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序章
聖域の退魔士
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2026年。混迷する世界情勢の中で、各国の政府は様々な問題に対処する為、策を講じるも有効な手を未だ打てずにいた……。
先進国では少子化が徐々に進み、後進国では人口が増加。やがてそれが移民となり各国に押し寄せ、治安の悪化を初めとする様々な問題を引き起こしていた。
国家の統治能力に陰りが見え始める中、2000年初頭に現れたある宗教がある。
自然を司る配下の四神と共に、この世を創世したと伝えられる光の女神アルサードを信仰する聖アルサード教。
世界的に成功を収めている起業家達が信仰を始めたことから、その信仰の輪は瞬く間に広がり、今では世界四大宗教の1つとして、その名を馳せる事となった。
日々弱者救済のために尽力する教会であるが、その裏では人の心や現世を侵食する闇の使者達と熾烈な戦いを繰り広げている事を人々はまだ知らない。
この物語は、聖女神官直属高位退魔士AMGEに所属する麗しき女学生達の物語である。
2026年8月12日。水曜日。22時25分。
千葉 聖アルサード教会 特別退魔室。
「北條様、儀式の準備が全て整いました」
アルサード教会にある地下聖堂。その一角にここ特別退魔室はある。部屋の中央にある石台へ乗せられた女性は、静かに目を閉じ今は深い眠りについている。その顔色は酷く悪い。首から顔にかけて薄黒く変色しており、それが魂の侵食度合いを現しているかのようだった。
「今から対象に夢幻退魔を行います。アルサード教会退魔規定に基づき、制限時間内に夢幻退魔から私達が帰還しなかった場合、速やかに聖女神官様の指示を仰ぐこと。状況から制限時間は30分と見ています。宜しくお願いします」
周囲の神官達がうなずく。
「結衣花ちゃん。準備は良い?」
「――大丈夫。問題ないよ」
顔色を見る限り、いつも以上に結衣花ちゃんは緊張しているようだ。霊的能力を持たない彼女が夢幻退魔を行うのは、術者である私に命を預けるということだ。それを考えれば緊張するなという方が無理な話だと思う。
私が見つめると、結衣花ちゃんは目を合わせて頷いた。大丈夫。彼女となら今回も無事に成功するはず。夢幻退魔はかなり危険な儀式だけれど、彼女と儀式を行うようになってからは命の危険を感じたことは未だに無い。
選ばれた者として、私はその責務を果たす。大丈夫、私達には女神様の加護がある。
「光の女神に照らされし者よ。その心を開き給え。我は女神に仕えし者。心の闇を祓いし者。聖なる光が闇を浄化し、その心が光の道を歩まんことを」
私の詠唱を復唱する神官達。その後に私と結衣花ちゃんは、瞳を閉じて最後の詠唱に入る。
「――開け光の門。我らをその夢幻へ誘い給え!」
――気がつくと、私達二人は夢幻の中にいた。辺りの空は薄暗く、廃墟のようなビル群が私達を取り囲んでいるようにも見える。今にも闇が周囲を完全に覆いそうだが、いくつかの不気味な発光体がゆっくりと辺りを漂っている。
夢幻退魔。それは対象の精神世界である夢幻へと侵入し、その奥深くにいる闇の根源を払う儀式。夢幻の中で万が一死ぬことがあれば、それは現実世界での死を意味する。
そう。この夢幻の中は、ある意味現実でもあるのだ。
ただ現実世界では原則的に禁止とされている霊力を用いた数々のことが、この夢幻の中では許可されている。この中では現実世界のように周囲への被害を考慮する必要が無いからだ。
「鮎香ちゃん! 下がって!」
