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3章:動く世界とやりたいことをする魔獣四王
52話.終幕
しおりを挟む※セレーネ目線です。
その後も戦いは続いた。
アリアナが作ってくれたポーションで回復しては、戦うという形式で1人3回ずつ戦ったのだ。
5戦目、オルVSマクラ
6戦目、フェルミナVSセレーネ
この2戦で終了だ。
終わったころには、皆クタクタになって地面に横たわっていた。
ポーションで体力は回復しても、同格の相手と連戦したことで皆、精神的に疲れきっていた。
特に5戦目、6戦目は相性の差はなく、互いに実力が拮抗し合い、全員体力ギリギリまで戦うことになった。
どちらも最後まで続けていれば、どちらかが息絶えることになったと思えるほどの激闘だった。
だから、どちらも途中で止められた。
よって5戦目、6戦目は引き分けだ。
観戦していたもの魔獣たちは、全員が歓喜した。
羨望の眼差しがそこら中から飛び、歓声が鳴り響く。
魔獣の頂点。
優劣もなく全力の力と力がぶつかり合う名勝負を見れたのだから、そうなるのも納得だ。
なにせ、その強さは私たちがかつて渇望したもの。
そして、この世の全ての魔獣たちが目指す最高到達点なのだから。
ここに来るまで、長かったなと、昔弱かった自分たちが頭の中に浮かんだ。
あっと、終わったしもういいか。
そう思い、パチンと指を鳴らす。
戦場に張った結界は、その音に呼応して消えていった。
この結界は、周囲に被害が広がらないようにするためだけのものではない。
のぞき見防止の効果もある。
ネメシス・クラウンが持つ"千里眼の水晶"と呼ばれる魔道具。
あれでネメシスに今のセレーネたちの実力を見せる事を防ぐことが目的だった。
実際、監視の魔法が結界によりなんどか防がれた感触があった。
目論みが失敗し、あいつが舌打ちをしている姿が目に浮かぶ。
ざまぁみろと思う。
さて。
オルの方を見ると、恍惚とした表情を浮かべていた。
もともとこの殺し合い大会を望んだのはオルだ。
彼女の嬉しそうな顔をみればやった甲斐があるというものだ。
「あー楽しかったーぁ」
オルが手足を伸ばしながら言う。
それはもう満足気な表情でだ。
「せやねぇ」
「ええ」
マクラとフェルミナがそれに同意した。
セレーネも声にださなかったが、同じ気持ちだ。
昔もよくこうやって手合わせをしたことを思い出す。
あれは、初めてオルに会った時のことだった。
マクラ、フェルミナと出会い、
王女1人と魔獣3匹のチームとなった私たちは、旅の途中、とある森の中を歩いていた。
「なんか、泣き声がきこえる。すごく悲しい声」
ぷよぷよと歩きながら呟く私に、3者は異なる意見をだした。
マクラは放っておけばいい、フェルミナは危ないのではと進言した。
だが、ルナは見に行って助けるべきだと主張した。
人助けにおいて、ルナの意思は揺らぐことはない。
だからこそ、彼女はこの国の王女になるべき器であり、私たち魔獣すらも従えることができているのだ。
リーダーでもあるルナの意見に反対するものは、この場にはいない。
マクラも不承不承というように嫌そうな顔をしながらついてきた。
そして、見に行った先、身を包めるように縮こまる1匹の生物がいた。
それはセレーネたちと同様、ただの最弱魔獣だった。
しかも言葉を発せられる個体という点まで同じ。
セレーネたちと同じ突然変異だ。
泣き声から人間だと思っていたのに、ドラゴンがいたことには全員驚いたものだ。
それが、後に魔獣四王と呼ばれるドラゴン。龍王オルゴラズベリーである。
その時の外見はまるでトカゲのようだった。
というのも、その時オルには羽がなかったのだ。
話を聞くと、生まれつき羽がないらしい。
羽がない理由は、障害を持って生まれたことが原因だ。
オル以外にも、同じように羽のないドラゴンが生まれることは稀にあった。
だが人間と違い、ドラゴンの中でそうしたものたちは羽なしとしていう蔑称で呼ばれ、忌み子として扱われる。
その背景には、リザードマンという種族が関係している。
このリザードマンとドラゴンの外見的な違いは羽があるかないかだ。
故にリザードマンと比べて上位種族であるドラゴンは、羽があることを誇りとしている。
だから、ドラゴンにとって羽なしなどリザードマンと変わらない、劣等種族なのだ。
しかも、リザードマンでもないから、当然リザードマンとして生きることもできない。
結果羽なしは天涯孤独で生きることになる。
それはオルも例外ではなく、彼女は親兄弟にずっと疎まれ続け、いじめられ、最終的に捨てられたらしい。
話を聞き、ルナはオルにどうしたいのかと聞いた。
「わからない」
それがオルの答えだった。
当たり前だ。
オルはまだ1歳にも満たない。
そんな幼い子が、いじめられ、親に捨てられて自分の進む方針など考えられるわけがない。
そんなオルの事情を知り、ルナは笑顔で優しく言った。
「そっか。じゃあこういう時どうすればいいか教えてあげようか?」
この時はもう、ルナは私たちの前では敬語を使わなくなっていた。
「どうしたらいいの?」
オルが涙をこする手を止め、ルナの方を見る。
「怒ればいいのよ。それはもう無茶苦茶にね」
「ちょ、ルナ!?」
こんな幼い子に何を言ってるんだろうとセレーネは思う。
こんな時は慰めの言葉をかけるべきだ。
家族に捨てられて、傷心の子が怒りなんて感情は持たないだろう。
「え?」
事実オルも目を点にしているようだった。
