CODE:AW 赤き指輪と夢見の魔女

黒咲鮎花

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第四章 願いと代償

大いなる力

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 その時、私は目を開けた。

「姫宮! 目を覚ませ姫宮!」

 神蔵の声だ! いつの間にか私は、宙へと浮いた審判に両手で抱きかかえられていた。

「姫宮さん! 目を覚まして下さい!」

 この声は…… 咄嗟にビルの屋上にいる二人を見下ろす。

 神蔵と北條さん…… 神蔵は銃を構え、北條さんはアルサード教会のものと思われる白と紫色の法衣を身に纏っている。その手には蒼い光を放つ十字架が握られていた。

「神蔵! 北條さん!」

 思わず二人の名前を叫ぶ。そして神蔵と目線が合うと、私はそれを信じオーバーヘッドキックのように体を動かし、審判の頭部に蹴りを入れた。見事に意表を突いたのか審判が体勢を崩し、その両手から離れた私は宙を地面に向けて落下する。

(神蔵! アイコンタクト信じてるからね!)
 
 その時、神蔵が雄叫びを上げこちらに手をかざす。すると私の体がまるで宙に浮くかのように落下が止まり、二人の元へ引き寄せられる。そして私は、神蔵の腕の中に抱えられるように、優しく落ちた。

(これは…… どういうこと? まさか念動力サイコキネシス!?)

「大丈夫か姫宮! 言いたいことは山ほどあるが、今はこの状況を乗り切る事が先決だ! 相手は通常クラスのAWじゃない! 北條に従ってこの場から離脱しろ!」

「姫宮さん! 向こうの転移ゲートへ! あの空間を潜れば現実世界へ戻れます! 早急に離脱してください!」

 二人に言われるがまま、私は空間の裂け目のような転移ゲートへ走る。だがゲートをくぐり抜ける瞬間で、そのゲートは忽然と姿を消した。

「そんな! 転移ゲートを掻き消すことなんて出来るはずが……」

 おそらく想定外の事態に、北條さんが驚きの声を上げる。

「そう簡単に逃ガスカ愚か者共め! まあ良い。お前が数多くの同胞を殺してきた魔術師殺しウィザードキラーか。楽には殺さんゾ!」

 審判が神蔵に大槍を振りかざす。だが直撃する瞬間に北條さんが魔方陣のようなものを展開させそれを防御する。目に痛いほどの光と激しい電撃のような衝撃音が辺りに木霊する。

AMGEアンジェの小娘が! 私はお前達がいつも戯れているような雑魚ではないゾ!」
 
 先ほどから審判の声が頭に直接響いている。審判はいつの間にか再び黒い粒子が渦巻くような形態に戻っている。二人の介入にかなり激怒しているようだ。私は腰のホルスターに手をかける。

(……銃が無い!?)

 その時、神蔵が審判の足下に手を伸ばし、それを私の方へ振り払う。

「受け取れ姫宮!」

 地面に落ちていたと思われる私の銃が飛んでくる。私はそれをキャッチすると、素早くマガジンをリロードした。間違いない。神蔵は念動力を自在に操ることが出来る。
 
 私は狙いを定め、トリガーを引く。だが先ほどと同じく、瞬間的に現れる魔方陣で弾丸が全て無効化される。

「光の女神アルサードよ! 我らに加護を与え給え! 天の光と慈愛の火、祈る声よ響け!」

 まるで別人のようだ。戦場を駆ける女神の如きオーラを発しながら、北條さんは力強く詠唱する。私達の体がまばゆい光に包まれ、その瞬間湧き上がる力と明らかに体が軽くなったような気持ちになる。

「いい加減、上から見下ろすのは辞めてもらおうか!」

 神蔵が審判に右手をかざし、地面めがけてその腕を振り下ろす。すると、審判の体が空中から引きずり下ろされるかのように地面に落ちた。だが叩き付けるまでには至っていない。

