ぼくらのファーストキスは錆の味がした

あびこわく

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上杉と武田

02

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「武田くんやんな? クラスメイトの」
「ああ、転校生の……何? 迷子?」
「いや、流石にないわ。一人で何してんの?」
「読書。教室だと何読んでるか聞かれるのが嫌だから一人でここにいるだけだよ」
「ふーん……」
 思ったよりもハッキリとした物言いを武田はした。口の割には嫌な顔はしていない。
 上杉は武田の横に来るとストンと腰を下ろした。
 隣に座られると思いもしなかった武田はキョトンとした顔で上杉を見る。
「なら、何も聞かんから一緒におってもいい? 教室おると絡まれてウザイねん」
 上杉の言葉に武田は眉をひそめた。
「それは君に好意を持って話しかけてくれる人に失礼なんじゃないかな」
「好意ちゃうやろ興味や。合えへんもんに合わすん疲れんねんで?」
 上杉は欠伸をして体を伸ばした。膝を抱えると武田にかまわず顔を伏せる。
「……上杉くん?」
「ちょっと寝るから起こしてな?」
「えっ?」
 そのまま寝る体勢になった上杉を武田は戸惑った様子で覗き込む。
「……仕方ないな」
 武田は小さくため息をつくと再び本を取り出して読書に戻った。

 武田から上杉が揺り起こされたのは五限目の始まる十分前だった。
 すっかり熟睡していた上杉はまだ眠たい目を擦り欠伸をする。
 武田は様子を窺いながら上杉に尋ねた。
「上杉くん、そう言えば昼ご飯食べたの?」
「ええねん。食べるんより寝る方が大事や」
「……ああ。君、それでそんな細いんだ」
「は? 自分とそんな変わらんやろ?」
 立ち上がると上杉はパタパタと埃を払った。
 武田は鞄から紙パックのジュースを取り出すと上杉に手渡した。
「食べなくても何か飲んだ方がいいよ。糖分取らないと頭が回らないだろ」
「何や武田くんええ奴やん」
「授業始まるよ。教室戻ろう」
 武田も立ち上がり埃を払うと二人して教室へ向かった。上杉は紙パックのジュースを啜りながら武田の後ろを歩いた。
 姿勢良く歩く武田の姿はだらし無い自分と違いすぎて上杉は隣を歩くのに気後れした。
 シャツの裾をキチンとしまったくらいでは上杉は優等生に見えそうに無い。
それでも武田とは話しやすくて上杉は不思議な気持ちがした。

 ジュースを半分まで啜ると上杉は武田に突き返した。
「武田くん、もう要らんからジュースの残りあげるわ」
「えっ?」
「もしかして潔癖症?」
「いや、違うけど……」
「ん、早よ取ってや」
「……ありがとう」
 腑に落ちない顔で紙パックのジュースを受け取ると武田は渋々ストローを口に咥えた。
 あげたはずの物をあげ返された。よく分からない。
 
 教室に入ると上杉を見て派手なグループが声を掛けた。
「上杉くん、食堂の場所わかった?」
「ああ、武田くんに教えてもらってん。なぁ武田くん?」
「え、ああ……」
 急に話を振られた武田は話を合わせて返事を返した。
 それ以上は特に話すこともないだろうと武田はグループを通り過ぎて自分の席に着く。
「明日から俺、武田くんと昼飯食うわな」
 聞こえた上杉の言葉に武田は驚いた顔で振り向き、グループと上杉を見た。
 そんな話はしていない。
「あーそうなの? マジで武田と?」
「ついでに勉強教えて貰おうと思ってん。俺、頭悪いからこの学校でついて行かれへんかもしらんし」
「マジ? 上杉くんそれやべーわ。この学校、割と底辺だよ」
「せやろ? 流石に転校して一学期でおらんなるのもカッコ悪いやん?」
 上杉達の話を聞きながら武田は愕然としていた。
 何故か上杉によって勝手に話が進んでいる。

 上杉行人いくと
 関西からの転校生。制服を緩く着てだらしなく見える。
 自己紹介も物おじせず飄々としていた。
 見た瞬間、自分と関わることのない人種だと武田は思っていた。
 
 先生が教室に入ると上杉も席に着いた。
 武田は振り向いて斜め後ろの上杉をチラリと睨む。上杉は首を傾げて武田に笑いかけた。
 上手く利用されて少し腹が立ったがどうせ名前を利用されただけで一緒に昼飯など食わないだろう。どうでもいい。
 そんな気持ちで武田は落ち着いた。
 

 

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