「だってオルちゃんは何ひとつ悪くないじゃない。なにが忌み子よ。こんっなにかわいいのに。最低の親よ。だから、あなたは精一杯生きてそいつらを見返してやるべきなのよ」
「見返すってどうやって」
「うーん方法は、色々あると思うわ。強くなってボコボコにしてやるのもいいし、幸せに生きて見せつけてやるのもいいかもしれない。けど、どんな形にするかは、結局あなた次第。あなたが答えを見つけるしかないのよ」
それは、ルナのスタンスでもあった。
自分は何でもかんでも介入して手助けをすることはできない。
いや、すべきではない。
自分の力で乗り越えた先でしか、真の問題の解決はありえないのだから。
きっとルナが自分の問題を乗り越えきれてない故の心情なのだろう。
オルは見放されたうさぎのようにプルプルと震えていた。
彼女からしたら助けを期待したのに、解決は全て丸投げされたのだから、そんな反応もするだろう。
そんなオルの様子に気づき、ルナは笑って言った。
「安心して。私たちは、根本的な解決はできないけど、あなたが答えを見つける手助けはできるはず。どう?私たちと一緒にこない?仲間と一緒にいると楽しいってこと。まずはそれを教えてあげる」
そうして、オルはルナが手差し出した手を取った。
思えば、この口説きはルナの感情のゴリ押しだ。
ルナはオルを捨てた彼女の両親に心底腹が立ったのだろう。
だから、あんな言い方をした。
正直勢い任せの説得だ。
だけど、そんな感情任せの本音だからこそ、私たち魔獣に刺さるのかもしれない。
私たち魔獣は、欲望に忠実で、もはや奴隷とすら言えるほどなのだから。
ちなみにこれがきっかけでオルはルナに甘えるようになった。
後にセレーネが嫉妬の炎を燃やすほどに。
そうして、後の魔獣四王と呼ばれる存在が全匹集まったのだ。
オルは、最初は私たちに心を開かなかった。
私たち別種族の魔獣にどう接すればいいか分からなかったのだろう。
そこで、マクラが魔獣なのだから、戦えばどうかと提案した。
力を求める魔獣どうし、ぶつかり合うことで心の壁も取っ払えるかもしれないと。
この考えは大正解だった。
もともとドラゴンは好戦的な種族だし、気性に合ったのだろう。
オルは、徐々に私たちに心を開くようになっていった。
そして、私たちも嬉しそうに戦うオルのことをだんだん好きになっていった。
そうして、この殺し合い大会のような戦いが、頻繁に行われるようになった。
オルはそんな生活を大層気に入った。
このように、オルは肉体言語でセレーネたちと絆を深めていったのだ。
そうして、オルは今のようにまっすぐに脳筋的な考えをする子に育ったのである。
懐かしい話である。
満面の笑みで笑うオルは、初めての殺し合い大会をやったあの日のものとそっくりだった。
◇◇
少し後、人間の国にて。
魔獣四王同士のぶつかり合いが終わったとの報告を受け、王とその忠臣たちは、安堵の息をついた。
それと同時にどっと疲れが押し寄せる。
スライムをスパイとして送り込んでいる人間のテイマーからの報告では、今回の戦いは、人間でいうスポーツの試合のようなものだったらしい。
そんな理由で戦うなよ、と王は思う。
近所迷惑もいいところだ。
国の隣で怪獣が戦うなど、巻き込まれるかと恐怖でしかない。
額から滲む汗をハンカチで拭った。
1番怖かったのは、五大貴族が魔獣四王に軍を送り込んだことがきっかけで問題が生じ争いになったのかもしれないと推測していたことだ。
もしそうなら、この国が滅ぼされることは必至。
そうでなかったからよかったものの。
やはり五大貴族は今すぐにでも失却させなければならないと、強く思う。
その時、ノックがなった。
扉の外からお父さま失礼します、と声がしてルナが入ってくる。
ルナは、スカートの裾を指で持ち上げ、小さくお辞儀をした。
「ルナ・リリベスティ・クリスティナ、王命を受け、出立いたします」
出立のあいさつだった。
ルナが提案したことで王も許可はだしたが、やはり心配でたまらない。
「ルナちゃん、やっぱりいくのやめようよ。さっきまで、あそこで大災害おこってたよ。この世で1番危険な場所だよ」
王の威厳など何もない言い方に、周りの臣下たちは驚く。
普段は、王は隠しているルナ溺愛の態度だが、外聞を気にする余裕もないほど王は焦っていたのだ。
だが、ルナは引かなかった。
「いえ、行きます。お父さまの言を借りるならば、今この瞬間こそが、王国が世界一安全な国になるかの分水嶺でもある。王の命令であっても引くわけには参りませんわ」
「で、でも」
「心配なら神にお祈りしていてください。では」
それだけ言うと、ルナは部屋を退出する。
残された部屋で、ルナちゃーん!心配だよー!行かないでくれーと叫ぶ。
「し、心中お察しします」
臣下たちが、ひきつった顔で言った。
この日を境に、威厳ある王が子煩悩であることが、王宮中に知れ渡った。
もっとも、王の意外な一面を知れたことで、より好感度が高まっただけだったが。
横暴で傲慢な貴族ではそうはいかなかっただろう。
そこが、この国における王と貴族の違いなのである。
◇
部屋の外から聞こえてきた悲鳴にも似た声に、さすがのルナも顔を赤くする。
「まったく父さまったら。ただ、友達に会ってくるだけ。何もないっていうのに」
楽しみで仕方がない。久しぶりに彼女たちが全員揃ったところを見れるのだ。
私のかわいい天使たち。
今行くわ。
ルナはスキップをしながら王城の廊下をかけていくのだった。
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