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3章:動く世界とやりたいことをする魔獣四王
57話.宣戦布告
しおりを挟む多分この場にいる誰よりも冷静なのは我だろう。
セレーネとフェルミナは、ルナを利用しようとしているネメシスに対して言いようのない怒りを覚えているはずだ。
オルの怒りは、おそらく純粋な敵意から来るもの。
そして、我の怒りは…
「さて、娘たち。久しぶりだな。セレーネ、マクラ、フェルミナ、オル、もっと顔を」
ネメシスがそう言いかけた時。
1人、我は飛び出していた。
袖口のアイテム収納袋から刀を取り出し、頭上にいたネメシスよりもさらに上へ飛び、斬りつける。
その一連の動きをネメシスは表情1つ変えずに眺めていた。
その無防備さに我の刀がネメシスの頭をカチ割った様子を幻視する。
だが、刀を振るった瞬間、刀の刀身が溶解された。
何が起こったか、マクラでも分からなかった。
そのままネメシスは一瞬でマクラの背後に回り込む。
生物とは思えないほどの信じられない速さだった。
「手癖の悪い子だな。躾と思って喰らっておくといい」
ネメシスの右腕に、絶大なまでの魔力が集中する。
それが黒い火花のようにバチバチとエネルギーの音を奏でている。
「ダークフレイム」
ネメシスが技を繰り出そうとした瞬間、マクラは中指を折った。
その動作に呼応して、マクラが張り巡らしていた糸がピンと伸びる。
その糸がネメシスの腕に絡みつき、ピタリと腕の動作を止め、エネルギーはあらぬ方向へと放出された。
暴発したエネルギーは城の壁にぶつかり、そのまま外へどこまでも突き進んでいった。
武器は無意味と判断した我はすかさずネメシスを殴りつける。
ネメシスはそれを腕で受け止めた。
ズンと鈍い音が城中に反響する。
「…ほう」
ネメシスが小さく笑った。
そのまま2人は2階の床に対になるように着地する。
「ハッ!いまだに親面とか、マジでキモイわ。殺す」
我がこいつに感じている怒りは多分みんなより弱い。
みんなはルナのために真剣に怒ってる。
それなのに我は、13年前、セレちゃん(ついでにみんな)との楽しい時間を邪魔して、踏み躙ったコイツにどうしようもない屈辱を与えたいなんて自己中な動機でたたかっとるんやから。
だけど、だからこそこの中で我が1番冷静に戦える。
怒りは時に隙を生む。
その隙をつくのはコイツが得意とするところや。
腹立たしくも、そこは同類やからこそ分かる。
我がこいつをぶっ潰す。
「マクラ!」
その時、叫んだのはセレーネだった。
その目は止めるようにと訴えている。
なんでそんな目で見るん?
