勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール

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8話.勇者と村びとの邂逅

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魔王ゼクロスは、眼前にいる3者を見下ろす。
ミカエラ、ザック、そして最後に俺。

とてつもない眼力に、俺はゴクリと唾を飲み後ずさる。

俺のような村びとが相対していい相手でないことは、すぐに分かった。
コイツもまた勇者一行と同じく、いやそれ以上に住む世界が違う。

正直いって逃げたくて仕方がない。

こいつを倒すことが、俺の夢の到達点だったのか。
自分はいかに無謀なことを言っていたのかと脱力する。

ソフィはこんなやつと戦ったんだな。
改めてソフィの凄さを実感した。

身体の震えが止まらない。
俺は蛇に睨まれた蛙のように、その場に立ち尽くしていた。


「…殿!、レオ殿!」

ミカエラが何度か俺に呼び掛けていたようだ。
その声で俺はハッと我に返った。

「レオ殿!ソフィを頼む」
そう言って、ミカエラは、眠っているソフィをこちらに渡した。

「え?」
「私達が時間を稼ぐ。その間にできるだけ遠くまで逃げるんだ」

逃げてどうするんだと聞きたかった。
逃げたところでソフィは、眠っている。
ソフィがいても撃退されたのに、魔王に2人が勝てるはずもない。

だが、そんな質問をする余裕すらなかった。
この場にいたら、一瞬で死ぬ事は間違いがない。

なら、最後まで、1秒でも長くソフィを守るのが、今の俺の役目だ。

そして、俺は走り出す。
無意味だと心の声が聞こえる。
どうやっても魔王に勝つ術はないのだから。

だが、それでもソフィのために。それだけを思って俺は全力で走った。

だが、俺の行動は無意味ではなかったようだ。
まだ僅かな希望があったからだ。


それを、ある人物が教えてくれる。

「バカ!それじゃ何の解決にもならねぇだろうが」
後ろからザックの叫ぶ声が聞こえた。

振り返ると、ザックがミカエラをこちらの方に思いきりぶん投げていたのが見えた。

「え!?」

思わず間の抜けた声が出る。

ミカエラは、地面に叩きつけフワリと浮かびかろうじて着地した。

「なにを!?」
ミカエラが叫ぶ。

「5分だ!!それ以上は自信はねぇからな!」

俺は悟った。ザックは時間を稼ごうとしているのだ。
俺がソフィを起こすための時間。
その時間でソフィを起こすことさえできれば、希望が生まれる。
勇者ソフィという希望が。

そして、その勇者を呼び覚ます大役を、俺に成せとそう言っているのだ。


「お前!死ぬつもりか!!」
ミカエラが叫ぶ。

だが、ザックはその問いには、答えない。

代わりに親指を立てて言った。

「へたれ野郎、いや、レオ!!ソフィを頼んだぞ!」


俺は、もう振り返らなかった。




ミカエラと共に避難した俺は、森の中の木の影に隠れた。

子供の頃、魔王がこの森に攻めてきたことを妄想してたおかげで、この村の避難ルートにはかなり詳しかった。

まさか、その妄想がこんな形で現実になるとは思わなかったが。

背後からは、けたたましい戦闘音が聞こえてくる。
ずいぶん離れたにも関わらずだ。

振り返ると村のあちこちから煙が出ていた。
「村が」

普通なら、そのあまりの人外魔境な戦闘に震えるところだが、俺には指名があるのだ。

村人達はどうなっただろうか。

今でも、緊急事態に鳴らす敵襲の合図の鐘が村の方から鳴り響いている。

魔王が現れた周囲に人影は見えなかったから、皆避難できたのではないかと思うが、不安だ。

だが、どちらにしてもこれからソフィを起こさなければ、ここにいる全員が死ぬことになる。


「もう、ウジウジするのはやめだ」
ボソリと呟く。

それは、一種の誓いにも近い独り言だった。
目を逸らすのはもうやめる。

魔王から、村の皆を、そしてソフィを守るために。
例え力がなくても、できることを全力でやろう。

もともと村びと出身の俺なんかが、魔王を倒せるかなんて疑問は何度も浮かんでたんだ。
それでも、大事な人たちを守りたくて勇者になることを望んだ。

その気持ちを思い出すだけだ。3年ぶりに。


「レオ殿、いくぞ」

ミカエラが魔法の準備を終える。

心なしか、冷静そうなミカエラの顔には焦りの色が見えた。

仲間がいつまで持ち堪えられるかわからないのだから当然か。

時間の猶予は、ほぼないのだ。

今の俺には、ザックも死なせたくないという思いが生まれてきていた。

だから、急ぐ。

目を閉じて、次の瞬間。

視界が反転する。
目の前には、真っ白な世界が広がっていた。
何もない白だ。

「ここが精神世界」
「飛ぶぞ」

そう言って、共にきたミカエラが俺を掴むと、また視界が変わる。

先程とは違い、薄暗く濁った空間。
目を凝らすと、辺りは空間にひびが入っていた。


「ここは」
景色の変わりようから察するに、先程のミカエラの発言は、ワープをするという意味らしい。
「すまない。私はここまでだ。ザックの援護に向かわなければならない」
俺はこくりとうなずく。
「ソフィを頼む」
それだけ言い、ミカエラは去る。

少し歩くと目の前に1人の少女がいるのを見つけた。

中心でうずくまる少女。

その白銀の美しい髪を俺が見違えるはずもない。
ずっと見てきた少女。

「レオ?」
その小女は、こちらに気づいて驚いた顔をした。

「ああ、俺だ。久しぶりだな。助けに来たぞ」

あんな別れをしたのだ。意識のあるソフィを相手にするのはやっぱり勇気がいる。
だけど、もう覚悟は決めた。
ソフィに向き合うという覚悟を。

だから、もう迷わない。





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