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しおりを挟む副隊長の座を下ろされ王宮内専属の騎士になったレイモンドは、王族の護衛につくこともなく、門番などの警備に回されていた。
その場から離れることを許されないその任務は、彼の所在を確認するには持って来いの仕事と言える。誰が考えたかなど明らかだ。
しかし、王宮内に出入りしてしばらく経っても一度としてアーサーの姿を見ることがない。王宮内の出入口は確かにいくつかあるが、それにしても一度も見かけたことが無いのはおかしすぎる。
当初、情けない自分を格好の餌食にするべく姿を現すかと思っていたのだが、それも無い。
探りを入れようにもこの場を離れることが許されないので、調べようもなかった。
そんな日々を過ごしていると、辺境の領地から父と兄が王都内の別邸に姿を見せた。騎士隊副隊長にまで上り詰めた自慢の息子が、その剣の腕を発揮することも叶わないまま門番をさせられている。それは、彼らにとっては侮辱以外のなにものでもない。
国を、王族を守るに女ごときの事で目くじらを立てるなと言うのが、父であるオーサー辺境伯の考えだった。
失態をおかしたわけではない。ならば罰を受けるなどあり得ない。兄も同じ考えだ。
騎士にとって大事なことはその技量はもちろん、忠誠心であると。
オーサー家にとって忠誠心は揺るがない。それはレイモンドも然り。
第二王子の不興を買ったとて、婚約解消をした元婚約者についてだ。『元』が付く以上、今更お咎めなど気でも狂ったか?という事を、国王と王太子の前で啖呵を切ってきたとレイモンドは全て事後報告で聞かされ、思わず頭を抱えてしまった。
レイモンドの降格処分が納得できない辺境伯は、その場で息子レイモンドの脱隊を宣言し、すでに騎士ではなくなったという。
そんなことも知らされず、レイモンドは今日の任務をしっかりとこなしてきていたのだ。
「父上も、兄さんも突然すぎますよ。せめて前もって相談でもあれば身の処し方もあったのに。まったく」
「何を言うか! お前がいつまでも騎士隊になど未練を残すからいかんのだ。あんな門番など子供でも出来るような仕事をさせられおって。情けない」
「父上、門番は子供にはできませんよ」
「ふんっ。それくらいわかっておるわ。馬鹿にするな」
王都の別邸で久しぶりに顔を合わせた親子三人。久しぶりの再会に酒を酌み交わし、長い時間を埋めるように酒を流し込む。
レイモンドが王都の騎士隊に入ってから満足に領地に戻ったことはない。
それでも副隊長に任命されたことで、噂は辺境の地にも流れてくる。元気で頑張っていると家族は皆安心していたのだ。
「で? その『白百合の君』とやらを嫁に娶るのか?」
兄の直球の言葉に、堪らずレイモンドは「ぶふっ」と酒を拭きこぼす。
「アリシアは、今もどこにいるかわからないのです。探してはいるんですが見つけられずにいます」
「話は聞いているが、全く手掛かりはないのか?」
「はい。王都内はほぼ探しつくしたと思います。国内の田舎にいるとは考えにくいので、どこかのお屋敷に匿われているのではないかと思ってはいますが、それも確証はありません」
レイモンドの憔悴した様子に、二人は顔を見合わせ言葉を無くした。
「私が騎士隊にこだわったのは、王都に居れば万が一見つけることができるんじゃないかと思ったんです。女ごときにと父上には笑われそうですが、この想いを捨てることはできませんでした」
ぼそりとつぶやくように口にするレイモンドに
「そんなことだから逃げられるんだ。本気なら掴んだ手を離すもんじゃない。引きずってでも連れ帰らんからこんなことになるんだ。本当に欲しければさっさと押し倒せ!」
レイモンドは父の言葉に思わず兄を見ると、兄も腕を組み「うんうん」と頷いていた。
相談する相手を間違えたと、残念に思えてうなだれてしまった。
「探して見つかったところで、脈がないかもしれません。一度は想いが通ったように思えたのですが、何も告げずに姿を消すということは、つまり、そういうことでなんでしょう」
俯きながらちびちび酒を口に含むレイモンドに
「ま、ゆっくり探せば良いんじゃないか? これからは騎士として謀殺されることもないんだから。領地で俺たちの手伝いをしながら、国を渡り歩いて探すもの面白いさ。
お前には私兵の指導をしてもらうつもりでいたんだ。騎士隊副隊長の名は伊達じゃない、最近の言うことを効かない生意気な小僧どもも、お前の言うことなら素直に聞くかもしれんからな」
「おう、最近の若造は礼儀を知らん。腕に覚えがあると言っても実践を積んだわけじゃなし、まったく使い物にならんのだ」
「ああ、なるほど。それは騎士隊でもそうでした。上に就く者は皆、苦労していましたよ」
などと、いつの間にか仕事の話になってしまう。オーサー辺境伯家の男たちは根っからの騎士道精神を持った、武骨な男たちだ。
そんな風に酒の量だけが増え、夜を明かすことになる。
その後親子三人仲良く酔いつぶれ、酒瓶を握りしめながら床の上で目が覚めた。
堅い床で寝たため体がぎしぎしと痛む。
目覚めた三人は、皆一様に青白い顔で無言のまま帰り支度を始めた。
オーサー辺境伯地を目指し、王都の別邸を後にした。
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