ぼくらのファーストキスは錆の味がした

あびこわく

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上杉と武田

04

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 ロッカーからジャージの入ったビニール袋を下げて上杉が戻ると武田は眉をひそめた。
 購入したまま未開封のジャージを目にして上杉が転校生だったのを思い出す。
「新品は流石に……」
 本人がまだ使っていない物を着ていいものか武田は躊躇した。
「使ってや? 俺のせいやねんから気にせんといて。背も同じ位やしサイズいけるやろ?」
 特に気にする様子のない上杉からジャージを渋々受け取ると武田は着替えにトイレに向かった。
 上杉が何を考えているのか武田には全く理解出来なかった。
 掴みどころのない上杉にペースを乱される。
 これだけ人懐っこい性格なら自分のようなつまらない人間よりも、あの派手なグループと一緒にいた方が上杉には合っていると思う。
 着替えて戻ると上杉は膝を抱えて寝ていた。武田はため息をつくと起こさない様に隣に座り静かに本を読み始めた。

 スマホのアラームで武田はパタリと本を閉じた。
 横で寝ている上杉に目をやり、仕方なしに起こしてやる。
「上杉くん、起きなよ」
 声をかけても起きる様子がなく肩を軽く叩いてみる。それでも起きない上杉を前にして武田はある衝動に駆られた。

 上杉の髪を掴んで引っ張り、乱暴に扱ってみたい。
 想像して息を呑み、口元が歪まないようにグッと奥歯を噛む。
 そろそろと上杉の髪に手を伸ばそうとした瞬間に武田は我に返り自身にストップをかけた。行き場のない手を握りしめて目を伏せる。

 このどうしようもない衝動は武田が幼い頃から抱えてひた隠してきた感情だった。
 心の奥、深い底、嗜虐心が沈んでいる。
 幼いながらにもこれはいけない感情なのだと感じて自分は普通とは違うと理解した。
 小学生の頃、武田はその衝動を抑える事が出来ず友達に怪我を負わせた事がある。
 それ以来、武田は自ら周りと距離を取る様になり友達を作る事を放棄した。
 寝ている上杉を見ながら自分の隣に誰かがいるのはいつ振りだろうと思い返す。

「……上杉くん、起きないと置いていくよ」
 脇の辺りを突いてみると上杉はビクリと反応してようやく顔を上げた。
「起きた? 教室戻るよ」
「あー。めっちゃ寝てた」
 武田はため息をつくと上杉に構わず先に教室に向かった。
 あのまま上杉の髪を掴んでいたらと思うと複雑な気持ちになる。
 痛がり怯える上杉を想像すると口元が歪む。
 それでもこんな感情は気持ち悪いと自制して表情を翻し廊下を歩いた。
 遅れて教室に上杉が入ってくるとまだ寝足りないのか机に伏せてそのまま寝てしまった。
 武田は上杉と自分は何もかもが違うと思いながら午後からの授業を真面目に受けた。

 上杉が目を覚ましたのは放課後だった。
 揺すり起こされ顔を上げると派手なグループにいた一人が声をかけて起こしてくれていた。
「上杉くん寝過ぎじゃね? もう放課後だよ?」
「あー。そうなん……よう寝たわ。おはよー」
 伸びをしてから前を見ると教室には数名だけ生徒が残っていて武田は既に帰宅したようだった。起こしてくれればよかったのにと上杉は思う。
「ありがとう、ずっと寝てるとこやったわ」
 起こしてくれたクラスメイトに礼を言うが名前がおぼろげで出てこない。
 小柄で吊り目……自己紹介されたのを思い返す。
「上杉くん部活やんねーの?」
「部活なあ……今はあんまり考えてないわ」
「オレ軽音部なんだけどさ興味あったら覗きに来て?」
「へぇー何やってんの?」
「ギター。あんま上手くないけど」
「そうなん? 今から部活?」
「そう。上杉くん見に来る?」
「今日はええわ。がんばってな」
「おー。じゃ、また明日ー」
「バイバイ三好みよしくん。また明日なー」
 ようやく思い出した名前を口にして上杉は教室から出て行く三好に笑顔で手を振った。
 高校生らしく青春をしてるなと他人事に思いながら席を立つと上杉も鞄を手に教室を出て駐輪場に向かった。

 

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