「北條! AWの防御結界プロテクションフィールドを妨害しろ! やつの動きを封じるんだ!」

「地の女神ガルドマグナよ。哮るその声、その力で全てを封じ給え! 神の力を示し給え!」

 岩石のような幻影が審判の周囲に現れ、詠唱の終了と同時にそれが審判に襲いかかる。

「オモシロイナ貴様ウィザードキラー! ソノ力を何処で手に入れた! 誰だお前の背後にイルノハ!」

 審判が大槍を一振りすると、周りを取り囲んだ岩石の幻影を一瞬にして吹き飛ばす。

「姫宮! 絶対に射線には入るな!」

 神蔵はそう叫ぶと、ホルスターから予備と思われる銃と、手に構えた銃を空中へ投げる。

「姫宮さん! 私の後ろへ! AWの防御結界は長い時間の常時展開は出来ません! 魔力が弱まればその強度も弱まる! 神蔵さんの射撃開始と共に常に一定間隔で射撃してください!」

「当たれ!」

 神蔵が両手を掲げ、次々と審判に向けて繰り出す。そうすると空中で様々な方向に銃が動きながら、審判めがけてその弾丸を発射する。

「行くわよ神蔵!」

 銃声からして神蔵が空中で操っている銃は2丁ともデザートイーグル50AE。装弾数は7発。神蔵も私がカウントしやすいよう、2発ずつの射撃を一定間隔で繰り返している。7回のサイクルが終わったと同時に、狙いを定め射撃を開始する。装弾数は17発。神蔵のリロードまでの時間を稼げればいい。17発全弾を撃つのはダメだ。8発も撃てば神蔵のリロードは完了するはず。

「加勢します!」

 私の射撃と共に、北條さんがその蒼白い光を放つ十字架を審判に向ける。すると甲高い高周波音を発する光の弾が、次々と審判めがけて高速で飛んで行く。明らかに私と神蔵が放っている銃弾よりも強力だ。次々に審判に着弾する光弾。鋭い音が走り小規模な爆発のような現象を起こしている。なんなんだこの力は! 神蔵もそうだが、北條さんから放たれる光のオーラ。彼女の力も完全に常人を逸脱したものだ。

「AMGEの中でもお前の霊力は相当ナモノダナ北條! オモシロイ! 実にオモシロイゾオマエ達! ソロソロ遊びはオワリダ! 我が前にひれ伏すがイイ!」

 審判が雄叫びを上げ始める。まずい!

「何か来る! 北條さん!」

 とっさに叫ぶ。もうそのだけに身を任せている。

「姫宮さん! 神蔵さん! 私の結界の中に!」

 北條さんが印を結び、防御結界を展開させようとする。だが完全に展開するよりも速く審判が動いた。

「滅ビヨ! 神の前にヒレ伏セ! 審判の光雨ジャッジメントライトレイン!」

 甲高い耳をも切り裂くような高周波音と共に、頭上から無数の光の矢が私達めがけて浴びせられるように降ってくる。それらは次々と私達の体を貫き、焼き尽くすような熱さと激痛が体中に襲いかかる。神蔵の苦痛の叫び、北條さんの悲鳴。次々と降り注ぐ光の矢は地面に突き刺さると同時に小規模な爆発を起こし、私達を無残に蹂躙していく……。

 光の矢の雨が次第に止む…… 酷い土煙で周りが見えない…… 体中、血だらけになっている…… 全身が痛すぎて…… 思考が止まりそうだ…… わたしは仰向けに倒れたまま…… その体を動かすことが出来ない……。

「――オマエ達の無力さを思い知ったか。これが本物の現代の魔術師アスファルティックウィザードの力…… 私が本気を出せば、オマエ達を蹂躙すること等、赤子をひねり殺すより容易い。これでも力は抑えたのだぞ」

 次第に土煙が晴れていく…… 目に映る審判の姿。

 審判は、北條さんの首をつかみ、まるで獲物を捕らえたかのように掲げている。

「北條鮎香…… AMGEアンジェの中でも群を抜いてオマエは伸びしろがありそうだ…… オマエの魂の輝きも、また美しい…… アルサードの信仰など捨てよ…… 偽りの神々の手先となるな……」

 北條さんも…… その身に纏った法衣はボロボロになっており、その白い布は血で赤く染まっている…… 防御結界の展開中だった為か、まだかろうじて余力はありそうだが、完全に抵抗力を奪われている。

「――己や仲間が死にそうなときでも、妹の身を案じているとはな…… その責任感、慈愛に満ちた心…… 己を顧みず他者を助けようとする意思…… 素晴らしい。成長次第では我に匹敵する力を得られよう……」