真っ黒な形の不確かな霊体がいくつも襲いかかってくる。私は彼女に霊的な加護を付与し、防御態勢を取る。数からして多くはない。結衣花ちゃんなら一瞬で殲滅できる筈だ。
「鮎香ちゃんには指一本触れさせないから!」
彼女はそう力強く言うと、凄まじい勢いで長剣を振りかざしながら黒き霊体を切り払っていく。近接攻撃が出来ない私には、結衣花ちゃんの存在は非常に心強く頼もしくある。
私達は次々と現れる黒き霊体を倒しながら、恐らくこの夢幻の中心部であると思われる廃墟ビルの屋上へと辿り着いた。
「あれだね……」
黒き空にまっすぐに伸びる、赤き光の柱。その光に包まれるように少女が屋上で両膝をつき、天を仰いでいた。私の言葉に結衣花ちゃんが僅かにうなずくと、私達はそのタイミングを見計らい一気に動く。
「結衣花ちゃん、行くよ!」
私は懐から取り出した聖水を対象に向けて浴びせる。瓶から勢いよく噴出した聖水が私の霊力でコントロールされ、様々な方向から対象に襲いかかる。聖水を浴びた対象はうめき声を上げながら、次第に黒い霊体が対象から分離していく。
その隙を逃さないように結衣花ちゃんが走り込み、気を失っている対象を抱き抱えると、直ぐに距離を取ってその安全を確保した。対象から分離した黒い霊体は、次第にその姿を変えおぞましき悪魔のような姿となる。
「この者から去れ! ここはお前がいる場所ではない!」
私はそう叫び、対象に十字架を向けるとその霊力を集中させて魔法の光弾を次々と撃ち込む。相手はかなり怯んでおり、私が攻撃を止めた瞬間に結衣花ちゃんが走り込み、強烈な長剣での斬撃を数回加えた。
「鮎香ちゃん! お願い!」
対象は大きく体勢を崩し、直ぐには動けない様子だった。私はすかさず十字架にその霊力を集中させ、光の弓を顕現させる。
「光の女神アルサードよ。我に力を与え給え。全てを貫く光の矢。全てを燃やす光の矢。今、闇を引き裂き――光の裁きで全てを貫け!」
まばゆい光と共に、十字架を中心に形成された聖弓を力強く引き、狙いを定める。
「チェックメイトよ! 光の聖弓撃!」
先進国では少子化が徐々に進み、後進国では人口が増加。やがてそれが移民となり各国に押し寄せ、治安の悪化を初めとする様々な問題を引き起こしていた。
国家の統治能力に陰りが見え始める中、2000年初頭に現れたある宗教がある。
自然を司る配下の四神と共に、この世を創世したと伝えられる光の女神アルサードを信仰する聖アルサード教。
世界的に成功を収めている起業家達が信仰を始めたことから、その信仰の輪は瞬く間に広がり、今では世界四大宗教の1つとして、その名を馳せる事となった。
日々弱者救済のために尽力する教会であるが、その裏では人の心や現世を侵食する闇の使者達と熾烈な戦いを繰り広げている事を人々はまだ知らない。
この物語は、聖女神官直属高位退魔士AMGEに所属する麗しき女学生達の物語である。
2026年8月12日。水曜日。22時25分。
千葉 聖アルサード教会 特別退魔室。
「北條様、儀式の準備が全て整いました」
アルサード教会にある地下聖堂。その一角にここ特別退魔室はある。部屋の中央にある石台へ乗せられた女性は、静かに目を閉じ今は深い眠りについている。その顔色は酷く悪い。首から顔にかけて薄黒く変色しており、それが魂の侵食度合いを現しているかのようだった。
「今から対象に夢幻退魔を行います。アルサード教会退魔規定に基づき、制限時間内に夢幻退魔から私達が帰還しなかった場合、速やかに聖女神官様の指示を仰ぐこと。状況から制限時間は30分と見ています。宜しくお願いします」
周囲の神官達がうなずく。
「結衣花ちゃん。準備は良い?」
「――大丈夫。問題ないよ」
