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第二章 アルサードの乙女達
出発の朝
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2026年8月25日。火曜日。6時20分。
品川区 北條宅。
その日の朝はとても気持ちがよかった。
いつもより気温が低めなのか、涼しげな風が室内に入り込んでくる。
「お姉ちゃん。朝ご飯出来たよ」
気持ちが良い理由。というか私は上機嫌だ。
何故なら、麻由美が珍しく早起きをして、私に朝ご飯を作ってくれたのだ。こんなことが今まであっただろうか。
「いただきます」
手を合わせて、麻由美が作ってくれた朝食を食べる。焼きたてのパンと卵焼き。それにカップスープ。食後の珈琲まで用意されている。
「お姉ちゃん。ニヤニヤしながら食べないでくれる?」
テーブルで向かい合って食べる朝食。可愛い麻由美が作ってくれたのだ。嬉しさを隠し通せるはずが無い。シスコンと言われても甘んじて受ける覚悟はあるつもりだ。
「ごめんね――私嬉しくって。そんなにニヤニヤしてるかな?」
「――うん。気持ち悪いくらいに」
麻由美は呆れたそぶりをしているが、それが本心だとは思いたくない。何だかんだで私のことを心配してくれている。この間倒れた時だって、ずっと側にいてくれた。麻由美が大声で助けを呼んでくれなかったら、正直どうなっていたか分からない。
「でも良かった。お姉ちゃんこれから少しは、時間が出来るんだね」
麻由美が朝食を作ってくれた理由。それがこの事かもしれない。
『北條さん。ここの所、貴女には大きな負担をかけすぎていましたね。助司祭としての職務は少し減らすよう調整する予定です』
上條聖司祭の言葉。助司祭を含む司祭の職務は佐藤聖司祭が取り仕切っている筈だが、恐らく働きかけると言うことなのだろう。
佐藤聖司祭は私達姉妹を救ってくれた心優しき聖司祭だ。少し申し訳ない気もするが、今度改めて謝罪と感謝を述べに行こう。
「うん。最近ろくに家にいなかったから…… 麻由美に心配かけてごめんね。お姉ちゃん反省してるよ」
「まあお仕事だからしょうがないところもあるけど、あんまり無理して倒れられたら困るからね」
少し意地悪を言うような麻由美。でもその表情は何処か嬉しそうだ。
朝食を食べて、わたしは出発の準備をしていた。二泊三日の長野旅行。キャリーケースに詰めた着替えや小物などのチェックをしている中、麻由美が部屋に入ってきた。
「お姉ちゃん何着ていくの? ってまたこんな暑そうな服ばっかり。だからお姉ちゃん熱中症で倒れるんだって」
キャリーケースに詰めた洋服を次々と引っ張りダメ出しをする麻由美。
「ちょっと麻由美。せっかく綺麗に入れたのに……」
「お姉ちゃんも年頃の女の子なんだからさぁ。もっと可愛さ意識しようよ」
麻由美はそう言っていったん自室に戻ると、すぐに色々な洋服をもって戻ってきた。
「お姉ちゃん、着替えよっか。たまには足出してセクシーに行こう」
「ちょっと! そんな股下短いショートパンツなんて穿けないよ! スカートもそんなマイクロミニ穿いた事なんて……」
「いいからいいから!」
無理矢理ロングスカートを脱がされた私は麻由美の言うままに着替えさせられ……。
気がついたときには、普段とは違う自分が全身鏡の前に立っていた。
「おー、お姉ちゃん可愛いよ。ボトム変えてカーデガン羽織るだけで全然いける」
インディゴブルーのマイクロデニムショートパンツに、半袖のブラウス。それにシースルーのカーディガン。確かにこれだと涼しそうだけど、下半身がもの凄く恥ずかしい。ショートパンツもきつめだ。
「恥ずかしい……。こんなの穿いて外なんて出られないよ」
「最初だけだよ。そのうち気にならなくなるから。お姉ちゃんも足綺麗なんだからさ」
と麻由美は言うものの、やはり気乗りがしない。
「ごめん。お姉ちゃんは麻由美みたいに足長くないし……」
と、脱ごうとしたとき……。
「……せっかく、お姉ちゃんに似合うと思って買ったやつなのに……」
麻由美が俯いて黙り込んでしまう。そんな姿を見た私は思わず謝ってしまう。
「ごめん。ごめんね麻由美…… 私の為に買ってくれたなんて知らなくて……」
と、ここで失言に気づいた。
「じゃあお姉ちゃん。ちゃんと着てくれるよね? 麻由美のプレゼント着てくれるよね?」
若干かがんでの上目遣い…… ダメだ。麻由美にやられた。
「う、うん…… じゃあ、これ着ていくね……」
そして私は、麻由美に笑顔で送り出されながら、家を出た。
(こんな格好初めてだよ…… たしかに、可愛いんだけど……)
