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最終話.村びとと勇者
しおりを挟む魔王が討伐されたというニュースが世界中に伝わるまで、そう時間はかからなかった。
ソフィはというと、魔王を倒した後、2日ほどして王都へと帰還した。
流石のソフィも魔王との戦いはギリギリの苦戦を強いられたらしく、動けるようになるまで村で療養したのだ。
2日で完治とはいかなかったが、世界中で魔王に怯える人々のためにも、早く報告すべきと考え、
村を出立した。
ソフィの家、つまりカイマンさんの家は奇跡的に無事だったこともあり、療養はそので行われた。
余談だが、俺のように家が壊れた人は少なくなく、そういった人たちは簡易テントで過ごしている。
カイマンさんは、ソフィが家に戻ってきたことを心から喜んでいたらしい。
カイマンさんは、幼少のころから育ててきたソフィのことを実の娘のように思っていたのだろうと思う。
2人の話は相当長く続いたらしい。
2日間ソフィと会ったものはカイマンさんを除いてほとんどいなかった。
俺はというと、ソフィが出立するとき少しだけ言葉を交わしただけだった。
「レオ、終わったんだね」
「ああ、お前が終わらしてくれたんだ」
「それは違うよ。ミカエラやザックとレオ、それに他のたくさんの人たちがいたから勝てたんだよ」
「そう言ってもらえると幾分救われる気分だ」
俺はそこで頭を下げる。
「本当に申し訳なかった」
「えっ!?えっとなにが」
「3年前の事。お前を裏切った。突き放しちまった。本当は、俺にできることをすべきだった」
「そう。そうだね。あの時のレオは本当にひどかったよ。他の誰かに何を言われたとしても私を、レオ自身を信じてほしかったかな。うっ、思い出したら涙でてくる」
そういってソフィは泣きだす。
流石にそれは想定外だった。
「え、あ、ほ、ほんとに悪かったと思ってる」
俺は必死になだめようとする。
「なんてね」
「え?」
ベッと舌を出してソフィは無邪気な顔で笑う。
「そりゃあ、レオに拒絶されたことは、私に本当に多大な精神的負担を与えてくれたけど、この前あやまってくれたから、もういいの」
この前というのは、ソフィの精神世界での出来事だろう。
「そ、そうか。それにしてもお前変わったな」
あの純粋だったソフィが遠回しにそんな回りくどい嫌みみたいな言い方をしてくるなんて。
まぁ、この3年の旅でいろいろあったということだろう。
それに、それほどソフィを傷つけたということでもある。
2度と同じようなことはしないと心の中で誓った。
「じゃあまたね」
「ああ、また」
そうして、ソフィは遠くでこちらを見ていたミカエラとザックの方に歩き出す。
ソフィとは当分会うことはないだろう。もしかしたら、もう会わないかも。
ソフィは、俺とは住む世界がちがうのだから。
ここ数日で考えていたことを思い出した。
ソフィは前を向いて歩いている。
俺も、そろそろ前進すべきなんだ。
◇
勇者ソフィの一行が出立した2日後。
村びとたちが、村の入口に集まっていた。
狭い村だから、噂はすぐ広がる。
俺がこの村を出るという噂だ。
村を出るものなど滅多にいない。
面白半分、単純に別れの挨拶がしたい気持ち半分で多くの村人たちが集まっていた。
そして他にも両親、カイマンさん
そして、親しくしていた中央会館の職員のひとたちといった交流のある人たちも集まった。
「本当にいくのか」
父が言う。
「うん、もう決めたことだから」
「そうか」
「餞別だ。受け取ってくれ」
父の手には剣があった。
決して高価なものではないが、村に偶然あった一品だ。
村びとの1人がもっていたものを、買い取ったらしい。
「ありがとう」
俺は頭を下げる。
この村を出て旅をしようと思った。
新しい目標だ。
俺はこの数日間、よく考えた。
俺という存在には何ができて、何がしたいのか。
もともとは、誰かを助ける英雄に憧れた。
でも、英雄になるためには、俺には絶望的に才能がなかった。
だから、今までは悲壮感に明け暮れていたわけだが。
だが、俺はその先に思考を展開してみることにした。
ソフィへの罪悪感ゆえに、進めなかった思考の先を。
英雄にはなれなくとも、誰かを助けるということはできるのではないかと。
俺は3年前まで剣術を磨いてきた。
