古い日記から飛び出したアラサーおばけに恋なんて ~君に触れたい~

星野 未来

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【 エピローグ: 君と共に 】

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 そして、僕の腕の中にいた彼女は、雲のようにどこかへ逝ってしまった。
 抱きしめていた手が、無情にも重力と共に自分の膝の上に落ちていく。

 これで、君を永遠に感じることができなくなった……。

「の、希さん……。希さん、ありがとう……。本当に、ありがとう……」

 誰もいなくなったリビングの床に座り込みながら、溢れ出る涙をレンズにするように、目を開いたまま自分のズボンをギュッと握っている。
 涙が止まらない……。

 あの時、確かに僕たちは感じ合った。
 そして、愛し合ったんだ……。


 ――その時、どこからともなく、「ふわっ」っと、風が吹いた気がした。
 それは、窓を開けていないと、あり得ないこと。

 でも、そのやさしい風は、床に落ちていたあの日記の最終ページを偶然にも捲ったんだ。


『パラパラッ……』


 涙目の僕は、不思議にその日記に目がいく。
 そして、そこには何故だか、希さんの綺麗な字で、こう綴ってあった。


『さようなら。これは私からの最後のプレゼントです。受け取って下さい』


 僕は希さんから沢山のプレゼントをもらった。
 その意味は分からなかったが、これは、希さんが最後に天国から、この日記に書き足したものなんじゃないかと思う。

「さようなら……。希さん……」


 そう僕が口にした瞬間、スマホに一本の電話が入った。
 僕は一度、服で涙を拭うと、その電話に出る。


「はい。相場ですが」
「おめでとうございます。相場さん、無事女の子の赤ちゃんが生まれましたよ」
「えっ? 生まれたんですか……?」
「はい。ほんの今しがた、元気な女の赤ちゃんが生まれました。すごく元気ですよ」


 その時、彼女が日記の最後に書き足した意味がやっと理解できた。
 彼女からの最後のプレゼント。

 それは、このことだったんだと思う。

 僕は走りながら、そんなことを考えていた。
 急いで病院へ駆けつけると、妻も赤ちゃんも、無事で、元気な様子だ。

「ご苦労さん。大変だっただろう」
「ううん。そうでもなかった。不思議と、とっても安産だったわ」

「そうか、それは良かった。一緒に居てやれなくてごめんよ」
「大丈夫。それよりも、生まれた子、男の子だと思っていたけど、女の子だったわ」

 妻は子供を出産したばかりなのに、何故か疲れた様子もなく、とても元気そうだ。
 生まれてきた子供も、とてもかわいらしく元気に見える。

「ああ、元気そうな女の子だ」
「あなた、この子の名前はどうしようか?」

 この子、生まれてすぐなのに、何故か笑っている。
 頬には小さな笑窪があるように思う。

「ん? 名前ね。もう、決まってるよ。家で書いて来たんだ」

 そう言って、僕は家で書いてきたあのノートを鞄から出した。
 妻は、そのノートを見て、ちょっと驚いているようだ。

「随分古そうなノートに書いてきたのね」
「ああ、大事な思い出のノートなんだ」

「物持ちがいいのね。ふふふっ……。それで、何て名前書いたの?」

 僕はその古いノートの日記の最後のページを1枚捲り、その真っ白になっているページに一文字だけ書かれたあの人の名前を呟いた。


「『希(のぞみ)』」


「希ちゃんか。いい名前ね」
「だろう」


「希望を持てる、とっても明るく元気な女の子だからね……」



「おぎゃー、おぎゃー、おぎゃー……」


 この子は、僕が死ぬまで、ずっと、永遠に大切に育てる……。

 もうずっと、君に触れることができる……。

 これから先、何年も、何十年も、ずっと君と共に生きてゆける……。


 彼女の瞳から零れた涙をそっと指で拭い、彼女の赤く染まった頬をやさしく包み込むと、彼女は小さな笑窪を作り、僕に笑ってくれた。


「バブバブバブ……」



(おかえりなさい……、希さん……)




END


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