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しおりを挟むアーサーとアリシアの婚約解消はすぐにでも整うものと思われたが、以外にすんなりとはいかなかった。
ここに来てアーサーが難色を示し、破棄も解消も受け付けぬと駄々をこね始めたのだ。
元々この縁談は王家から直々の打診だった。
アリシアが15歳で社交界デビューを果たすと、彼女の美しさを讃える賛美の声が社交界を席巻し始めた。
その姿を見たアーサーが我儘を通し、婚約まで漕ぎつけた経緯がある。
それなのに、それほどまでに願った婚約者なのに、アーサーがアリシアに愛を捧げるところを見た者はいない。
最近ではどこに行くにも手を取ることはない。手紙を書くことも、花の一輪を送ることすらしない。
アリシアのバルジット家は、代々王家に対する忠誠心が強いことで有名だ。
他の貴族家であれば問題にすることも、王子の行動に異を唱えることはしない。
たとえ娘が苛まれ辛い思いをしていても、親として耐えるほかなかった。
今回の婚約破棄宣言は大勢の騎士たちの前で行われた。
酒の席のこととは言え、王族が一度口にした言葉を戻すことは出来ない。
しかも、普段から婚約者に対して辛辣な言動が知れ渡っている現状では、誰しも納得の結果であり、遅すぎるという声すら聞こえた。
バルジット家は婚約の破棄を理由にアリシアを修道院入りさせることで、事態の終焉を願った。
これに待ったをかけたのがアーサーだった。
「婚約破棄も解消もしない! あれは酒に酔っての間違いだ。本心ではない!!」
「しかしながら、殿下はいつも娘に対し厳しい態度で接しておられた。周りも不仲だと思っていたくらいです。
私どもの育て方が悪いばかりに殿下のお役に立てず、本当に申し訳なく思っております。つきましては、殿下の婚約者としての立場を辞した後、修道院に身を置くこととなりました。娘も納得しております」
「なに? 修道院へと? バルジット侯爵、何もそこまでせんでもよいであろう。修道院など入ってしまえば、令嬢としての未来が経たれてしまう。それではあまりに惨いというもの」
国王が会話に割って入り、アリシアの肩を持つ。確かにアリシアに非はない。
しかし、普段からアーサーがアリシアへ向ける言動は、常にアリシアの不出来に対する叱責だった。世間の目はアーサーの言動を鵜呑みにしている者も多いだろう。近しい者がそんなことは無いと異を唱えても、王族の言葉は絶対である。
アリシアが王子妃の器にないと烙印を押されたようなこの状況の中、彼女に貴族令嬢としてのまともな幸せがあるとは思えない。今更どう取り繕っても遅すぎるのだ。
「娘とも十分話し合い、本人も納得しております。いくら箝口令が敷かれたとはいえ、人の口に戸は立てられません。すぐにこの話も人々の耳に入ることでしょう。そうなれば娘は、アリシアはまともな婚姻など望めるはずもなく、俗世間から離れた暮らしをする方が幸せになれるというものでございます」
「ならば、私の側妃になれば良い。婚約の維持が難しいのであれば、私が今後の面倒を見よう。迷惑をかけた詫びと思ってくれれば良い。これからも私のそばにいれば問題はないであろう?」
その場に居合わせた国王も侯爵も驚き、開いた口がふさがらなかった。
国王は額に手を当て眉間にしわを寄せている。
侯爵は信じられない者を見るような目で、アーサーを凝視した。
国王の背後で控えていた宰相が、今日初めて口を開く
「バトラン王国では、王家においても側妃の存在を許してはおりません」
「ならば、私が第一号にでもなれば良い。何ごとにも最初は存在するものだ」
そこまで固執するのなら、なぜもっと大事にしてくれなかったのか?
せめて人前でだけでも最低限の態度であったなら、まだ他の道もあっただろうにと、バルジット侯爵は苦々しく思った。
いくら忠誠心が強いとは言え、大事な娘を小馬鹿にされて面白いわけがない。それでも、それでもと今まで耐え続けてきたのに……。
「これ以上話し合っても時間の無駄でございましょう。我が侯爵家もアリシア本人も、これ以上アーサー殿下の元、お役に立てるとは思えません。どうか、どうかお慈悲を!!」
バルジット侯爵の苦しい心の声。アーサーはそれでも首を縦に振ることはなかったが、国王がその権限を持ってこの婚約の解消を認めた。
婚約破棄ではなく、解消とすること。
今回の第二王子の勝手な婚約破棄宣言によるものではなく、アリシア侯爵令嬢の病気療養による婚約の辞退であり、その後アリシアはしばらくの間領地で過ごし、時期が来れば普通の令嬢としての生活を送るものとすること。
どこまでもアリシアを馬鹿にしたような決定ではあるが、今はとにかくこの第二王子から逃れたいというアリシアの意を汲むために侯爵は頷くことにした。
この面白おかしくも馬鹿げた提案を飲む代わりに、今後第二王子がアリシアへ近づくことを禁止することを無理矢理にも付け加えさせた。期限はアリシアが病気療養から戻り社交界へ復帰するまで。
それに対してもアーサーは癇癪を起し認めぬと駄々をこねたが、さすがに国王の叱責でおとなしく沈めた。
バルジット侯爵は邸に戻るとアリシアと夫人を前に、話し合いの結果を淡々と告げた。
普段温厚な夫人から怒りの気が発せられたが、生まれながらにして貴婦人の彼女はそれを表に表すこともなく、とりあえずは関係を断つことができて良かったわね。と、アリシアを気遣った。アリシアもまた、アーサーに関わらずにすむことが出来て嬉しく思っていた。
「アリシア、お前には負担ばかりをかけて済まない。これからは領地でゆっくりすると良い。
もう、邪魔をする者はいない」
「お父様、お母様、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。殿下の手が追ってくる前に、少しでも早く領地へ向かおうと思います」
ようやくアリシアはアーサーの手から逃れ、心静かに過ごせると思っていた。
しかし、それも一時のことであると、その時は思いもしなかった
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