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第一章 姉妹の光影
消えた第一位
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いつの頃からだろう…… あらゆる所に漂う七色の粒子を感じるようになったのは……。
「目を閉じるとね。綺麗な光がいっぱい見えるんだ――」
幼稚園の頃だろうか。そんなことを言っているうちに、周りの子達からは不思議がられ、大人からは少しおかしな子と思われていたような気がした。だから小学生に上がってからは、そのようなことは言わなくなった。
そして――小学校高学年の時に、あの事件は起こったのだ……。
それから親戚の家に私と妹の麻由美は預けられたものの……。
ふとそんな遠い昔のことが頭をよぎる。疲れているのだろうか……。
「北條様、霧峰様、表に車を待たせております。今日はゆっくりとお休みくださいませ」
時間はもう24時を過ぎ、日付が変わった。夢幻退魔はかなりの霊力を消費する。そのせいか体にはかなりの疲労感が漂っている。肩も痛い。
「無事に終わって良かった。私も早く――鮎香ちゃんみたいにAMGEの一員として頑張りたいな」
歩きながらそう言って、私を見つめる結衣花ちゃん。
アルサード教会に従い、私が退魔士として密かに活動し始めてもう二年以上…… 結衣花ちゃんとは高等学部一年生の秋から共に退魔を行うようになった。同じクラスメートでもある。
そんな結衣花ちゃんは、今では私の数少ない親友だった。
「結衣花ちゃんも、いつかきっと霊力を扱えようになる。私はそう信じてるよ」
世界的に有名な霧峰重工、その社長の一人娘である結衣花ちゃんは超がつくほどお嬢様。可愛くてスタイルも良く、スポーツ万能で勉強も出来る、はっきり言って何処にも付け入る隙が無い。
ただ、結衣花ちゃんは霊力を使えない。というか霊力が無いと言った方が良いのかもしれない。霊力訓練を受けていない一般人でも多少の霊力はあるとされているけれど、教会にある霊力測定装置での測定では、いつもエラーになるらしい。
そのため、アルサード教会剣術では長剣術クラスA+の実力を持っているにも関わらず、結衣花ちゃんはAMGEに選ばれていない。
その事を、彼女は少し気にしているようだった……。
2026年8月13日。木曜日。0時37分。
千葉 聖アルサード教会 回復施設VERAセンター。
車に乗り込んだ私達は、そのまま教会敷地内の回復施設へと着いた。アルサード教会は大聖堂を中心に、いくつかの施設が敷地内に併設されている。この回復施設であるVERAセンターもその1つだ。
「北條様、霧峰様、今夜はゆっくりとお寛ぎ下さいませ」
エントランスに入り、受付を済ませると私達は奥の温泉へと向かう。この回復施設は温泉に岩盤浴、各種マッサージ等が無料で受けられ、消耗した体力や霊力を癒やすことが出来る。冷たいフルーツドリンクやスイーツ等も提供されており、教会の神官や司祭職、そしてAMGEのような特別職専用の回復施設となっていた。当初は大変驚いたことを覚えている。
「癒やされるなぁ。補佐になる前ここは利用できなかったけど……鮎香ちゃんに感謝だね」
「結衣花ちゃんにはいつも助けてもらってるから、私の方こそ感謝してるよ。結衣花ちゃんみたいに私は剣を振るえないしね……」
二人で温泉に浸かりながらそんな話をする。この露天風呂は天上が開けており、目の前には海が広がっていた。優しい間接照明でライトアップされた周囲の空間。いつ来てもここは癒やされる場所だった。
Alsard Messiah Guardian Exorcist.頭文字を取ってAMGEと呼ばれているそれは、聖女神官直属高位退魔師の総称だ。第一位から第六位まであり、私はAMGE第六位、そして結衣花ちゃんはその補佐に当たる。彼女が補佐になってからは、とても心が安定して職務を行えていると感じる。
「職務ご苦労様。二人とも」
