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翌日、サイモンは今後について話がしたいと家族を集めた。
伯爵夫妻とファウエルに向かい合い、フローラを自分の隣に座らせると口を開く。
「父さん、母さん。僕はこの家を出て貴族籍を抜けようと思っています」
「な、なにを? 自分が何を言っているかわかっているのか?」
父である伯爵が告げる
「兄さんが怪我を負ったことをフローラの罪だとして、この家でいいようにこき使っている現状。ならば僕も一緒に罪を償います。騎士学校は辞めます。辞めて平民兵になります」
「平民兵などと? 貴族兵とは違い平民になれば真っ先に前線に送られる。命の保証はないんだぞ。わかっているのか?」
「わかっています。わかった上で言っています。平民兵になれば例え平民でも生活は保障される。地道に稼ぐよりも多い金銭を得ることもできます。
フローラ、贅沢はさせられない。君に負担をかけることも多くなる。それでも僕についてきてくれるか?」
「はい。私はどこまでもサイモンと一緒です」
顔を見合わせ、視線を絡め合う二人は、覚悟の笑みを浮かべた。
「ふざけるな!! フローラは俺のものだ! お前になぞ渡さない。誰にも渡さない」
ファウエルは立ち上がろうとするが、足に力の入らない彼はすぐに体制を崩し倒れ込んでしまう。
フローラはとっさに助けに立ち上がろうとするが、サイモンに手で制される。
その手の先のサイモンを見つめるが、頭を横に振る彼を見て頷き目を伏せる。
倒れたファウエルを助けに行ったのは伯爵夫人であった。
「フローラ、お願いだ。僕のそばにいてくれ。君のためならなんだってする。だからここにいてくれ。僕のそばにいてくれ」
震える声で伸ばした手はフローラに向けられている。でも、それは届かない。
「お前たちは、この子がこんな姿になってもなおそんなことを。いい加減にしなさい!
お前たちは一生この子に償い続けていくしかないのよ」
倒れたままのファウエルにすがりつくように夫人は寄り添っていた。
「母さん、兄さんの怪我は事故だ。誰のせいでもない。運の悪い、悲しい事故なんだよ」
「まだそんなことを? 違う、ちがう! その女が全部悪いのよ。その女が全部めちゃくちゃにしたのよ。母親が母親だもの、お前はあの女に似たんだわ。綺麗な顔をして、腹の中は娼婦のような女に決まってる。この子達をたぶらかすことなど、さぞ簡単だったでしょうね」
「いい加減にしないか! ファウエルの怪我はサイモンが言う通り、悲しい事故だ。二人のせいじゃない。こうなってしまい、ファウエルの気持ちを優先させてやりたいと思ったが、もういいだろう。十分だ。
フローラ嬢、今までよくやってくれたね。私からもお礼を言うよ。ありがとう。
こんな言葉だけで済む話ではないことは十分分かっている。あとでアボット家とも十分話し合いをさせてもらうからね。心配しないでくれ」
「父さん……」
「サイモン、お前の気持ちはよくわかった。だが、平民になるなどバカなことを考えるな。
ファウエルがこうなった以上、お前にはファウエルのことを助けてもらうことになると思う。今はまだ先のことはわからない、でもお前の力が必要になる時のために、今は堪えてくれ」
「あなた! それではファウエルがあまりにも可哀そうです。この家の嫡男なのですよ。
あなたの子なのですよ!」
「だから何だと言うんだ! だったらファウエル同様、サイモンとてこの家の、私たちの子でもあるだろう! ファウエルの身を案じるのはよくわかる。だが、それすらも忘れるとは……私には理解できないよ」
「あなた、そんな……」
夫人は肩を震わせ、泣き崩れるファウエルの肩を抱きながら声をあげて泣いた。
伯爵は膝に両肘をつき、頭を垂れながらうなだれる様にうつむいていた。
サイモンはフローラの手を握りしめ、目をそらさずに家族を見つめていた。
フローラは、握りしめられたサイモンの手のぬくもりを感じ、うつむきながら涙をこらえていた。
フローラはサイモンに付き添われアボット邸へと帰宅すると、カミーユが出迎えてくれた。
エイデン家での様子をまだ知らない母は、サイモンを見て驚いてはいたが特段何か言うことはなかった。
今は何も聞かれたくない、探られたくないフローラには都合がよかった。
カミーユの自室で二人から事の詳細を聞いた彼は、近いうちにフローラを連れて領地に戻ることを約束した。
サイモンは一度騎士学校へ戻り、退学の手続きをするという。
父が言う通り、これから先の人生は家のため、兄のために捧げるつもりでいた。
その隣にフローラがいてくれさえすれば、彼はそれだけで十分だった。
贅沢はできずとも、華やかな社交などできずとも、二人で手を取りささやかな幸せがあれば、それだけで良かった。フローラも当然同じ気持ちだった。
多くは望まない。わずかな幸せで嬉しいと思えたのに。
それだけだったのに。
