アルサードの乙女達 CODE:AW SIDE EPISODE Ⅰ

黒咲鮎花

文字の大きさ
1 / 16
序章

聖域の退魔士

しおりを挟む
 2026年。混迷する世界情勢の中で、各国の政府は様々な問題に対処する為、策を講じるも有効な手を未だ打てずにいた……。
 
 先進国では少子化が徐々に進み、後進国では人口が増加。やがてそれが移民となり各国に押し寄せ、治安の悪化を初めとする様々な問題を引き起こしていた。

 国家の統治能力に陰りが見え始める中、2000年初頭に現れたある宗教がある。

 自然を司る配下の四神と共に、この世を創世したと伝えられる光の女神アルサードを信仰する聖アルサード教。

 世界的に成功を収めている起業家達が信仰を始めたことから、その信仰の輪は瞬く間に広がり、今では世界四大宗教の1つとして、その名を馳せる事となった。

 日々弱者救済のために尽力する教会であるが、その裏では人の心や現世を侵食する闇の使者達ダークフォースと熾烈な戦いを繰り広げている事を人々はまだ知らない。

 この物語は、聖女神官直属高位退魔士AMGEアンジェに所属する麗しき女学生達の物語である。

 
 2026年8月12日。水曜日。22時25分。
 千葉 聖アルサード教会 特別退魔室。
 
北條ほうじょう様、儀式の準備が全て整いました」

 アルサード教会にある地下聖堂。その一角にここ特別退魔室はある。部屋の中央にある石台へ乗せられた女性は、静かに目を閉じ今は深い眠りについている。その顔色は酷く悪い。首から顔にかけて薄黒く変色しており、それが魂の侵食度合いを現しているかのようだった。

「今から対象に夢幻退魔マインドエクソシズムを行います。アルサード教会退魔規定に基づき、制限時間内に夢幻退魔から私達が帰還しなかった場合、速やかに聖女神官様の指示を仰ぐこと。状況から制限時間は30分と見ています。宜しくお願いします」

 周囲の神官達がうなずく。

結衣花ゆいかちゃん。準備は良い?」

「――大丈夫。問題ないよ」

 顔色を見る限り、いつも以上に結衣花ちゃんは緊張しているようだ。霊的能力を持たない彼女が夢幻退魔を行うのは、術者である私に命を預けるということだ。それを考えれば緊張するなという方が無理な話だと思う。

 私が見つめると、結衣花ちゃんは目を合わせて頷いた。大丈夫。彼女となら今回も無事に成功するはず。夢幻退魔はかなり危険な儀式だけれど、彼女と儀式を行うようになってからは命の危険を感じたことは未だに無い。

 選ばれた者として、私はその責務を果たす。大丈夫、私達には女神様の加護がある。

「光の女神に照らされし者よ。その心を開き給え。我は女神に仕えし者。心の闇を祓いし者。聖なる光が闇を浄化し、その心が光の道を歩まんことを」

 私の詠唱を復唱する神官達。その後に私と結衣花ちゃんは、瞳を閉じて最後の詠唱に入る。

「――開け光の門。我らをその夢幻へ誘い給え!」


 ――気がつくと、私達二人は夢幻の中にいた。辺りの空は薄暗く、廃墟のようなビル群が私達を取り囲んでいるようにも見える。今にも闇が周囲を完全に覆いそうだが、いくつかの不気味な発光体がゆっくりと辺りを漂っている。

 夢幻退魔。それは対象の精神世界である夢幻へと侵入し、その奥深くにいる闇の根源を払う儀式。夢幻の中で万が一死ぬことがあれば、それは現実世界での死を意味する。

 そう。この夢幻の中は、ある意味現実でもあるのだ。

 ただ現実世界では原則的に禁止とされている霊力を用いた数々のことが、この夢幻の中では許可されている。この中では現実世界のように周囲への被害を考慮する必要が無いからだ。

鮎香あゆかちゃん! 下がって!」

 真っ黒な形の不確かな霊体がいくつも襲いかかってくる。私は彼女に霊的な加護を付与し、防御態勢を取る。数からして多くはない。結衣花ちゃんなら一瞬で殲滅できる筈だ。

「鮎香ちゃんには指一本触れさせないから!」

 彼女はそう力強く言うと、凄まじい勢いで長剣を振りかざしながら黒き霊体を切り払っていく。近接攻撃が出来ない私には、結衣花ちゃんの存在は非常に心強く頼もしくある。

 私達は次々と現れる黒き霊体を倒しながら、恐らくこの夢幻の中心部であると思われる廃墟ビルの屋上へと辿り着いた。

「あれだね……」

 黒き空にまっすぐに伸びる、赤き光の柱。その光に包まれるように少女が屋上で両膝をつき、天を仰いでいた。私の言葉に結衣花ちゃんが僅かにうなずくと、私達はそのタイミングを見計らい一気に動く。

「結衣花ちゃん、行くよ!」

 私は懐から取り出した聖水を対象に向けて浴びせる。瓶から勢いよく噴出した聖水が私の霊力でコントロールされ、様々な方向から対象に襲いかかる。聖水を浴びた対象はうめき声を上げながら、次第に黒い霊体が対象から分離していく。

 その隙を逃さないように結衣花ちゃんが走り込み、気を失っている対象を抱き抱えると、直ぐに距離を取ってその安全を確保した。対象から分離した黒い霊体は、次第にその姿を変えおぞましき悪魔のような姿となる。

「この者から去れ! ここはお前がいる場所ではない!」
 
 私はそう叫び、対象に十字架を向けるとその霊力を集中させて魔法の光弾を次々と撃ち込む。相手はかなり怯んでおり、私が攻撃を止めた瞬間に結衣花ちゃんが走り込み、強烈な長剣での斬撃を数回加えた。

「鮎香ちゃん! お願い!」

 対象は大きく体勢を崩し、直ぐには動けない様子だった。私はすかさず十字架にその霊力を集中させ、光の弓を顕現させる。

「光の女神アルサードよ。我に力を与え給え。全てを貫く光の矢。全てを燃やす光の矢。今、闇を引き裂き――光の裁きで全てを貫け!」

 まばゆい光と共に、十字架を中心に形成された聖弓を力強く引き、狙いを定める。

「チェックメイトよ! 光の聖弓撃ライトニングスタンエッジ!」

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

二十年以上無視してきた夫が、今さら文通を申し込んできました

小豆缶
恋愛
「お願いです。文通から始めてもらえませんか?」 二十年以上会話もなかった夫――この国の王が、ある日突然そう言ってきた。 第一王妃マリアは、公爵家出身の正妃。だが夫はかつて、寵愛する第三王妃の話のみを信じ、彼女を殴ったことがある。その事件が原因で、マリアは男性恐怖症が悪化して、夫と二人きりでは会話すらできなくなっていた。 それから二十年。 第三王妃はとある事故で亡くなり、夫は反省したらしい。だからといって――今さら夫婦関係をやり直したいと言われても遅すぎる。 なのに王は諦めない。毎日の手紙。花を一輪。夜食の差し入れ。 不器用すぎる求愛に振り回されるうち、マリアの中で止まっていた感情が少しずつ動き始める。 これは、冷えきった政略夫婦が「文通」からやり直す恋の話。 ※本作は「存在されていないことにされていた管理ギフトの少女王宮で真の家族に出会う」のスピンオフですが、単体で読めます。

白い結婚の行方

宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」 そう告げられたのは、まだ十二歳だった。 名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。 愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。 この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。 冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。 誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。 結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。 これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。 偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。 交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。 真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。 ──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?  

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...