心地よい温泉の湯に軽い眠気を覚えたその時、入り口から聞き覚えのある声がした。
「――上條聖司祭。こんな夜遅くまで、お疲れさまです」
二人で挨拶をする。上條律子聖司祭。アルサード教会の司祭職を束ねる聖司祭の一人。AMGEを創設したのもこの人だ。ただ上條聖司祭の存在を知る人間は極一部に限られている。姿を現すのは重要会議の場のみとされており、教会の広報資料にすらその名は記されていなかった。
「ありがとう。貴女達の退魔もかなりレベルアップしてきましたね。今回は制限時間が短い中よくやり遂げました」
優しく微笑む上條聖司祭。今回の制限時間は30分。対象の状態、そして退魔師にもよるが通常の夢幻退魔は120分の猶予が平均的だ。霊力があり夢幻退魔を行える者が複数いれば猶予時間も増えるが、対象により浸食速度も違う。難しいところだった。
「今回も霧峰さんの力が大きいです。私はあくまで後衛ですし、襲い来る死霊の大半を切り祓ったのは彼女ですから」
彼女が前衛を務めてくれるからこそ、私の本領が発揮できる。霊力を込めた光弾、そして魔法も瞬時に撃ち出す事は出来ない。若干のタイムラグ、詠唱が必要なものもある。
「確かにそうかもしれませんが、霧峰がその剣技を存分に発揮できるのも、貴女の力があってこそ。謙遜は良くありませんよ」
その細い身体に湯を軽く浴びて、上條聖司祭は私達の前で湯に浸った。
「そういえば、他のAMGEの子達とは、普段は交流があるのですか?」
少し声のトーンが低くなる。
「女学院の皆様と同じ敷地ではありますが、稀に見かけるくらいでしょうか…… 以前に何回か蒼依さんとキャンバスで会ったことはあります」
橘蒼依さん。AMGE第二位の女学院四年生。私達の中ではもっとも先輩に当たる人だ。フルートがすごく上手で、お淑やかで物静かな印象を受ける。
「私は、松雪さんと偶に会いますね。キャンバスのベンチで一人お昼をとっている所を目にします」
結衣花ちゃんがそう言った。
「橘と松雪…… 貴女達にはどう見えていますか?」
上條聖司祭の声が一段と低く感じる。松雪彩奈さんはAMGE第三位。女学院では一年生だ。だが教会長剣術、教会魔法戦闘術、共にクラスAの判定を受けた退魔師でもある。その実力は相当に高い。
しかし、性格に難があるというか…… その冷たい表情に当たりの強い口調……。
名家のお嬢様ということもあるだろうが、プライドが高く熱くなると抑えが効かない一面もある。
あの物静かな蒼依さんとは正直合わない。というか、名前を呼び捨てにされている蒼依さんが可哀想に思える事が多々あった……。
「二人の表情を見る限り……上手くは行ってなさそうですね」
上條聖司祭は静かにそう言うと、なにやら考え込んでいる。AMGE第四位、そして第五位は女学院三年生の双子、黒川姉妹がその任に就いている。接点はほぼないが、ショートカットの黒髪が美しい姉妹だ。物静かだが仲の良さそうな姉妹で、妹を持つ私としてはとても羨ましい。
「今後――AMGEの任務は更に厳しくなっていくと予想されます。只でさえ第一位が居ない状態…… 今後はより互いに協力し、絆を強める事が必要ですね」
上條聖司祭は、AMGEの現状を心配しているようだ。静かにそう言うと、なにやら考えを纏めたかのようだ。
AMGE第一位…… 光瀬真理奈さん。
この人が聖女神官である真由様の警護を始めたことが、AMGEが組織されたきっかけと言われている。
光瀬さんは、以前に少しだけ見かけたことがある。とても美しく、結衣花ちゃんのようなモデル体型で、長い黒髪をなびかせ、踊るような剣裁きで高位神官と模擬戦を行っていた。
アルサード教会長剣術、そして魔法術、共にクラスS判定の最も優れた退魔師。それが光瀬真理奈さん。
ただ、今は行方不明となっている……。
その理由は誰も分からず、教会本部も調査をしているらしいが、解決の糸口すら掴めていないらしい。この事は私達にもショックが大きく、暗い影を落としている……。