デザインが素敵なブラウスのおかげでギャル感は減っているものの、真っ白な太股をこんなに露わにしたのは初めてだった。そんなことを思いながら、私は迎えの車で教会へ向かったのだった。
品川区 北條宅。
その日の朝はとても気持ちがよかった。
いつもより気温が低めなのか、涼しげな風が室内に入り込んでくる。
「お姉ちゃん。朝ご飯出来たよ」
気持ちが良い理由。というか私は上機嫌だ。
何故なら、麻由美が珍しく早起きをして、私に朝ご飯を作ってくれたのだ。こんなことが今まであっただろうか。
「いただきます」
手を合わせて、麻由美が作ってくれた朝食を食べる。焼きたてのパンと卵焼き。それにカップスープ。食後の珈琲まで用意されている。
「お姉ちゃん。ニヤニヤしながら食べないでくれる?」
テーブルで向かい合って食べる朝食。可愛い麻由美が作ってくれたのだ。嬉しさを隠し通せるはずが無い。シスコンと言われても甘んじて受ける覚悟はあるつもりだ。
「ごめんね――私嬉しくって。そんなにニヤニヤしてるかな?」
「――うん。気持ち悪いくらいに」
麻由美は呆れたそぶりをしているが、それが本心だとは思いたくない。何だかんだで私のことを心配してくれている。この間倒れた時だって、ずっと側にいてくれた。麻由美が大声で助けを呼んでくれなかったら、正直どうなっていたか分からない。
「でも良かった。お姉ちゃんこれから少しは、時間が出来るんだね」
麻由美が朝食を作ってくれた理由。それがこの事かもしれない。
『北條さん。ここの所、貴女には大きな負担をかけすぎていましたね。助司祭としての職務は少し減らすよう調整する予定です』
上條聖司祭の言葉。助司祭を含む司祭の職務は佐藤聖司祭が取り仕切っている筈だが、恐らく働きかけると言うことなのだろう。
佐藤聖司祭は私達姉妹を救ってくれた心優しき聖司祭だ。少し申し訳ない気もするが、今度改めて謝罪と感謝を述べに行こう。
「うん。最近ろくに家にいなかったから…… 麻由美に心配かけてごめんね。お姉ちゃん反省してるよ」
「まあお仕事だからしょうがないところもあるけど、あんまり無理して倒れられたら困るからね」
少し意地悪を言うような麻由美。でもその表情は何処か嬉しそうだ。
朝食を食べて、わたしは出発の準備をしていた。二泊三日の長野旅行。キャリーケースに詰めた着替えや小物などのチェックをしている中、麻由美が部屋に入ってきた。
「お姉ちゃん何着ていくの? ってまたこんな暑そうな服ばっかり。だからお姉ちゃん熱中症で倒れるんだって」
キャリーケースに詰めた洋服を次々と引っ張りダメ出しをする麻由美。
「ちょっと麻由美。せっかく綺麗に入れたのに……」
「お姉ちゃんも年頃の女の子なんだからさぁ。もっと可愛さ意識しようよ」
麻由美はそう言っていったん自室に戻ると、すぐに色々な洋服をもって戻ってきた。
「お姉ちゃん、着替えよっか。たまには足出してセクシーに行こう」
「ちょっと! そんな股下短いショートパンツなんて穿けないよ! スカートもそんなマイクロミニ穿いた事なんて……」
「いいからいいから!」
無理矢理ロングスカートを脱がされた私は麻由美の言うままに着替えさせられ……。
気がついたときには、普段とは違う自分が全身鏡の前に立っていた。
「おー、お姉ちゃん可愛いよ。ボトム変えてカーデガン羽織るだけで全然いける」
インディゴブルーのマイクロデニムショートパンツに、半袖のブラウス。それにシースルーのカーディガン。確かにこれだと涼しそうだけど、下半身がもの凄く恥ずかしい。ショートパンツもきつめだ。
「恥ずかしい……。こんなの穿いて外なんて出られないよ」
「最初だけだよ。そのうち気にならなくなるから。お姉ちゃんも足綺麗なんだからさ」
と麻由美は言うものの、やはり気乗りがしない。
「ごめん。お姉ちゃんは麻由美みたいに足長くないし……」
と、脱ごうとしたとき……。
「……せっかく、お姉ちゃんに似合うと思って買ったやつなのに……」
麻由美が俯いて黙り込んでしまう。そんな姿を見た私は思わず謝ってしまう。
「ごめん。ごめんね麻由美…… 私の為に買ってくれたなんて知らなくて……」
と、ここで失言に気づいた。
「じゃあお姉ちゃん。ちゃんと着てくれるよね? 麻由美のプレゼント着てくれるよね?」
若干かがんでの上目遣い…… ダメだ。麻由美にやられた。
「う、うん…… じゃあ、これ着ていくね……」
そして私は、麻由美に笑顔で送り出されながら、家を出た。
(こんな格好初めてだよ…… たしかに、可愛いんだけど……)
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