その腕前はソフィやザックのようなてっぺんと比べたら小粒のようなものだが、それでも一般人相手だったら多少は通じる。
その辺の野党くらいなら、護衛としても通用するはずだ。
一度は地方の兵士として働いてみないかと誘いもあったほどだし。
それに、例え剣の腕だけでなくとも簡単な労働力として誰かの役に立つこともできるかもしれない。
そして、ソフィが守ってきたこの世界を見てみたいという思いもあった。
ただ、一点だけ引っかかることもあった。
それは、この3年間ずっと養ってくれた両親に何の恩も返はずにこの村を離れることだ。
そのことを思い切って両親に相談した。
すると、母から
「行ってきなさい」
という返事が返ってきた。
「私たちは、あなたの足枷になりたくない。あなたが新しいやりたいことを見つけたといのなら、すぐにでも行動をすべきよ。こんな小さな村で燻ってたら、チャンスなんてどこか彼方に消えちゃうんだから」
母は真剣な顔で言う。
「それでも、私たちに負い目があるなら、できるだけ多くの人を救いなさい。そうしてくれたら、私たちは何も言うことはない。胸を張ってあなたを誇れるわ」
母の言葉に強く頷く。
俺が納得したと分かると、
母は表情を緩め、言葉を付け足した。
「あ、でもたまには帰ってきてちょうだいね。その時は今まで養ってあげた分、しっかり介護してくれると嬉しいわ~。ほら私たちももう歳だし。旅で稼いだお金なんかでね」
母は指で丸の形を作って、笑っていう。
ちゃっかりした母である。
そうして俺は今、この村から旅立とうとしている。
「いつでも帰ってこいよ」
「土産話よろしくな。実物の方の土産があってもいいんだぞ」
「元気でな~」
明るい声援を聞き、俺はふとこの村で俺を蔑んでいたやつはいなかったんじゃないかと思った。
ついこの前いじけていた時は、皆がソフィと比較して、俺を出来損ないの厄介ものと見ているような気がしていた。
だけど、この明るい村人たちを見ているとそれは勘違いでただ見守ってくれていただけなんじゃないかと。
首を振る。
別にそんなことはどっちだっていい。どうせ考えたって真実はわからない。
ただ前向きに考えられるようになったということを喜ぼうと思う。
そして、応援してもらえる人になればいい。
「ソフィとはもう会わなくていいのか?」
カイマンさんが言う。
そのことは、できれば触れて欲しくなかったことだった。
だが、答えないわけにもいかないだろう。
「いいんです。ソフィとは住む世界が違いますから。俺は俺で。ソフィはソフィでお互いの道を行けばいい。だから、もしソフィが帰ってきたらお互い頑張ろうって伝えてください」
そして、俺はカイマンさんと握手をした。
そして、父と母と3人で抱き合った。
「それじゃ行ってきます」
こうして俺は旅に出た。
足が軽い。
この前までの陰鬱とした気持ちが嘘のようだ。
俺は1つの夢を終えた。
だけどそれは、新しい夢の始まりでもあって。
ワクワクしてたまらない。
懐かしい感覚だ。
ソフィと一緒にただ純粋に勇者を目指していたあの頃のような。
きっと人の能力にはどうしても限界があるのだろう。
村人である俺が勇者になることができなかったように。
だけど、それは俺が何もしない理由にはならない。
やりたいことがあるなら尚更だ。
だから、あの時みたいに、1つがダメだったからといってもう諦めたりはしない。
きっと手段ならいくらでもあるはずだから。
そうやって現実と理想を擦り合わせて、道を模索していく。
そうやって進み続ける。
そうすれば、きっと俺にしかできないことだっていつかは見つけられたはずだ。
道をまっすぐ行くと分かれ道があった。
どちらへ進もうか。
「さてと、まずはーーー」
◇
ーーエンディングーー
あの日々が私を救ってくれたんだろう。
レオと初めて会った時。あの短い会話だけで救われるほど私の心の傷は浅くない。
だけど、レオと過ごす毎日は新鮮で刺激的で、キラキラ光ってた。
だから、私の心の闇は少しずつ少しずつ、雪が溶けるように消えていったんだと思う。
魔王の呪い。
私が抗えなかった本当の理由は、昔の悲劇のせいじゃない。
その楔は、レオが消してくれたから。
本当の理由は、私が中途半端だったからだと思う。
私はレオの夢を叶えたいと思った。それが、両親を見捨てた自分への贖罪になると思った。
でも、その道のりの途中である騎士団試験でレオは落ちてしまった。
私は困惑した。