「――上條聖司祭、光瀬さんの行方は、今も分からないままなのでしょうか?」
以前に少しだけ、蒼依さんから光瀬さんのことを聞いたことがある。と言うのも、蒼依さんは光瀬さんから直々に剣や魔術の指導を受けていた。光瀬さんの事をとても慕っていたらしい。
だから蒼依さんは尚更信じられなかったようだ。あの真理奈さんが、行方不明になる理由が全く分からないと、酷く落ち込んでいたし、それは今も変わらない。蒼依さんがここまで暗くなってしまったのは、間違いなく光瀬さんが居なくなってしまったことが原因にあるだろう。
「光瀬の事は、日々捜査範囲を広げているものの、手がかりとなる情報が掴めずにいます。AMGE 第一位の者が行方不明になるなど常識では考えられない事です。こんなことを言いたくはありませんが、心構えをする時が近いのかも知れません……」
隣の結衣花ちゃんの表情が曇る。行方不明の原因が人的なものなのか、霊界が絡んだものなのかすら、まだ分かっていない。既にかなりの月日が経っているのも事実だ。このままの状況が続けば、捜査が打ち切られるのは近いのかも知れない……。
「――辛い状況が続いていますが、皆もあまり気落ちしないように」
そう言うと、上條聖司祭はゆっくりと温泉から出ていった……。
「ねえ、鮎香ちゃん…… 光瀬さん、何処に行っちゃったんだろうね……」
結衣花ちゃんはとても気落ちしているように見える。もっとも光瀬さんと接点はほぼ無いと思うが、AMGE 第一位は尊敬する存在でもある。まだAMGE ではない結衣花ちゃんには尚更だ。
「光瀬さんの私生活のことは何も分からないけど…… 霊的な何かの事象に巻き込まれた可能性はあると思う……」
言葉ではそう言ったものの、光瀬さんの能力はAMGE の中でも飛び抜けていたと聞く。強力な闇の死者達にも一人で立ち向かうことが出来たらしい。
私も蒼依さんの意見と同じく、ふつうに考えれば行方不明になる理由等見つからないのだ……。
「そろそろ上がろうか。あんまり長湯してると寝ちゃいそう……」
光瀬さんの事は、只の行方不明事件じゃない……。
何も確証が無い状態だけど、不思議とそんな思いが心に残る中、私達は回復施設を後にした。
「目を閉じるとね。綺麗な光がいっぱい見えるんだ――」
幼稚園の頃だろうか。そんなことを言っているうちに、周りの子達からは不思議がられ、大人からは少しおかしな子と思われていたような気がした。だから小学生に上がってからは、そのようなことは言わなくなった。
そして――小学校高学年の時に、あの事件は起こったのだ……。
それから親戚の家に私と妹の麻由美は預けられたものの……。
ふとそんな遠い昔のことが頭をよぎる。疲れているのだろうか……。
「北條様、霧峰様、表に車を待たせております。今日はゆっくりとお休みくださいませ」
時間はもう24時を過ぎ、日付が変わった。夢幻退魔はかなりの霊力を消費する。そのせいか体にはかなりの疲労感が漂っている。肩も痛い。
「無事に終わって良かった。私も早く――鮎香ちゃんみたいにAMGEの一員として頑張りたいな」
歩きながらそう言って、私を見つめる結衣花ちゃん。
アルサード教会に従い、私が退魔士として密かに活動し始めてもう二年以上…… 結衣花ちゃんとは高等学部一年生の秋から共に退魔を行うようになった。同じクラスメートでもある。
そんな結衣花ちゃんは、今では私の数少ない親友だった。
「結衣花ちゃんも、いつかきっと霊力を扱えようになる。私はそう信じてるよ」
世界的に有名な霧峰重工、その社長の一人娘である結衣花ちゃんは超がつくほどお嬢様。可愛くてスタイルも良く、スポーツ万能で勉強も出来る、はっきり言って何処にも付け入る隙が無い。
ただ、結衣花ちゃんは霊力を使えない。というか霊力が無いと言った方が良いのかもしれない。霊力訓練を受けていない一般人でも多少の霊力はあるとされているけれど、教会にある霊力測定装置での測定では、いつもエラーになるらしい。
