アルサードの乙女達 CODE:AW SIDE EPISODE Ⅰ

黒咲鮎花

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第一章 姉妹の光影

放課後のカフェ

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 2026年8月13日。木曜日。16時55分。
 千代田区秋葉原 予約制カフェ アンジェリーク 特別個室。
 
 「――そっか。鮎香ちゃん朝から大変だったんだね」

 放課後…… 部室に顔を出し、同級生とチェスに興じた後、私は結衣花ちゃんと秋葉原のカフェに来ていた。

 結衣花ちゃんとは女学院高等学部に入ってから、ずっと同じクラスで今では親友と呼べるくらいに仲が良い。容姿端麗、文武両道と非の打ち所が無く、下級生の憧れの的でもある。毎年のバレンタインデーはいつも大変なことになり、大量の手作りチョコレートが彼女を襲う事になるのだ。

「時間を作れない私が悪いとは思うんだけど……」

 朝から落ち込んでいた私を心配してくれた結衣花ちゃんが、ここアンジェリークに連れてきてくれた。予約制のこのカフェはそのお値段も高めだが、豪華な内装と素敵なゴシックドレスのスタッフが人気のカフェだ。

「鮎香ちゃんは教会での職務もあるし、AMGEの事もあるしね…… 上條聖司祭に相談して休暇を増やしてもらうとかは出来ないのかな?」

「うーん…… 現状のことを考えると、どっちも疎かに出来ないというか……」

 正直、時間が足りない…… AMGEとしての職務も相当な体力と精神力を使う。加えて教会行事での役割も色々と任されている。最初は苦難だったパイプオルガンの練習も、今となってはそれが息抜きと思えるほどだ。大聖堂に響く己の紡ぐ音色に心から癒やされている。

 ただ現状を変えないと、麻由美との仲は回復できない…… なんとか時間を作りたい……。

「上條聖司祭、佐藤聖司祭にも相談してみようと思う」

 私がそう言うと、個室をノックする音と共に黒のゴシックドレスを身に纏った女性スタッフが入ってくる。

「結衣花お嬢様、鮎香お嬢様、お待たせいたしました。アンジェリーク特製ミラクルパフェでございます」

 肩にフランス人形を乗せたその綺麗な女性スタッフは、気高い黒のゴシックファッションが物凄く様になっている。どういう仕組みで肩に乗せてるかは分からないが、とても自然な感じですごいとしか言い様がない。その人形も、品のあるヨーロピアンファッションに着飾られている。

 テーブルの置かれた特製ミラクルパフェは、数人で食べる事が前提のビッグサイズ。様々なフルーツと生クリーム等でデコレーションされた非常に罪深そうなスイーツだ。

「鮎香ちゃんと一緒に食べたかったの。美味しいもの食べて元気だそうね」

 にっこりと笑う結衣花ちゃん。スプーンで頂点部のイチゴを掬うと、それを私の口元に持ってきた。

「あーんして。食べさせてあげる」

「ちょっと…… 流石に恥ずかしいよ」

 と言っても引くはずは無く。私は観念してそのイチゴを食べさせてもらう。味は美味しい。

「学校でもこんな感じでランチ出来ると良いのだけど」

 結衣花ちゃんは上品に笑いながら嬉しそうだ。

「流石にそれは無理だよ。只でさえ結衣花ちゃんのファンから目の敵にされてるんだから私は」

 結衣花ちゃんと高等学部ではほぼ一緒に居る。と言うか結衣花ちゃんがついて回る。校内でその手の人達からは結衣花ちゃんの彼女扱い。ファンの下級生からは誤解と偏見に満ちた手紙。その度に結衣花ちゃんが注意してくれている為か最近は減ったものの、女学院の方まで噂が突き抜けているらしく、今では結衣花ちゃんの正式な婚約者とまで話が広がっている…… 。

 もちろんここは日本だ。同性で結婚できるはずもない。唯一の救いは部活が別と言うことだろうか……。

「――鮎香ちゃんに聞きたかったんだけど、高等学部卒業したら女学院に進むんだよね? その後はどうするの?」

「女学院卒業後は――多分そのまま教会かな……」

 幼き日に交わしたアルサード教会との奉仕契約は29歳まで。その後は自由の身となるものの、教会での職務に私はやりがいを感じているし、信者の方々と交流する事に喜びも感じている。教会へ入信し本当に救われたという人は日々増え続けているし、救いを求める人々へ優しい手を差し伸べたいと常日頃から思っている。

 そんな私にとって、この教会と今の職務は、まさしく天職なのだ。心からそう思える。

「私はね――。色々と考えているんだけど、女学院を卒業したら鮎香ちゃんと一緒に何かビジネスを始めたい」

 にこりと笑いながらそういった結衣花ちゃん。

「――結衣花ちゃん。それ本気?」

「私が冗談でこんな事言うと思う? 二人で世界中を回りながら、色々なものを見て感じてお仕事するの。まあファンドビジネスが主だけど、心配しなくていいよ。潤沢な資金とパイプはスタートまでに用意しておくから」

 確かに結衣花ちゃんならそれが可能と思うけれど、私がいる必要性を感じないような…… と素直に思った。

「――まあ、私は教会での職務にやりがいを感じているしね。結衣花ちゃんのお誘いは嬉しいけど……わたしは多分役に立てないよ」

 そう言って笑いながら誤魔化した。

 その後も二人でたわいもない話をしながら、特製ミラクルパフェをなんとか完食した。流石にお腹いっぱいでしばらく動けそうにもなかったが、あまり遅くなる訳にもいかない。

「鮎香ちゃん、元気出してね。麻由美ちゃんの事も色々と大変だとは思うけど、私は傍でずっと応援してるからね」

 結衣花ちゃんはいつも優しい。どうしてここまで気に入られてるのは分からないけれど、彼女と危険を顧みずに闇を祓ってきたことは事実だ。

 その言葉に、素直に感謝したい。

「ありがとう結衣花ちゃん。今度、麻由美も交えて何処か遊びに行こうね」
 
 店を出た私達。そして結衣花ちゃんを迎えに来た執事の車に乗せられた私は、そのまま帰路についたのだった……。
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