ぼくらのファーストキスは錆の味がした

あびこわく

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上杉と武田

05

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  翌日、上杉は教室に入って席に着くと斜め前に座っていた武田に声をかけた。
「武田くんおはよー。なんで昨日起こしてくれへんかったん?」
 武田はチラリと後ろの上杉を見て机の横に掛けていた紙袋を手渡した。
「ぼくは君を起こす係じゃないよ。ジャージ洗ったから返す」
 袋を渡すなりもう話すことはないと武田は前を向いた。上杉は席を立って空いていた武田の前の机に移動する。
「ええのに。もう洗濯してきてくれたん?」
「……今日、体育あるだろ」
「ふーん。知らん」
 上杉は笑い紙袋の中からジャージを取り出し確認した。
「洗わんでもよかったのに……ホンマや。武田くんと同じ匂いする」
「は? 洗ったんだけど」
「柔軟剤の匂いやん。近くやと武田くんこの匂いすんで?」
「気持ち悪いからやめろ」
 ジャージの匂いを嗅ぐ上杉の手を押さえて武田はやめさせた。
「今日、体育あるんかー。だるいなぁ?」
 話をやめない上杉に武田は分かりやすく俯いてため息をつく。
 今まで一人で空気のようにこの教室で過ごしていたのに上杉から話しかけられると周りの目が気になり落ち着かない。

「朝礼始まるから自分の席に戻れば」
「何で? 先生まだ来てへんやろ。あ、制服シミにならんかった?」
「……もういいよ。構わないでくれるかな?」
 武田が顔を上げると上杉は廊下を見ていた。何を見ているのかと視線をたどるとクラスメイトが軽く手を上げこちらに向かって来る。
「おはよう。やっぱ違和感ある組み合わせだわー」
「おー三好くんおはよー」
 三好が空いていた隣の席に座ると武田は何故と言う顔をした。
 上杉を追い返すはずが一人増えてしまい困惑する。
 クラスメイトの三好と武田は一年の時も同じクラスだったが一度も口を聞いたことがない。
 三好は上杉の持っていた袋を見て尋ねた。
「え、何その袋?」
「ジャージ。武田くんに貸しとったやつ」
「あー。そう言えば昨日、午後から武田ジャージだったな。あれ何で?」
 尋ねられた武田は上杉をチラリと睨んだ。余計なことを聞かれてうんざりする。
「アレな。振ったコーラ武田くんにあげてん。制服ビッシャビシャ!」
「は! マジで⁉︎     ちょ、上杉くん何してんの⁉︎」
 ゲラゲラ笑う三好に上杉も笑う。武田は思い出してイライラした。
「マジないって。上杉くんやば」
「武田くんキレとったけどあれ、ホンマはおもろかったやろ?」
「は? 普通に殴りたいんだけど?」
「ごめんて謝ったやん?」
「今の状況で殴りたい。お前、反省してないだろ?」
 三好は二人の会話に目を丸くした。
 廊下から武田と上杉を一見すると真面目な生徒がガラの悪い生徒に絡まれている様に見えていた。
 しかし武田と上杉は対等に会話している。
三好のイメージする武田と目の前の武田はかけ離れていた。
「え、待って、武田ってそんな感じ?」
 驚く三好を見て武田はしまったと思った。自分のことをあまり知られたくない。
「そんなって何なん?」
 上杉が三好に尋ねてニヤリと笑う。三好は首を傾げて覗き込むように武田を見た。
「武田と喋ったことなかったからさ。思ってたキャラとだいぶ違うなって思って」
「違わないよ。見ての通りの陰キャだけど?」
 無表情でチラリと三好を見て遮るように武田は答えた。早くこんな話、終わらせてしまいたい。
 三好と武田の会話を上杉は頬杖をついて観察するように聞いていた。
 武田と言う人間を外側から自分以外の目で見た印象を知りたかった。
 
「いや、陰キャとかじゃなくてコミュ症っぽいのかと思ってたからさ。武田、誰とも喋んないし。ちゃんと喋るんだな」
「失礼なんじゃない? 否定はしないけど」
「なんだ普通じゃん。てか、おどおど喋るイメージだったからビビるわ。武田って結構キツいんだな?」
「は? 君が失礼だからだよ」
 武田は三好の普通と言う言葉に違和感を感じた。自分は普通に見えているのだろうか。
「仲ようしいや。ケンカあかんよ?」
 上杉がニヤニヤして会話に入るとちょうど教室に担任が入ってきた。
 そこで会話は終了し、上杉と三好が自分の席に戻ると武田は小さくため息をついた。
 かかわるのを避けていたクラスメイトと話してしまった。上杉のせいだ。

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