そのため、アルサード教会剣術では長剣術クラスA+の実力を持っているにも関わらず、結衣花ちゃんはAMGEに選ばれていない。
その事を、彼女は少し気にしているようだった……。
2026年8月13日。木曜日。0時37分。
千葉 聖アルサード教会 回復施設VERAセンター。
車に乗り込んだ私達は、そのまま教会敷地内の回復施設へと着いた。アルサード教会は大聖堂を中心に、いくつかの施設が敷地内に併設されている。この回復施設であるVERAセンターもその1つだ。
「北條様、霧峰様、今夜はゆっくりとお寛ぎ下さいませ」
エントランスに入り、受付を済ませると私達は奥の温泉へと向かう。この回復施設は温泉に岩盤浴、各種マッサージ等が無料で受けられ、消耗した体力や霊力を癒やすことが出来る。冷たいフルーツドリンクやスイーツ等も提供されており、教会の神官や司祭職、そしてAMGEのような特別職専用の回復施設となっていた。当初は大変驚いたことを覚えている。
「癒やされるなぁ。補佐になる前ここは利用できなかったけど……鮎香ちゃんに感謝だね」
「結衣花ちゃんにはいつも助けてもらってるから、私の方こそ感謝してるよ。結衣花ちゃんみたいに私は剣を振るえないしね……」
二人で温泉に浸かりながらそんな話をする。この露天風呂は天上が開けており、目の前には海が広がっていた。優しい間接照明でライトアップされた周囲の空間。いつ来てもここは癒やされる場所だった。
Alsard Messiah Guardian Exorcist.頭文字を取ってAMGEと呼ばれているそれは、聖女神官直属高位退魔師の総称だ。第一位から第六位まであり、私はAMGE第六位、そして結衣花ちゃんはその補佐に当たる。彼女が補佐になってからは、とても心が安定して職務を行えていると感じる。
「職務ご苦労様。二人とも」
心地よい温泉の湯に軽い眠気を覚えたその時、入り口から聞き覚えのある声がした。
「――上條聖司祭。こんな夜遅くまで、お疲れさまです」
二人で挨拶をする。上條律子聖司祭。アルサード教会の司祭職を束ねる聖司祭の一人。AMGEを創設したのもこの人だ。ただ上條聖司祭の存在を知る人間は極一部に限られている。姿を現すのは重要会議の場のみとされており、教会の広報資料にすらその名は記されていなかった。
「ありがとう。貴女達の退魔もかなりレベルアップしてきましたね。今回は制限時間が短い中よくやり遂げました」
優しく微笑む上條聖司祭。今回の制限時間は30分。対象の状態、そして退魔師にもよるが通常の夢幻退魔は120分の猶予が平均的だ。霊力があり夢幻退魔を行える者が複数いれば猶予時間も増えるが、対象により浸食速度も違う。難しいところだった。
「今回も霧峰さんの力が大きいです。私はあくまで後衛ですし、襲い来る死霊の大半を切り祓ったのは彼女ですから」
彼女が前衛を務めてくれるからこそ、私の本領が発揮できる。霊力を込めた光弾、そして魔法も瞬時に撃ち出す事は出来ない。若干のタイムラグ、詠唱が必要なものもある。
「確かにそうかもしれませんが、霧峰がその剣技を存分に発揮できるのも、貴女の力があってこそ。謙遜は良くありませんよ」
その細い身体に湯を軽く浴びて、上條聖司祭は私達の前で湯に浸った。
「そういえば、他のAMGEの子達とは、普段は交流があるのですか?」
少し声のトーンが低くなる。
「女学院の皆様と同じ敷地ではありますが、稀に見かけるくらいでしょうか…… 以前に何回か蒼依さんとキャンバスで会ったことはあります」
橘蒼依さん。AMGE第二位の女学院四年生。私達の中ではもっとも先輩に当たる人だ。フルートがすごく上手で、お淑やかで物静かな印象を受ける。
「私は、松雪さんと偶に会いますね。キャンバスのベンチで一人お昼をとっている所を目にします」
結衣花ちゃんがそう言った。
「橘と松雪…… 貴女達にはどう見えていますか?」
上條聖司祭の声が一段と低く感じる。松雪彩奈さんはAMGE第三位。女学院では一年生だ。だが教会長剣術、教会魔法戦闘術、共にクラスAの判定を受けた退魔師でもある。その実力は相当に高い。
