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最終話.光の道
しおりを挟む~半年後~
あの日、僕がマーニィから提案をされたのは、
僕と一緒に、僕の故郷に住んでみたいということだった。
自分が王族として生きるのかどうかは、まだ決められない。
だから、僕が言うのどかな田舎で暮らしてみたいといったのだ。そうすれば、
自分の悩みなんてちっぽけだったと思えるかもしれないからと。
僕の家に来たマーニィの振る舞いは圧巻で、王族の権力と、7年間悪役令嬢を演じた経験を活かして
一瞬でわがままな姉と父を掌握してしまった。
ただわがままなだけの姉と自身の利益しか頭にない父が、
賢いマーニィに敵うわけもなく、
不遜な態度を取った姉を、威圧感のある笑顔で論破し、跪かせて踏みつけていたその姿は、
胸がスッとしたものだ。
これで、姉と父が大人しくなったら、民たちももっとましな暮らしができることだろう。
本当に経験というものはどの様に活きてくるか分からないなと思う。
それから、僕は男爵位を継ぎ、農地の経営をしながらたまに民の一緒に農業を手伝っている。
マーニィも面白そうにそれを手伝ってくれた。
ちゃっかり姉と父にも農業を無理やり手伝わせて、悪意のはけ口にしているのは、
流石すぎて笑ってしまった。
そうそう、困りごとと言えば、マーニィの兄であるレオンが週1で様子を見に来るのだ。
そして、マーニィに罵詈雑言を言われて帰っていく。
彼は、悪意のはけ口役に自ら申し出たのだ。
マーニィにとっても自分には思う事があるだろうし、悪意もぶつけやすいだろうと。
マーニィは少し嫌そうな顔をしていたが、
頼み込むレオンの態度に折れて渋々承諾していた。
困りごとというのは、この前、レオンが僕に相談してきた内容だ。
「可愛すぎる妹にそしられるのが……最近意外と気持ちいいって感じがして。どうしたらいいと思う?」
心底引いた。
この人、7年間の反動で、本当に分けわからない方向に迷走してる。
さて、そんなわけで、なんやかんやで僕は今幸せに暮らせていると思う。
これも全てマーニィのおかげだ。
姉に虐げられ、領民を奴隷のように扱う悪行を強制される人生に辟易していたところに、彼女に出会った。
全ての国民を助けたいという彼女の覚悟を知って、僕は何と甘えていたのかにやっと気づいた。
僕は当主で、抗い方なんていくらでもある立場だったのに。
畑の中心では、彼女が見たこともない笑顔で、嬉しそうに民と触れ合っていた。
ロゼリア学園でも、魔王に開放されてからも見たことのなかったその顔を見て、
これが彼女が7年間犠牲にして、焦がれていた瞬間なのだと分かった。
もっとその顔を見ていたいと思った。
彼女の幸せの中心にいたかった。
だから、僕もそこに混ざれるように、頑張らないと。
そう思って僕は立ち上がった。
◇◇
「どの面下げて生きていくつもりだ」
魔王が話しかけてくる。
だが、その声には今までのような禍々しさを感じなかった。
何の圧もない、薄っぺらい言葉だ。
「あなた、まだ話せたのね」
あの卒業式の一件以来話しかけてこないから、その程度のエネルギーすら削られたのかと思っていた。
「相変わらず毒舌だな」
「いつもなら得意げに説明してくれるのに、今回は教えてくれないのね」
「……」
返答はなかった。
「じゃ、当ててあげる。頑張って悪意のエネルギーを集めてわたくしに話しかけているのでしょう?無駄な努力はやめた方がいいわよ?」
チッと舌打ちの音が聞こえる。それが、わたくしの答えが当たっていることを
充分に示していた。
「それで、俺がいなくなったあとはあの小僧と幸せに生きていくわけか?そんなことが許されると思っているのか?どれだけの悪意を周囲に振りまいてきたと思っている?お前のせいで死んだやつもいたかもなぁ」
「いないわ。わたくしが傷つけてきた人のその後は全てチェックしてる。そんなことはあなたも知ってるはずでしょう?」
「そうだったか?じゃあ、そいつらがどれほど苦しい生き地獄を味わってきたかも知ってるはずだな。お前の幸せは全てそいつらの不幸の上に成り立つのさ」
「…そうかもね」
わたくしの事情は、極秘として伏せられることになった。
今更魔王が生きていると知られれば、また世界は恐怖の渦に飲み込まれる。その規模は計り知れない。
暴動が起きるかもしれないし、勇者であるお兄様も非難の対象になりかねない。
それは、次期国王であるお兄様にとっては大きな痛手だ。
お兄様は、わたくしの名誉のため公表すべきという意見だったが、
魔王を抱えるわたくしが暗殺される危険性があるという指摘が出ると、賛成に回った。
「ねぇ、魔王サマはどう思う?わたくしはあの時死んだほうがよかった?それともこうなって良かった?」
「なんだ急に?」
「別に。ただの雑談よ。魔道の頂点の視点だったらどう見えるか知りたいだけ」
「…どうとも思わん。だが、人類の為を考えるなら、貴様は死ぬべきだった。貴様らは俺を舐めすぎだ。
