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【 エピローグ: 君と共に 】
しおりを挟むそして、僕の腕の中にいた彼女は、雲のようにどこかへ逝ってしまった。
抱きしめていた手が、無情にも重力と共に自分の膝の上に落ちていく。
これで、君を永遠に感じることができなくなった……。
「の、希さん……。希さん、ありがとう……。本当に、ありがとう……」
誰もいなくなったリビングの床に座り込みながら、溢れ出る涙をレンズにするように、目を開いたまま自分のズボンをギュッと握っている。
涙が止まらない……。
あの時、確かに僕たちは感じ合った。
そして、愛し合ったんだ……。
――その時、どこからともなく、「ふわっ」っと、風が吹いた気がした。
それは、窓を開けていないと、あり得ないこと。
でも、そのやさしい風は、床に落ちていたあの日記の最終ページを偶然にも捲ったんだ。
『パラパラッ……』
涙目の僕は、不思議にその日記に目がいく。
そして、そこには何故だか、希さんの綺麗な字で、こう綴ってあった。
『さようなら。これは私からの最後のプレゼントです。受け取って下さい』
僕は希さんから沢山のプレゼントをもらった。
その意味は分からなかったが、これは、希さんが最後に天国から、この日記に書き足したものなんじゃないかと思う。
「さようなら……。希さん……」
そう僕が口にした瞬間、スマホに一本の電話が入った。
僕は一度、服で涙を拭うと、その電話に出る。
「はい。相場ですが」
「おめでとうございます。相場さん、無事女の子の赤ちゃんが生まれましたよ」
「えっ? 生まれたんですか……?」
「はい。ほんの今しがた、元気な女の赤ちゃんが生まれました。すごく元気ですよ」
その時、彼女が日記の最後に書き足した意味がやっと理解できた。
彼女からの最後のプレゼント。
それは、このことだったんだと思う。
僕は走りながら、そんなことを考えていた。
急いで病院へ駆けつけると、妻も赤ちゃんも、無事で、元気な様子だ。
「ご苦労さん。大変だっただろう」
「ううん。そうでもなかった。不思議と、とっても安産だったわ」
「そうか、それは良かった。一緒に居てやれなくてごめんよ」
「大丈夫。それよりも、生まれた子、男の子だと思っていたけど、女の子だったわ」
妻は子供を出産したばかりなのに、何故か疲れた様子もなく、とても元気そうだ。
生まれてきた子供も、とてもかわいらしく元気に見える。
「ああ、元気そうな女の子だ」
「あなた、この子の名前はどうしようか?」
この子、生まれてすぐなのに、何故か笑っている。
頬には小さな笑窪があるように思う。
「ん? 名前ね。もう、決まってるよ。家で書いて来たんだ」
そう言って、僕は家で書いてきたあのノートを鞄から出した。
妻は、そのノートを見て、ちょっと驚いているようだ。
「随分古そうなノートに書いてきたのね」
「ああ、大事な思い出のノートなんだ」
「物持ちがいいのね。ふふふっ……。それで、何て名前書いたの?」
僕はその古いノートの日記の最後のページを1枚捲り、その真っ白になっているページに一文字だけ書かれたあの人の名前を呟いた。
「『希(のぞみ)』」
「希ちゃんか。いい名前ね」
「だろう」
「希望を持てる、とっても明るく元気な女の子だからね……」
「おぎゃー、おぎゃー、おぎゃー……」
この子は、僕が死ぬまで、ずっと、永遠に大切に育てる……。
もうずっと、君に触れることができる……。
これから先、何年も、何十年も、ずっと君と共に生きてゆける……。
彼女の瞳から零れた涙をそっと指で拭い、彼女の赤く染まった頬をやさしく包み込むと、彼女は小さな笑窪を作り、僕に笑ってくれた。
「バブバブバブ……」
(おかえりなさい……、希さん……)
END
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