こんなチャンスはもう来ないかもしれんのに。
◇◇
「何事ですか!?」
その時、マナフを先頭にバーナード、紫苑、ディアボロス、リア、ロイドが扉を開けて入ってきた。
先程、ネメシスのダークフレイムの音で異常に気付いたのだろう。
「これは」
マナフたちは部屋の様子と侵入者に驚いているようだった。
パチン
ネメシスが力強く手を叩いた。
全員の注目がネメシスへと向かい、場の混乱が収まる。
「はい、注目」
薄ら笑いを浮かべてネメシスは言う。
そして、チラリと魔獣四王たちに目をやった。
そして、ため息をつく。
「本当にお前たちは俺の思う通りには動いてくれんなぁ」
「当たり前でしょ!誰があんたの思い通りに動くもんですか」
フェルミナが言う。
「まぁいい。今日は本当に話し合いをしに来ただけだ。戦うつもりはない」
「アホと話し合うことなんてないわ」
マクラが吐き捨てるように言う。
マクラは既に次の攻撃の準備に移ろうとしていた。
その態度にネメシスは肩をすくめた。
「そう急くな。お前たちと戦うには、もっといい場を用意してやる。会話を拒むのもまぁいいだろう。一方的に宣言して帰るだけだしな」
「宣言?」
ルナが首をかしげる。
「そうだ」
ルナの疑問に対し、ネメシスは、大袈裟なまでに次の発言を溜めて、それを解放するように、芯に響く声で答える。
「ここに集いし人族、魔獣の諸君。そして、この場にいない魔族をも巻き込んだ大戦争をここに宣戦布告する」
その発言に1人を除いて全員が驚いた。
とくに動揺が色濃く見えるのは、ルナだった。
ルナの目標、人族、魔族、魔獣との共存、その先にある夢。それは種族関係なく平和に暮らせる世界だ。そんなルナにとってその宣言は衝撃であり、最も嫌悪するものだったはずだ。
「どういうつもりですか?あなた、いったい何がしたいんですか!?世界は今均衡を保ってるのに、やっと平和が見えてきたのに!なんでそんな恐ろしいことがいえるんですかっ!」
「少し考えてな。これが1番俺のやり方にふさわしいと思ったのさ。俺の目的は…ああ、ルナは知らないんだったか」
ルナがネメシスの次の言葉を息を呑んで待つ。
彼女にとってはずっと謎のままだったはずのことだ。
「言わなくていい!!お前の気持ち悪い目的なんてルナが知る必要はない」
その時、黙っていたセレーネが声を張り上げた。
「そういうなよ。セレーネ。王女さまはこれから俺の討伐にいそしまなければならないんだ。敵の目的ぐらい知っておいた方がいいだろう」
「必要ないっていうとるやろ。お前はこの場で我が殺すんやからな」
マクラが今にも飛び掛からんとばかりに構える。
だが、マクラが飛び掛かるよりも早く、ネメシスは次の言葉を続けた。
「勇者というシステム俺が作った。魔王という絶対の強者を倒す殺戮騎士としてな」
「え」
意図していたものとはあまりにかけ離れた言葉にルナは絶句する。
それは、勇者と王女、2つの重い責任にずっと悩まされてきた彼女にとって信じられない言葉だったはずだ。
「そんなはず、だって勇者は」
「お前は勇者というものを大層な大義をもった救世主サマとでも考えていたのだろうがなんてことはない。単に一方的に傾いた魔族側のパワーバランスを調整するためにバランサーとして作っただけだ。もっとも他の運用方法も考えていたがな」
言いながら、ネメシスはその場に腰を下ろす。
もう戦う気はないと言わんばかりに無防備な体勢でくつろいでいた。
「なんで!なんであなたはそんなものを作ったのですか!?バランサー!?全然分かりません!そんなの…神にでもなったつもりですか!?」
「神か。くっく、ある意味的を得ているかもな。この世を統べるもの。それは神と言っても差し支えないだろうからな」
「それは傲慢というものです」
「傲慢ではない。単なる事実だ。そうそう、俺がこんなことをする理由だったな。そうだな。言葉にすると難しいが、あえて言うなら神の存在証明、かな。あぁ、俺のことではないぞ」
「神の存在証明?」
「俺の目的はそんな特別なものじゃない。誰もがやっていること、自己の確立だ」
自分の目的を話し、ハイにでもなったのか、ネメシスはオーバーな仕草で話を続けた。
