のサポートという雑談係をこなし、その後は射撃訓練、トレーニングと汗を流した。捜査権限を停止され、オペレーションルームへの入室は禁止されている。自分を鍛錬する時間が大きく取れることは幸いだった。

 私は考えた。願いを唱えるか…… そして結論に達したように思う。

 仮に私が願いを叶えなかった場合、この右手に嵌められた禍々しい指輪は恐らく消失し、私自身に危害が及ぶことはしばらく無いだろうと思う。

 だが、もしそうなった場合、AWが次のターゲットに移ることが考えられる。

 □被害者全員が女性である。
 □年齢は15歳以上から20代に限られている。

 この条件に当てはまるUCIAの人間、そう、クリスだ。

 室長の話によればナイーブな一面もあるという。それは私も同感だ。クリスは情報技術に強い反面、デリケートな部分もある。UCIAの中では最年少だ。

 室長、葉山、神蔵、そして私。恐らく精神的な訓練は相応に受けている筈だが、クリスはどうだろうか? 宇宙軍時代の事件、あれが神蔵に聞いたとおりの事件だったとしたら、精神的ストレスに対しての耐性は強くないと推測できる。

 何より、クリスに同じような不安や恐怖は味わってほしくない…… あの子をAWの接触から守る方法。

 それは私が願いを唱え、AWと直接対峙するしかない。

 相手が何故、私に接触してきた理由を考えた……。

 仮にだ。朝霧のように善のAWもいると仮定しても、何故接触してきたのが私なのだろう? 相手の目的がさっぱり分からない。和平的交渉というなら、室長に接触する方が良いはずだ。

 ただ、そもそもの接触理由が、私自身の心の叫びの可能性がある。自然な推測で言えば、と考えるのが正しいのかもしれない。

『神蔵の空白の一年間。何があったのか私は知りたい。それが分からない限り、彼は救われない気がするの。――あなたの力を貸してほしい』

 私がAWだったと仮定して、その心の声が聞こえるのなら、わたしに指輪を授けるだろう。

 AWが夢の中で指輪を授ける目的…… それは何かと考えていた。

 噂話は、全ての人間が不幸な結末を辿っているのでは無い。幸せになったという話もある。

『身の丈に合わない願い事をすると、その代償として魂を奪われてしまう……と、言われています……』

 北條さんの言葉。これが本当だとすると、AWは願いを叶える指輪を授ける事で、相手の心を計っているのだろうか?

 身の丈に合う小さな願い事ならそれを叶え解放し、身の丈に合わない願い事だとしたら、その代償として魂を奪う……。

 そう考えれば、幸せになったという者、不幸になったという者、それが説明できる。身の丈に合わない願い事、その度合いによって代償もまた変わる。願いが大きくなれば大きくなるほど、その代償として魂を差し出さねばならなくなる。つまり死を迎えるのだ。

 ただ、AWがそれを行う理由が、どうしても分からない……。

 私の願い事。それが果たして些細な願い事か、それとも魂を求められるほど大きなものかは、AWの判断次第だが……。

 やるしかない。哲也も、クリスも、葉山も、室長も…… 私の大切な人達を誰も巻き込みたくは無い……。

 そして、助けるのだ。神蔵を。私の大事なあの人を。

 わたしはベットの前に立った。両手を上に掲げ、それをゆっくり目の前へ降ろす。

(どんなやり方かは知らないけど、一般人が巻き込まれているなら儀式的なものは存在しないはず。強く想い、願いを唱える事が出来れば)

 神事を思い出す。二拍一礼。

(願いを叶えし夢見の魔女よ。我の願いを叶え給え。神蔵久宗の過去の姿を、我の両目に照らし給え。願いを叶えし夢見の魔女よ。我の願いを叶え給え)

 心の中で祈る。最後に一礼。

 後はもう、この後どうなるかは天に任せるしかない。私はそのまま、ベットに崩れ落ちた……
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