俺が復活した時こそ、人類の終焉だ」
「ふーん、意外と浅いのね」
「なっ!?」
「これだけいっとくわ。貴方こそわたくしを舐めすぎよ。いつまでも小娘じゃない。絶対に貴方は外には出さないし、わたくしのせいで不幸になった人たちもどうにかして見せる。ライオネルが示してくれた、わたくしが生き残る道の意味はきっとそこにあると思うから」
「じゃあね」
バイバイと手を振る。
その瞬間、闇の世界にひびが入り、バラバラと崩れていく。
「……っ」
「どうせ暇でしょ?可哀そうだから、たまには話してあげてもいいわよ」
そうして、闇の隙間から木漏れ日のような光が視界に入ってきた。
◇◇
「わたくしもあなたが好き、だと思う。」
あの日ライオネルにそう告白した。
「だけど、これまでそれどころじゃなくて、その、恋愛自体考えたこともなかった」
ライオネルはじっと聞いてくれている。
そういう所が好きだ。
ちゃんと相手をまっすぐに見てくれる、その目が。
「だから、ちゃんと確信が持ちたいの。魔王から解放されたわたくしは、一体誰で、何になりたくて、誰が好きなのか。しばらく考えて、あなたの気持ちが変わっていなかったら、もう一度、わたくしの気持ちを聞いて欲しい」
そうして、しばらくロゼリア学園にいた時のように、友達として
一緒に暮らしてみたいことを伝えた。
告白の保留のことは、すんなりOKしてくれたライオネルも
同棲にはとても渋い顔をした。
付き合ってもいない男女が一緒に住むのはよくないと。
その真面目で誠実なところも彼の魅力だ。
そして、「だめですか?」と上目遣いで、天使の微笑みで可愛く頼んだら、
すぐに折れるかわいいところも。
我ながらこの7年で演技力も相当上がったと思う。役者になろうかしらと思えるくらいに。
そうして、わたくしは今ライオネルの実家で暮らしている。
わたくしの仕事は、そこでライオネルの領主としての仕事を手伝うことだ。
ロゼリア学園で必要な知識は3年間真面目に学んできたし、
そこそこ彼の役に立てていると思う。
ライオネルの父は、政治、会計、社交と、領地運営の基礎的な知識に疎く、今までの運営体制には穴がいくつもあった。
息子を学校に通わせないことを節約と捉えていたあたり、学問を軽んじていたのだろう。
その姿勢に思うところがあるが、今更追及しても仕方ない。
なんにせよこれは退屈しないで済みそうだと思った。
そうそう。
それとは別に、週末、わたくしは王都に出向いている。
目的は、わたくしが今まで傷つけてきた人たちに謝罪する事だ。
いつだったか、その道中に王都でマリアンヌとユリウス王子の噂を耳にした。
ユリウス王子には、卒業式の事件は大分いい薬になったらしい。
卒業式での暴走を王に直に謝罪し、その後政治学を熱心に勉強しているらしい。
マリアンヌもそれを献身的に支えているらしい。
たまに、ふとあの時魔王にした問いが脳裏に浮かぶ。
わたくしは自分が死ぬことが間違いだったとは今も思っていない。
ライオネルに示された道も一見一番のルートに見えるけど、問題点も多い。
何より、魔王はまだ生き残っているのだから。
きっと今は正解なんてない。
それが決まるのはきっとこの後だ。
わたくしは、今ライオネルの故郷で、民と一緒に畑を耕していた。
ライオネルが、「手伝うよ」といって農具を手に取る。
「ありがと」
それだけ返して、わたくしも作業に戻る。
確かにまだ問題は残っているけれど、わたくしにはわたくしのことを理解してくれる
大事な人がいる。
それだけで、世界はこんなにも違って見えるものなのだ。
その光をいつまでも浴びていたいと今はそう思う。
~fin
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これでこの物語は最後になります。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
本作品は、作者自身が人に言いづらい持病を抱えていることから
着想を得て執筆したものになります。
今回はライオネルが気づいてくれましたが、
誰も気づいて貰えなかったり、言いづらくて言えないことって
きっとあると思います。
そのもどかしさみたいなものを、異世界を舞台に表現してみました。
マーニィの孤独や葛藤に、少しでも何か感じていただけたなら嬉しいです。
もし心に残ったものがあれば、ぜひ感想で教えてください。
今後も月1で今回のような短期連載や短編を投稿する事を計画しています。
※投稿の通知用にX(旧Twitter)始めました。
今回のお話を面白いと思ってくださった方は是非フォローお願いします。
他にも作者は作品をいくつか投稿しているので、よければそちらも覗いてみてください。
最後に宣伝でした。
また次の物語でお会いしましょう。
では。
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