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2話.出会い
しおりを挟むシマント月の初週。 今日は新しい年の幕開けを祝した舞踏会がある。
もっともマーニィにはあまり関係のない話だ。
第一王女として面目を保つため、ダンスをして、相手に悪意を振りまいて終わりだ。
新年だろうと、普通の月だろうと、もはやマーニィに近づく人間はいない。
いるとすれば、第一王女としての地位に惹かれて寄ってくる商人や中級貴族くらいだ。
そういった人たちを悪役令嬢として高慢にこき下ろし、不幸にすることで、今はメビウスの復活を防いでいた。
相変わらず、メビウスの悪意は尽きることはなく、7年が経った今もなお、少しでも優しさを見せたら体を乗っ取られそうな勢いだ。
今マーニィはとある計画を立てていた。 だけど、それを実行するのは少し先の話だ。
花壇に出て、花に水をやる。 カトレア、スイートピー、アネモネと奇麗な花々が生き生きと元気になったような気がした。
その様子にフッと微笑む。
このガーデニングが今や唯一わたくしが何かに慈愛を分け与えられる場所だった。
その時ガサッと音がした。草を踏む音にハッと振り向く。
そこには、1人の男性が立っていた。
髪をオールバックにまとめ、高級な服に着られたように頼りなさを醸しだしている。
その人は、困惑した顔でこちらを見ていた。
見られた?わたくしは、希代の悪役令嬢と呼ばれている。
そのわたくしのイメージが崩れるのは、計画に支障をきたすかもしれない。
「あ、あの。この王宮の方ですか?本日の舞踏会に呼ばれた、ライオネル・メイウッドと申します。あ、男爵です。申し訳ありません。あの道に迷ってしまって、会場はどこでしょうか」
このライオネルと名乗った少年は男爵なのにわたくしのことを知らないのだろうか?
恐らく使用人だとでも思ったのだろう。
王族に向ける態度としては、あまりに作法や礼がなっていなかった。
批判の材料はたくさん見つかったし、今まで通り悪役令嬢然として、批判して悪意のはけにするセリフがいく通りも見つかった。
だが、このオドオドした様子に、触れただけで壊れてしまうような怖さを感じ、それを止める。
何だか守ってあげないといけないような不思議な感覚だった。
別にこの青年に『悪役令嬢』を演じなくても、他に心の強いひとはいくらでもいる。
「そこを引き返して、最初の突き当りを左に曲がればすぐつきます。早く行った方がよろしくてよ」
そっけなく言って、顔を逸らした。
「あっ、ありがとうございます」
ライオネルは安心したように胸を撫でおろして、道を引き返していった。
◇◇
舞踏会の時間になった。
いつものように扇子で顔を隠す。 こうしていると、常に悪い顔をしていなくてもバレないから、気持ちが落ち着くのだ。
「あれが噂の」
「ええ、リアル悪役令嬢ですって」
「第一王女だというのに。嘆かわしい」
ひそひそと令嬢たちが話している。
これは新年に一度、国中の貴族が集まる祭典なのだ。
一瞥すると、令嬢たちは一瞬で青ざめ距離を取る。
本人たちは聞こえないつもりでいるのだろうが、意外とひそひそ話というのは耳に入ってくるものだ。
まず初めに顔合わせが始まる。
上級貴族が第一王子から第三王子、第一王女から第四王女の順に挨拶に来るのだ。
「この度はご招待いただきありがとうございます。マーニィさま」
「ええ、わざわざご挨拶にきてくださるなんて、感激ですわ」
ニコリと満面の笑みを向ける。
そうして、そっとその上級貴族に近づき、彼だけに聞こえる声で囁いた。
「癒着でお忙しいでしょうに」
その男の顔がピクリとひきつるのをわたくしは見逃さなかった。
「差し支えなければ、その手腕でどれほど我が国に貢献頂けるかぜひともお聞きしたいですわね。勿論わたくしにも個人的に。あとでお話しませんこと?」
相手を限界まで利用したあとに破滅させたいと思う悪意を言葉に一杯に込めて言い、
大げさに笑って見せ、すり寄るように相手の手を握る。
「しっ、失礼する」
相手は顔をひきつらせて、去っていった。
わたくしに何か言われたことを察した他の貴族が、ひそひそと何かを話す。
兄も溜息をついていた。
これでいい。あからさまにやることで、誰もわたくしが高慢でバカな令嬢だと疑わない。
特に兄にも疑われない。
こうやってわたくしは悪意を振りまいてきた。
悪意の発散方法も当然嫌味だけではない。相手の大事な私物を壊すなど嫌がらせなども該当する。この7年色々な検証を行い、ともかく相手を不幸にしてやりたいという負の感情が籠る行為ならば、何でもいいという事がわかっている。
肝心なのは誰かれ構わず、悪意を振り撒かない事だ。
悪事を働いた人間、マナーの成ってない人間、ミスをした人間など非のある人間を対象に選べば自然に悪意を込められる。
逆に非のない人間には、好意をむき出しにして迫っていくなども疑われないコツである。
そうすれば、ただ悪意を振りまく狂人ではなく、欲望に従順なバカな令嬢にみえるだろう。
何があろうと魔王が生きている事を誰にも知られるわけにはいかないのだ。
そうして、今日は6人ほどの上級貴族にきつくあたった。
これで今日の分は十分だろう。
そして、舞踏会の時間になった。
踊りの時間。この時間は憂鬱だ。誰もわたくしと踊りたがらないから、孤立感でいたたまれなくなるのだ。
自分から望んだことでも、それを感じてしまう感情はどうにもならないのだと笑ってしまう。
とはいえ、第一王女と踊らないわけにもいかず、余った人間が罰ゲームのように嫌な顔をしてわたくしと踊ることになる。
だが、今年は違った。
「あの、僕と踊ってくださいませんか」
私に話しかける声。
それは、先程花壇で会ったライオネルという青年だった。
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