 頭に響く審判の声…… 審判はゆっくりと北條さんを地面へ降ろすと、ゆっくりと倒れている神蔵の元へ浮遊していく。

「サテ…… オマエは数多くの同胞を殺してきた…… 今すぐこの場で生きたまま焼き尽くしたいが…… その前に聞きたい事ガある」

 審判は倒れた神蔵の首を掴み、片手で軽々と持ち上げた。

「オマエ…… 何処でソノ力を手に入れた……? お前が使うその力……タダノ念動力サイコキネシスでないことくらい容易にワカルゾ。私がシリタイノハどうやってその力を使っているカダ。使?」

(どういうこと…… ダメだ…… 苦痛で頭が…… 回らない……)

「お前に…… 教えること等…… 何一つない……」

 神蔵が、その力を振り絞り声を出す…… だが、もうその命が尽きかけようとしている……。

 私ももう…… 体が動かない…… 出血も酷いのか…… 目が霞んできた……。

 何も…… 出来なかった…… わたしは…… 何も……。

「ソウカ…… ここまで強力な精神保護スピリチュアルプロテクトは視たことがない…… まあ良い。どのみちオマエはいずれ裁かなくてはならないと思っていた…… ここで生きながらじっくり焼き尽くしてヤル。幾多の命の炎に焼かれながら、己の行いを気が狂うまで懺悔スルガイイ!」

 やめて…… もうやめて……。

 わたしの大事な人を…… 殺さないで……。

 何でもするから…… 何でもするから……。

 
 わたしの…… わたしの大事な人を殺さないで……!

 
 その時だった。周囲一帯がまばゆい光に包まれる。

 暖かい…… 全ての痛みが緩和されるようで…… それでいて涼しげな風のような……。

 神聖な光、オーラが…… 私達を照らす……。

「そこまでにしてもらいましょう」

   頭の中に声が響く。この声は、何処かで聞き覚えがある……。

 この少し小さく、透き通るような綺麗な声は……。

「……キタカ。イズレ現れると思ってイタゾ。アルサードの救世主メシアよ」

 審判より少し高い位置から、彼女は見下ろしていた。北條さんが纏っていた法衣よりも、明らかに高位と思われる刺繍の施されたそれを身に纏った姿は、地上に舞い降りた救世主を思わせるような神聖な気品を放っている。

「……その力、ミセテモラオウカ!」

 審判を形成する黒い粒子が更に大きくなり、大きく渦を巻くように脈打ち出す。まずい! 先ほど感じた直感よりも比べものにならない!

「死ネ! アルサードの救世主メシア!」

 審判が両手を掲げ、上空に優雅に浮かぶ彼女に向けて、腕を構えた。次の瞬間強烈な光と鼓膜を破るかのような音が発生し、収束した赤と黒のエネルギーが巨大なレーザー砲のように照射される。周囲は凄まじい音と光、暴風が吹き荒れた。

 審判の繰り出した無慈悲かつ強力すぎるエネルギーの照射。直撃を受けた彼女は赤と黒のエネルギーに瞬時と飲み込まれる。

 次第に収束していくエネルギー……。やがて線のように細くなっていくと、その先を見た審判。

「ナンダト…… バカナ…… あの攻撃で無傷だと……?」

 彼女の全身を包む蒼白い光…… 幾多の魔方陣が全身を包み込むように、多重展開しているのが視える。

「もうやめなさい。貴女の力では私に勝てない。貴女の言葉を借りるならば、貴女を蹂躙することなど、私にとっては容易い。今すぐここから出て行きなさい」

 彼女の声が心に響く…… 透き通るその可憐な声……。

「朝霧さん……」

 彼女がゆっくりと降りてくる。彼女はゆっくりと両手を広げると、地面に散らばり倒れた私達を一瞬で一カ所に集めた。途端に空間が入れ替わったようだ。まさか、空間転移まで出来るのか……?

「真由様…… 来て下さったのですね……」

「……遅くなりました。間に合って良かった。北條さん、よく耐えましたね……」

 北條さんを気遣う朝霧。

「――ヨカロウ。今回は退くガ…… オマエは必ず我が元ヘクル。ヒメミヤアサミ。その時を楽しみにシテイルゾ……」

 審判が僅かに一瞬だけ、その美しき姿に戻り、私に怪しく微笑んだ。

 そして急に目の前が霞み…… 全ての音が聞こえなくなった……。
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