「俺という絶対的な存在は何故存在したのか。世界を守るなんて大仰な役割を与えられたわけでもない。世界を滅べすべく遣われた破壊の使徒でもない。ただ、強すぎる力を持ってこの世に生まれ落ちただけの存在。それが俺だ。だが、自分の役割がないというのは虚無なものだ。その気持ち、お前にはよく分かるんじゃないか?」
ギョロリと乾いた視線がルナの方に飛ぶ。その視線にルナは一瞬たじろいだ。その様子に満足したように頷くと、ネメシスは話を続ける。
「だが、俺という特殊過ぎる存在が、なんの意味もなくこの世に生を受けたとは考えづらい。何か意味があるはずだ。それこそ神にでも与えられたような何かが。そこで俺は考えた。俺が唯一無二すぎるから、俺の使命は闇に包まれ見えないのだと。ならば、俺と同格かそれ以上に強い奴がいれば、それが見えてくるのではないか!?そして、そいつと戦った先に答えが見えるかもしれない。だから、俺は俺に対抗できるものを自分自身の手で作ることにした。それが勇者だ。そしてルナ。勇者の中でも最高傑作になる可能性を秘めたお前が俺の敵になる手筈だったのだ」
もっとも、それは13年前、そこにいる4匹の娘たちに阻止されてしまったがね、と若干自虐的に感じられる言葉を呟いた。
誰も声を発することができなかった。
先程の言葉は何も知らないものが聞けば、単なる狂人の戯言にしか思えなかっただろう。
だがネメシスと相対し、その内から絶対的な力と恐怖を感じ取った者たちには、あまりにスケールの違う世界の話に思えた。そして、何も言えなくなってしまったのだ。
「きもっ!相変わらず気持ち悪い発想しとるなぁ」
だが、そんな沈黙の中でも4匹だけは怯まなかった。
マクラが吐き捨てるように言う。
「それで、あんたはルナをまた利用したいわけ?13年前みたいに」
鋭い怒りの籠った口調でフェルミナも後に続いた。
「そのつもりだったんだがな。そのプランはもういい。お前らに無茶苦茶にされたからな」
「じゃあ、あんたは、今何をしようと」
「さっき宣戦布告をしただろう?代わりに俺の存在証明にふさわしい最強が現れてくれたからな。お前たち魔獣四王を筆頭に人族、魔族、魔獣VS俺の全面戦争だ」
「なっ!?」
「そのために俺が、魔獣と魔族、人間を1つにしてやろう。それはルナ、お前の目的でもあるだろう?くくっ、感謝しろよ」
「馬鹿にして」
ルナが悔しそうに言う。
だがそんなルナの肩にセレーネが優しく手を置いた。まるで大丈夫だと言わんばかりに。
「セレーネ、マクラ、フェルミナ、オル、今のお前たちならば、俺を超えられる。全ての力を振り絞って向かってくるといい。そのすべてを蹂躙すれば、きっと俺は俺を実感できる」
「何上から目線で言ってんのよ」
そこで自分の世界で気持ち良さそうに語るネメシスに対し、強く反論したのはセレーネだった。
「お前はそのくだらない目的のためにルナの志を踏み躙った。絶対に許さない。ここにいる全員、お前のことを親だなんて思ってない」
淡々と、だが、この13年つもり積もった怒りを込めてセレーネは言う。彼女だけは、ずっと準備をしてきたのだ。今日この日に備えて。
ネメシスの計画を打ち砕くために。
「もう私たちは、お前なんかとっくに超えてるんだよ。お前がそうくることだって、わかってた!だから、もうお前に何も奪わせない!私たちが勝ってお前の人生ぐちゃぐちゃにしてやる。お前の意味は負け犬でしたって烙印を刻んでやる!」
そしてセレーネは、ネメシスに向かってグッと握った拳を突き出す。
それは、彼女にとっての勝利宣言でもあった。
ネメシスは、そこで初めて顔を歪め、不快さをあらわにした顔をした。
「…強気だな。だがそれは過信というのもだ。そんな傲慢な姿勢で勝てるとでも?」
「勝てるに決まってるやろ」
「当然!」
「当たり前」
そこで反論したのはセレーネ以外の3匹だった。
「「「私たち4匹揃ってお前ごときに負けるわけないだろ(やろ)」」」
魔獣四王は、それぞれが自信たっぷりにそう言い放ったのだった。
そんな彼女たちの様子を見て、ネメシスは顔を歪めて笑った。
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