顔色を見る限り、いつも以上に結衣花ちゃんは緊張しているようだ。霊的能力を持たない彼女が夢幻退魔を行うのは、術者である私に命を預けるということだ。それを考えれば緊張するなという方が無理な話だと思う。
私が見つめると、結衣花ちゃんは目を合わせて頷いた。大丈夫。彼女となら今回も無事に成功するはず。夢幻退魔はかなり危険な儀式だけれど、彼女と儀式を行うようになってからは命の危険を感じたことは未だに無い。
選ばれた者として、私はその責務を果たす。大丈夫、私達には女神様の加護がある。
「光の女神に照らされし者よ。その心を開き給え。我は女神に仕えし者。心の闇を祓いし者。聖なる光が闇を浄化し、その心が光の道を歩まんことを」
私の詠唱を復唱する神官達。その後に私と結衣花ちゃんは、瞳を閉じて最後の詠唱に入る。
「――開け光の門。我らをその夢幻へ誘い給え!」
――気がつくと、私達二人は夢幻の中にいた。辺りの空は薄暗く、廃墟のようなビル群が私達を取り囲んでいるようにも見える。今にも闇が周囲を完全に覆いそうだが、いくつかの不気味な発光体がゆっくりと辺りを漂っている。
夢幻退魔。それは対象の精神世界である夢幻へと侵入し、その奥深くにいる闇の根源を払う儀式。夢幻の中で万が一死ぬことがあれば、それは現実世界での死を意味する。
そう。この夢幻の中は、ある意味現実でもあるのだ。
ただ現実世界では原則的に禁止とされている霊力を用いた数々のことが、この夢幻の中では許可されている。この中では現実世界のように周囲への被害を考慮する必要が無いからだ。
「鮎香ちゃん! 下がって!」
真っ黒な形の不確かな霊体がいくつも襲いかかってくる。私は彼女に霊的な加護を付与し、防御態勢を取る。数からして多くはない。結衣花ちゃんなら一瞬で殲滅できる筈だ。
「鮎香ちゃんには指一本触れさせないから!」
彼女はそう力強く言うと、凄まじい勢いで長剣を振りかざしながら黒き霊体を切り払っていく。近接攻撃が出来ない私には、結衣花ちゃんの存在は非常に心強く頼もしくある。
私達は次々と現れる黒き霊体を倒しながら、恐らくこの夢幻の中心部であると思われる廃墟ビルの屋上へと辿り着いた。
「あれだね……」
黒き空にまっすぐに伸びる、赤き光の柱。その光に包まれるように少女が屋上で両膝をつき、天を仰いでいた。私の言葉に結衣花ちゃんが僅かにうなずくと、私達はそのタイミングを見計らい一気に動く。
「結衣花ちゃん、行くよ!」
私は懐から取り出した聖水を対象に向けて浴びせる。瓶から勢いよく噴出した聖水が私の霊力でコントロールされ、様々な方向から対象に襲いかかる。聖水を浴びた対象はうめき声を上げながら、次第に黒い霊体が対象から分離していく。
その隙を逃さないように結衣花ちゃんが走り込み、気を失っている対象を抱き抱えると、直ぐに距離を取ってその安全を確保した。対象から分離した黒い霊体は、次第にその姿を変えおぞましき悪魔のような姿となる。
「この者から去れ! ここはお前がいる場所ではない!」
私はそう叫び、対象に十字架を向けるとその霊力を集中させて魔法の光弾を次々と撃ち込む。相手はかなり怯んでおり、私が攻撃を止めた瞬間に結衣花ちゃんが走り込み、強烈な長剣での斬撃を数回加えた。
「鮎香ちゃん! お願い!」
対象は大きく体勢を崩し、直ぐには動けない様子だった。私はすかさず十字架にその霊力を集中させ、光の弓を顕現させる。
「光の女神アルサードよ。我に力を与え給え。全てを貫く光の矢。全てを燃やす光の矢。今、闇を引き裂き――光の裁きで全てを貫け!」
まばゆい光と共に、十字架を中心に形成された聖弓を力強く引き、狙いを定める。
「チェックメイトよ! 光の聖弓撃!」
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