親友に婚約者を奪われた侯爵令嬢は、辺境の地で愛を語る

蒼あかり

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レインハルドとアローラは、最初こそお互いしか目に入らず愛を信じ切っていた。
自分たちの幸せのために世界があると勘違いするほどに。

当然と言えば当然なのだが、婚約者を奪った令嬢として醜聞が先に広まったのはアローラの方だった。
どこに行っても蔑むような目で見られ、非難の声を浴びせられる。
婚約者を奪われた被害者であるセイラ自身の方が貴族としての爵位が上であり、しかもその本人があれ以来社交界から一切姿を消してしまった。
きっと心を痛め引きこもっているのだろうと、セイラに対する同情の声が高まるにつれ、アローラは心を病むようになっていった。
病的なまでにレインハルドに依存し、監視し、常に愛を乞うてくる。
激情的に恋に落ちたとは言え、それを支え続けるにはあまりにも重すぎた。

そんな時、誘われ出かけた茶会の席で、アローラは自らの口でセイラを非難し始めたらしい。
自分の方がいかに被害者であるか、自分はずっと苛まれた立場にいたことを話し始めた。
すると、侯爵家やセイラ自身に妬みを持っていたのであろう令嬢たちが、ここぞとばかりに陥れるようにあちこちで語りだしたのだ。
そしてその話は瞬く間に社交界を駆け巡った。
夜会ではアローラが憔悴しきったような姿で現れる。それを見た者達は、その噂を信じるほかなかった。
人間は自分の目に映る、目の前のか弱く今にも倒れそうな令嬢を信じてしまうようにできている。張本人であるセイラが姿を現さないのだから、仕方がなかったのかもしれない。


「今のアローラはもう、誰にも止められない。
毎日、毎日、アローラの元へ足を運んで顔を見せろと言う。
仕事で行けない日は泣いて手が付けられないほどで、泣き疲れて眠るらしい。
毎日、どこで、誰と会って、何を話したかを聞いてくる。
それに・・・君のことを疑っているみたいで」

「わたしを?」

「未だに君が、僕を、その・・・好きなんじゃないかって。
もちろん、そんなことはないって僕はわかっているつもりだよ。
でも、彼女は納得していないみたいなんだ。少しでも君の影を感じるとヒステリックに僕を責めてくる。
・・・・・・・・・もう、疲れたよ」

セイラは言葉が出てこなかった。
元々、レインハルドは嘘をつくような人ではない。それに、この前のアローラの様子から、本当のことだと思った。

「ねえ、いっそ婚約をしてしまえばどうかしら?あなたを取られることが心配なら、婚約を結んでしまえば安心できるのではないかしら?」

「そうかもしれない。でも、両親が反対をしているんだ。彼女の今までの行いがあまりにも目に余ると。このまま侯爵家の嫁として迎えても大丈夫なのか?とね」

「それは・・・」

「こうなることは運命だったのかもしれない。あの日彼女と会い、君を苦しめてでもこうなることが。あの日会わなければ僕たちは今頃、仲睦まじい婚約者のままでいられたんだと思うと・・・過去に戻りたいと思う時があるんだ。
分かってる!最低なことを言っているってことは。でも、考えてしまうんだ。
なにもかも捨てて逃げ出せたらいいのにって・・・」

セイラはレインハルドの言葉に何も言い返せなかった。
本当に辛く、助けを求めているだろうこともわかっている。
でも、セイラにはどうすることも、助けてやれることもできなかった。

「ロベルト様に相談されてみては?何か力になっていただけるかもしれないわ」

「ロベルトに?はは、無理だよ。あいつからは絶縁されたんだ。もう無理なんだ。
それにあいつは養子に入るとかって耳に挟んだし、そうしたら益々遠い存在になる」

「ロベルト様が養子に?騎士をお辞めになるお話は私も先日茶会で聞きました。本当なのですか?」

「うん。僕も父から聞いた話だけど、騎士を辞めるのも本当らしい。内々で動いているらしくてね。婿入り要員としての養子縁組の場合もあるから、表立っては明かさないらしいね。まったくあいつらしいよ」

「そう・・・なのですね」

セイラは噂が本当の事だと知り、酷く落胆した。
自分は何も聞かされていないのに、噂は一人歩きを始めている。
信じて待っていてくれと言われても、所詮は口約束でしかない。
この前思い切って出した手紙の返事もまだない。
一体、どうすれば良いのだろう?自分の存在は何なんだろう?と考えていたら、

「そうそう、ロベルトの母親が言うには最近良い人ができたらしいんだ。
母親同士仲が良いからね、そんな話も聞こえてくるんだけど。
その方との縁談がらみの養子なのかもしれないな」

一瞬その『良い人』というのが自分のことだと思ったセイラだったが、すぐに頭の中で否定した。
たぶん、ロベルトはセイラのことは家族には話していないはずだから。
それにハッキリと言われたではないか、先が見えない二人だと。
だからこそ、責任のとれないことはしたくないと。
思い返せば、あれは体のいい拒絶の言葉だったのだ。

あんなに浮かれた自分が情けなく、どうすることもできなかった。

レインハルドは自分の思いをぶちまけることで、少しスッキリしたようだった。
曲がりなりにも一時的に婚約者だった相手である。心を許すことができたのかもしれない。


「セイラ嬢、今日は本当にありがとう。少し前向きになれる気がしてきたよ。
君のお陰だ、ありがとう」

「私は何もしていませんわ。レインハルド様、どうかアローラの事、よろしくお願いします」

レインハルドを玄関まで送ると、部屋にこもりロベルトに手紙をしたためた。
この前出した手紙の返事はまだない。それでも、しつこいと思われても、セイラはじっとしていられなかった。

これで返事が来なければ・・・諦めるしかないのだろう。
そんなことが自分にできるだろうか?
そんなことを思いながら、便箋に言葉を躍らせた。

『諦める勇気をお与えください。』と・・・

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