アルサードの乙女達 CODE:AW SIDE EPISODE Ⅰ

黒咲鮎花

文字の大きさ
9 / 16
第二章 アルサードの乙女達

出発の朝

しおりを挟む
 2026年8月25日。火曜日。6時20分。
 品川区 北條宅。

 その日の朝はとても気持ちがよかった。
 いつもより気温が低めなのか、涼しげな風が室内に入り込んでくる。

「お姉ちゃん。朝ご飯出来たよ」

 気持ちが良い理由。というか私は上機嫌だ。

 何故なら、麻由美が珍しく早起きをして、私に朝ご飯を作ってくれたのだ。こんなことが今まであっただろうか。

「いただきます」

 手を合わせて、麻由美が作ってくれた朝食を食べる。焼きたてのパンと卵焼き。それにカップスープ。食後の珈琲まで用意されている。

「お姉ちゃん。ニヤニヤしながら食べないでくれる?」

 テーブルで向かい合って食べる朝食。可愛い麻由美が作ってくれたのだ。嬉しさを隠し通せるはずが無い。シスコンと言われても甘んじて受ける覚悟はあるつもりだ。

「ごめんね――私嬉しくって。そんなにニヤニヤしてるかな?」

「――うん。気持ち悪いくらいに」

 麻由美は呆れたそぶりをしているが、それが本心だとは思いたくない。何だかんだで私のことを心配してくれている。この間倒れた時だって、ずっと側にいてくれた。麻由美が大声で助けを呼んでくれなかったら、正直どうなっていたか分からない。

「でも良かった。お姉ちゃんこれから少しは、時間が出来るんだね」

 麻由美が朝食を作ってくれた理由。それがこの事かもしれない。

 『北條さん。ここの所、貴女には大きな負担をかけすぎていましたね。助司祭としての職務は少し減らすよう調整する予定です』

 上條聖司祭の言葉。助司祭を含む司祭の職務は佐藤聖司祭が取り仕切っている筈だが、恐らく働きかけると言うことなのだろう。

 佐藤聖司祭は私達姉妹を救ってくれた心優しき聖司祭だ。少し申し訳ない気もするが、今度改めて謝罪と感謝を述べに行こう。

「うん。最近ろくに家にいなかったから…… 麻由美に心配かけてごめんね。お姉ちゃん反省してるよ」

「まあお仕事だからしょうがないところもあるけど、あんまり無理して倒れられたら困るからね」

 少し意地悪を言うような麻由美。でもその表情は何処か嬉しそうだ。


 朝食を食べて、わたしは出発の準備をしていた。二泊三日の長野旅行。キャリーケースに詰めた着替えや小物などのチェックをしている中、麻由美が部屋に入ってきた。

「お姉ちゃん何着ていくの? ってまたこんな暑そうな服ばっかり。だからお姉ちゃん熱中症で倒れるんだって」

 キャリーケースに詰めた洋服を次々と引っ張りダメ出しをする麻由美。

「ちょっと麻由美。せっかく綺麗に入れたのに……」

「お姉ちゃんも年頃の女の子なんだからさぁ。もっと可愛さ意識しようよ」

 麻由美はそう言っていったん自室に戻ると、すぐに色々な洋服をもって戻ってきた。

「お姉ちゃん、着替えよっか。たまには足出してセクシーに行こう」

「ちょっと! そんな股下短いショートパンツなんて穿けないよ! スカートもそんなマイクロミニ穿いた事なんて……」

「いいからいいから!」

 無理矢理ロングスカートを脱がされた私は麻由美の言うままに着替えさせられ……。

 気がついたときには、普段とは違う自分が全身鏡の前に立っていた。

「おー、お姉ちゃん可愛いよ。ボトム変えてカーデガン羽織るだけで全然いける」

 インディゴブルーのマイクロデニムショートパンツに、半袖のブラウス。それにシースルーのカーディガン。確かにこれだと涼しそうだけど、下半身がもの凄く恥ずかしい。ショートパンツもきつめだ。

「恥ずかしい……。こんなの穿いて外なんて出られないよ」

「最初だけだよ。そのうち気にならなくなるから。お姉ちゃんも足綺麗なんだからさ」

 と麻由美は言うものの、やはり気乗りがしない。

「ごめん。お姉ちゃんは麻由美みたいに足長くないし……」

 と、脱ごうとしたとき……。

「……せっかく、お姉ちゃんに似合うと思って買ったやつなのに……」

 麻由美が俯いて黙り込んでしまう。そんな姿を見た私は思わず謝ってしまう。

「ごめん。ごめんね麻由美…… 私の為に買ってくれたなんて知らなくて……」
 
 と、ここで失言に気づいた。

「じゃあお姉ちゃん。ちゃんと着てくれるよね? 麻由美のプレゼント着てくれるよね?」

 若干かがんでの上目遣い…… ダメだ。麻由美にやられた。

「う、うん…… じゃあ、これ着ていくね……」

 そして私は、麻由美に笑顔で送り出されながら、家を出た。

(こんな格好初めてだよ…… たしかに、可愛いんだけど……)

 デザインが素敵なブラウスのおかげでギャル感は減っているものの、真っ白な太股をこんなに露わにしたのは初めてだった。そんなことを思いながら、私は迎えの車で教会へ向かったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

二十年以上無視してきた夫が、今さら文通を申し込んできました

小豆缶
恋愛
「お願いです。文通から始めてもらえませんか?」 二十年以上会話もなかった夫――この国の王が、ある日突然そう言ってきた。 第一王妃マリアは、公爵家出身の正妃。だが夫はかつて、寵愛する第三王妃の話のみを信じ、彼女を殴ったことがある。その事件が原因で、マリアは男性恐怖症が悪化して、夫と二人きりでは会話すらできなくなっていた。 それから二十年。 第三王妃はとある事故で亡くなり、夫は反省したらしい。だからといって――今さら夫婦関係をやり直したいと言われても遅すぎる。 なのに王は諦めない。毎日の手紙。花を一輪。夜食の差し入れ。 不器用すぎる求愛に振り回されるうち、マリアの中で止まっていた感情が少しずつ動き始める。 これは、冷えきった政略夫婦が「文通」からやり直す恋の話。 ※本作は「存在されていないことにされていた管理ギフトの少女王宮で真の家族に出会う」のスピンオフですが、単体で読めます。

白い結婚の行方

宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」 そう告げられたのは、まだ十二歳だった。 名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。 愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。 この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。 冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。 誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。 結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。 これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。 偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。 交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。 真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。 ──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?  

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...