なぜ……
伯爵夫妻とファウエルに向かい合い、フローラを自分の隣に座らせると口を開く。
「父さん、母さん。僕はこの家を出て貴族籍を抜けようと思っています」
「な、なにを? 自分が何を言っているかわかっているのか?」
父である伯爵が告げる
「兄さんが怪我を負ったことをフローラの罪だとして、この家でいいようにこき使っている現状。ならば僕も一緒に罪を償います。騎士学校は辞めます。辞めて平民兵になります」
「平民兵などと? 貴族兵とは違い平民になれば真っ先に前線に送られる。命の保証はないんだぞ。わかっているのか?」
「わかっています。わかった上で言っています。平民兵になれば例え平民でも生活は保障される。地道に稼ぐよりも多い金銭を得ることもできます。
フローラ、贅沢はさせられない。君に負担をかけることも多くなる。それでも僕についてきてくれるか?」
「はい。私はどこまでもサイモンと一緒です」
顔を見合わせ、視線を絡め合う二人は、覚悟の笑みを浮かべた。
「ふざけるな!! フローラは俺のものだ! お前になぞ渡さない。誰にも渡さない」
ファウエルは立ち上がろうとするが、足に力の入らない彼はすぐに体制を崩し倒れ込んでしまう。
フローラはとっさに助けに立ち上がろうとするが、サイモンに手で制される。
その手の先のサイモンを見つめるが、頭を横に振る彼を見て頷き目を伏せる。
倒れたファウエルを助けに行ったのは伯爵夫人であった。
「フローラ、お願いだ。僕のそばにいてくれ。君のためならなんだってする。だからここにいてくれ。僕のそばにいてくれ」
震える声で伸ばした手はフローラに向けられている。でも、それは届かない。
「お前たちは、この子がこんな姿になってもなおそんなことを。いい加減にしなさい!
お前たちは一生この子に償い続けていくしかないのよ」
倒れたままのファウエルにすがりつくように夫人は寄り添っていた。
「母さん、兄さんの怪我は事故だ。誰のせいでもない。運の悪い、悲しい事故なんだよ」
「まだそんなことを? 違う、ちがう! その女が全部悪いのよ。その女が全部めちゃくちゃにしたのよ。母親が母親だもの、お前はあの女に似たんだわ。綺麗な顔をして、腹の中は娼婦のような女に決まってる。この子達をたぶらかすことなど、さぞ簡単だったでしょうね」
「いい加減にしないか! ファウエルの怪我はサイモンが言う通り、悲しい事故だ。二人のせいじゃない。こうなってしまい、ファウエルの気持ちを優先させてやりたいと思ったが、もういいだろう。十分だ。
フローラ嬢、今までよくやってくれたね。私からもお礼を言うよ。ありがとう。
こんな言葉だけで済む話ではないことは十分分かっている。あとでアボット家とも十分話し合いをさせてもらうからね。心配しないでくれ」
「父さん……」
「サイモン、お前の気持ちはよくわかった。だが、平民になるなどバカなことを考えるな。
ファウエルがこうなった以上、お前にはファウエルのことを助けてもらうことになると思う。今はまだ先のことはわからない、でもお前の力が必要になる時のために、今は堪えてくれ」
「あなた! それではファウエルがあまりにも可哀そうです。この家の嫡男なのですよ。
あなたの子なのですよ!」
「だから何だと言うんだ! だったらファウエル同様、サイモンとてこの家の、私たちの子でもあるだろう! ファウエルの身を案じるのはよくわかる。だが、それすらも忘れるとは……私には理解できないよ」
「あなた、そんな……」
夫人は肩を震わせ、泣き崩れるファウエルの肩を抱きながら声をあげて泣いた。
伯爵は膝に両肘をつき、頭を垂れながらうなだれる様にうつむいていた。
サイモンはフローラの手を握りしめ、目をそらさずに家族を見つめていた。
フローラは、握りしめられたサイモンの手のぬくもりを感じ、うつむきながら涙をこらえていた。
フローラはサイモンに付き添われアボット邸へと帰宅すると、カミーユが出迎えてくれた。
エイデン家での様子をまだ知らない母は、サイモンを見て驚いてはいたが特段何か言うことはなかった。
今は何も聞かれたくない、探られたくないフローラには都合がよかった。
カミーユの自室で二人から事の詳細を聞いた彼は、近いうちにフローラを連れて領地に戻ることを約束した。
サイモンは一度騎士学校へ戻り、退学の手続きをするという。
父が言う通り、これから先の人生は家のため、兄のために捧げるつもりでいた。
その隣にフローラがいてくれさえすれば、彼はそれだけで十分だった。
贅沢はできずとも、華やかな社交などできずとも、二人で手を取りささやかな幸せがあれば、それだけで良かった。フローラも当然同じ気持ちだった。
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それだけだったのに。
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