しかし、性格に難があるというか…… その冷たい表情に当たりの強い口調……。
名家のお嬢様ということもあるだろうが、プライドが高く熱くなると抑えが効かない一面もある。
あの物静かな蒼依さんとは正直合わない。というか、名前を呼び捨てにされている蒼依さんが可哀想に思える事が多々あった……。
「二人の表情を見る限り……上手くは行ってなさそうですね」
上條聖司祭は静かにそう言うと、なにやら考え込んでいる。AMGE第四位、そして第五位は女学院三年生の双子、黒川姉妹がその任に就いている。接点はほぼないが、ショートカットの黒髪が美しい姉妹だ。物静かだが仲の良さそうな姉妹で、妹を持つ私としてはとても羨ましい。
「今後――AMGEの任務は更に厳しくなっていくと予想されます。只でさえ第一位が居ない状態…… 今後はより互いに協力し、絆を強める事が必要ですね」
上條聖司祭は、AMGEの現状を心配しているようだ。静かにそう言うと、なにやら考えを纏めたかのようだ。
AMGE第一位…… 光瀬真理奈さん。
この人が聖女神官である真由様の警護を始めたことが、AMGEが組織されたきっかけと言われている。
光瀬さんは、以前に少しだけ見かけたことがある。とても美しく、結衣花ちゃんのようなモデル体型で、長い黒髪をなびかせ、踊るような剣裁きで高位神官と模擬戦を行っていた。
アルサード教会長剣術、そして魔法術、共にクラスS判定の最も優れた退魔師。それが光瀬真理奈さん。
ただ、今は行方不明となっている……。
その理由は誰も分からず、教会本部も調査をしているらしいが、解決の糸口すら掴めていないらしい。この事は私達にもショックが大きく、暗い影を落としている……。
「――上條聖司祭、光瀬さんの行方は、今も分からないままなのでしょうか?」
以前に少しだけ、蒼依さんから光瀬さんのことを聞いたことがある。と言うのも、蒼依さんは光瀬さんから直々に剣や魔術の指導を受けていた。光瀬さんの事をとても慕っていたらしい。
だから蒼依さんは尚更信じられなかったようだ。あの真理奈さんが、行方不明になる理由が全く分からないと、酷く落ち込んでいたし、それは今も変わらない。蒼依さんがここまで暗くなってしまったのは、間違いなく光瀬さんが居なくなってしまったことが原因にあるだろう。
「光瀬の事は、日々捜査範囲を広げているものの、手がかりとなる情報が掴めずにいます。AMGE 第一位の者が行方不明になるなど常識では考えられない事です。こんなことを言いたくはありませんが、心構えをする時が近いのかも知れません……」
隣の結衣花ちゃんの表情が曇る。行方不明の原因が人的なものなのか、霊界が絡んだものなのかすら、まだ分かっていない。既にかなりの月日が経っているのも事実だ。このままの状況が続けば、捜査が打ち切られるのは近いのかも知れない……。
「――辛い状況が続いていますが、皆もあまり気落ちしないように」
そう言うと、上條聖司祭はゆっくりと温泉から出ていった……。
「ねえ、鮎香ちゃん…… 光瀬さん、何処に行っちゃったんだろうね……」
結衣花ちゃんはとても気落ちしているように見える。もっとも光瀬さんと接点はほぼ無いと思うが、AMGE 第一位は尊敬する存在でもある。まだAMGE ではない結衣花ちゃんには尚更だ。
「光瀬さんの私生活のことは何も分からないけど…… 霊的な何かの事象に巻き込まれた可能性はあると思う……」
言葉ではそう言ったものの、光瀬さんの能力はAMGE の中でも飛び抜けていたと聞く。強力な闇の死者達にも一人で立ち向かうことが出来たらしい。
私も蒼依さんの意見と同じく、ふつうに考えれば行方不明になる理由等見つからないのだ……。
「そろそろ上がろうか。あんまり長湯してると寝ちゃいそう……」
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