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3章:動く世界とやりたいことをする魔獣四王
65話.怒り
しおりを挟む強烈な閃光がその部屋を包んだ。
本来は爆炎が地下牢どころか古城とその周囲を吹き飛ばし、魔獣四王の軍に甚大な被害が出ていたはずだった。
そうならなかったのは…
「おーい。みんな無事か~」
その声の方に地下牢にいた全員が目を向ける。
ちょっと目を動かしただけで、なぜ自分が無事だったのか、おそらくその場にいた全員が気づいたはずだ。
ゼリー状の青い液体が、部屋中を満たしていたのだから。
「よかった」
そう安心したように言い終わると、透き通った青いスライムの体は、バッチャっと
液体のように崩れ落ちた。
「セレちゃん!!」
我は急いでセレちゃんのもとに駆け寄った。
地下牢は水で満たされ、その中心には、小さなスライムがぐったりとへたり込んでいた。
凄まじい爆発だった。
蜘蛛の王・真蜘羅は全てを見ていた。
セレーネは、爆発源のすぐそばにいた真蜘羅を突き飛ばし、そのスライムの体でミリーナを部屋ごと
包み込んだのだ。
結果、爆発の衝撃は全てセレーネが背負うことになり、その場にいたものは助かったのだ。
爆発の威力を考えると、おそらくセレーネが自分を犠牲にしてくれなければ、その場にいた人間たちは全員消し飛んでいた。ルナちゃんも
それどころか、我やフェルちゃんも死にはしないまでも、かなりの深手を負っていただろう。
比較的無事で済むのは、フィジカルが一番強いオルくらいか。
特に我は至近距離にいたから…
心の中で思い、ギリッと歯ぎしりをする。
辺りを見たが、ミリーナの姿はどこにもなかった。あれが自爆で消滅するとも思えない。
まんまと逃げられたのだ。
「セレーネ!大丈夫!?」
フェルミナもこちらに駆け寄ってきた。
セレーネは、人化の術で人の姿に戻ると、指でVサインを作って歯を見せて微笑んだ。
「はぁ、よかった」
フェルミナはほっと息を撫でおろす。
「ミリーナのやつも相当の深手を負ったはずだし、痛み分けってところね」
こっちは全員無事そうだし、とフェルミナは呟く。
「痛み分け?本気で言っとるんか?」
ギュッと優しく動けないでいるセレちゃんを抱きしめる。
「え?」
フェルミナはこちらを振り返る。
「セレちゃんをこんな目にあわせたんや。絶殺しに決まってるやろ」
昔から、セレちゃんは変わってない。
いつだって自分を犠牲にしてでも、大事な人を救おうとする。
自分がその中の1人でしかないことは、ちょっとモヤモヤするけど、それはこの際いい。
セレちゃんは変わってなくても、我は変わった。
今は自分の衝動を実現するだけの力がある。
我の大事な人を傷つける奴は、誰だろうと我の糸で絡みとって、地獄をみせたる。
蜘蛛の王らしく、執念深く周到に底意地悪くな。
◇◇
「はぁ、はぁ」
限界まで霊を纏い、そいつらにダメージを押し付けた大自爆。
それが、あの程度の被害で終わるなんて。
私も無事ではすまなかった。
全身が裂傷に火傷でボロボロだ。
ただでさえ、セレーネの”ワールドマジック”でズタボロだったのに。
遠くまで来て小さくなった古城を見る。
「にはは、ほんとにとんでも強くなったんだ」
まさか、あの爆発の威力をほぼ相殺するなんて。
今回でかなりの霊を失ってしまった。
もっと強い奴を補充しなくては。
その時、自分の眼前に立つ存在がいた。
「はぁ、はぁ、何のようですか。ネメシスさま」
「ずいぶん手ひどくやられたようだな。ミリーナ」
私の目の前に立つご主人さまは、私がやられているというのに、面白そうに言ったのだった。
「やれやれ、あなた様の為に死地に赴いた忠臣にねぎらいの言葉はないんですか?」
「おいおい、俺たちにそんなぬるい馴れ合いはいらんだろう。死んだら死んだでそれまでだったってことだ。俺もお前も」
「はいはい、分かってますよ。死の皇帝さま」
「それで、どうだった?セレーネは」
「間違いなく使ってますよ。未来視の超感覚。ネメシスさまから受け継いだってことですかねぇ」
「ほう、興味深いな。渡したつもりはなかったんだが」
「それで、そっちはどうでした?」
「ああ、面白いことを言っていたよ。奴らは、4匹ですでに俺を超えているらしい」
「プッ、本気ですかぁ?」
「さぁ、知らんな。だがどっちが道化かは2か月後に分かるだろう」
「決戦の日ですか。勝てるわけないでしょうに」
「そうとも限らんぞ。少し気になることもあるしな」
「え?」
それは、魔獣四王たちが勝つ可能性を感じたということだろうか。
首を振る。
そんなことはありえない。
目の前の存在に勝てる者など絶対に現れはしないのだから。
だが、ネメシスさまはどんな相手でも侮らない、なんてダサいことを言うような人ではない。
自分に届かない存在など相手にもしない。
そのネメシスさまが、勝利を断言しないなんて。
「おい」
思考の海に入っていると、ネメシスさまの呼ぶ声に引き戻された。
「あ、はい。なんでしょうか」
「疲れているらしいな。少し休むといい。俺も次の計画をまとめる時間が欲しいしな」
「次、ですか?」
「ああ、詳細はあとで語るとして…手始めに」
「魔族領を侵略する」
そう小さく、邪悪な笑みを浮かべてネメシスさまは言った。
その笑みが伝播したように、ミリーナも嬉しそうに笑うのだった。
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