いつか勇者になるレオを支えようと思っていた私こそが、勇者になる器だったのだというのだ。
だけど、それは間違いだ。
私は力に恵まれていたというだけ。やっぱり私じゃなくてレオが勇者になるべきだと思った。
だから、レオにそのことを伝えに行った。けれど、拒絶されてしまった。
レオもまた、勇者の器ではなかったという事だったのだろうか。
分からなかった。
ただ、ずっとそばで見てきた。
皆を守ろうと必死のレオを。その本心を。努力を。
それが、間違いだと思う事を心が拒んだ。
だから、私は決意した。
自分がレオの意思を体現して正しかったと証明してみせると。
それが、私が勇者に成った理由。
だけどそれが正しいのか、自分でも分からなかった。
レオに拒絶されたことが、ずっと私の胸にひっかかっていた。
だから、その迷いが呪いの解呪を妨げてしまった。
魔王と正面から向き合うために必要なことは、自分を100%信じて戦う強い意志だったからだ。
レオを心の支えに頑張ってきたけど、最後の最後でそれじゃ魔王には通用しないってわかって、私の心は折れてしまった。
だけど、レオがまた、私の進む道を示してくれた。
自分が魔王と戦うなんて言い出すとは思わなかったけれど。
弱いままで、あの魔王に立ち向かっていくなんていったいどれほどの勇気がいたんだろう。
その勇気をほんの少しだけもらえた気がした。
だから、私は魔王と正面から向かい合うことができた。
その心の成長に呼応して、メタトロンさまの加護の加護も強くなって、私は魔王に勝つことができた。
でもまさか好きって言われるなんて思ってなかったよ。
やっぱりレオはずるいなぁ。そんなこと言われたら、いつまでも寝ていられるわけないじゃんか。
あの告白の返事を返したかったけどなかなか勇気がでなかった。
2日間レオとろくに話をしなかったのもそれが理由だ。
でも、やっと会える。
魔王討伐から2週間後。
勇者一行のリーダーであるソフィは、カナル村を再び訪れていた。
もう魔王もいない。
騎士団に止められることなく、自由に帰れる。
レオに会える。
そう思うと心が躍る。
だが、帰った時伝えられたことは、レオがこの村を去ったと言うことだった。
「え?」
一瞬愕然とする。
予想もしていなかった答えだ。
その理由は、世界を見て周り、困っている人がいたら助けるためだと言う。
レオらしいね。
あの頃のレオに戻ったんだね。
それは嬉しい反面でも。
「でもさ、普通告白しといて、返事も待たずにどっか行っちゃうなんてことある?」
私は憤慨した。
頬を膨らませて地団駄を踏み、地面に怒りをぶちまける。
「相変わらずひどいなぁ。レオは」
「どうせ断られると思ってるんじゃないか?」
ミカエラが言う。
「やるときはやる男になったと思ったが、ヘタレっぷりの方も変わらずみたいだなぁ。レオの奴」
クックックと笑いながら言うのはザックだ。
ザックは、新しく新調した左腕の義手をいじっている。
相変わらずツンケンしているが、どうやら彼もレオのことを認めてくれたらしい。
「それで、どうするんだ?」
「ふふふ、そう。そういうことするんだ。レオは」
「だったら、こっちから出向くまで。皆も付き合ってね」
「おいおい。いいのか?俺たちには勇者一行として魔族の残党狩りが命じられてるんだぜ」
「大丈夫。レオを追いながら魔族を見つけたら倒していけばいい。それと一緒にレオがやりきれなかった人助けもね」
「やれやれ、退屈しないな。お前といると」
「レオ、絶対逃さないから」
静かにソフィは笑う。
逃げるというのなら今度こそ、無理やりにでも私に向き合わせてあげる。
こうして勇者の旅もまた、新しいステージへと進んだ。
勇者一行と村人のチェイスが始まったことを、レオはまだ知らなかった。
_______________
最終回です。
元々短編で書く予定が長くなりすぎてしまったため、短期連載という形にした本編ですが、最後まで連載できてよかったです。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
感想くださると嬉しいです。
最後に宣伝ですが、「かつて最弱だった魔獣4匹は、最強の頂きまで上り詰めたので同窓会をするようです。」も連載中なので、よければそちらもどうぞ。
◇
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