21 / 27
~21~
しおりを挟む
「父さん、一体どういうことですか? ちゃんと説明してください」
ギーズ辺境伯の息子であるエリクが詰め寄る。
「まあ、落ち着け。説明って、誰かに聞いたんだろう?じゃあ、その通りだよ」
「その通りって、俺は当の本人から話を聞きたいって言っているんです! まったく、いい歳をして。何を考えているんですか?」
二人の間にあるテーブルに手をついて、身を乗り出しながら聞き返す。
「はぁ……。世間では好色爺の狂乱だとか、山犬の乱心だとか、言われ放題だ。
悔しくはないんですか? いくらナミュール侯爵の頼みだからって、どうかしているよ」
「ほう、好色爺ねえ。良いこと言うじゃないか」
そういうと、くくくと口角を上げ笑ってみせた。
「笑いごとじゃないですよ。山犬と恐れられた父さんらしくないでしょう」
「ふんっ。山犬などと恐れられていたわけじゃない。ただ単に聞き分けがなく、躾の行き届かない田舎者とバカにされていただけだ」
「そんなことどうだっていいんです。なんだって、駆け落ちに失敗したような娘を父さんが娶らなければならないのかって事です。再婚するならするで、もっと他に良い人はいるだろうに」
ギーズ辺境伯は、ふっと鼻で笑い
「なあ、エリク。お前は今までの人生の中で、ただの一度も失敗したことはないのか?」
「は? そんなこと今はどうでもいいでしょう?」
「いいから、答えろ。どうなんだ? 失敗したことはないのか?」
エリクは一瞬うつむき考えたようにした後、すぐに顔を上げて言った
「そりゃあ、小さな失敗なら数え切れないほどにあるでしょうよ。ただ、人に迷惑をかけるような大きな過ちは犯していないと思いますよ」
「そうだろうな。お前は昔から聞き分けの良い自慢の息子だったよ。それは間違いない」
「はあ? 嫌味ですか?」
ハハハと、声を上げてギーズ辺境地伯が笑う
「人間は誰でも失敗するんだよ。大なり、小なり、失敗して成長するもんだと私は思う。
なら、その失敗の為に人生を捨てて良いと思うか?
たった一度の失敗で、やり直すことも許されず。若さ故に右も左もわからない者同士がお互いの人生を思い、考え抜いた末の行動を咎められるほど、私たちは出来た人間だと思うか?」
真剣な表情をしたまま、父であるその瞳を見据え、
「それでも、誰かを傷つけ犠牲にして良い理由にはならない。
たとえ若く何も知らないと言ったって、その先を考えられないほど馬鹿じゃないだろう?
だったら、責任は取るべきだ」
辺境伯は椅子に腰かけ腕を組み、背もたれに寄りかかっていた体を起こし、
「責任は十分取っただろうよ。これから先の人生を捨てて、償おうとしているんだから。
嫁いでくる娘はこんな祖父ほども年の違う、北の辺境の果てに嫁に来る。
悪いが、私はその子を抱くつもりはない。
一生、自分の子を持てず、女になることも叶わず枯れていく。
相手の男は平民に身を落とし、平民兵として東の戦地に志願兵として行ったそうだ。
貴族の立場を捨て、今度はその貴族の盾になるために命を張るんだ。
若く、これからの全てを捨てる覚悟でな。
そこまでしてもなお責任を負わせるか?ならば、これ以上どうすればいいと思う?
持てる物は若さだけ、地位も名誉も権力も何も持たない人間に、これ以上何を求める?
命まで奪うか? そこまでせねば納得は出来ぬか?」
「そこまでは思わなくても……。でも、納得しない者は多いでしょう。自分のことしか考えない者は王都には多いですからね」
「子供の過ちは親の責任でもある。ましてやその子たちは、まだ成人もしていなかった。
娘の親は爵位を息子に譲り、王都から離れた領地に身を置くそうだ。
それだけでは許されないと、ルネも息子に侯爵位を譲る決心をしたそうだ」
「え?ナミュール侯爵殿が隠居されると? それは本当ですか?」
「子の不始末は親の責任だ。そして、その親を躾られなかった責もまた、その親が償わなければならぬと言ってな。私も大分説得はしたが、決意は変わらなかった」
「そうですか、そこまで……」
「うちに来る娘はもう王都に戻ることはないだろうよ。私は社交などに出るつもりもないから、きっと一生この辺鄙な田舎で暮らすことになる。
貴族の娘が入るような修道院よりも、よほど詰まらない暮らしになるだろう。
私はな、常々思っていた。若い者がやり直しをしたいと思うなら、それを許してやりたいと。
それを見守ってやれる場所を与えてやりたいとな」
エリクは言葉もないままに、うつむきながら話を聞いていた。
「そこでだ、私もそろそろ隠居をしようと思ってな。隠居して、その娘の更生を助けてやれんかと考えた。それに、せっかく若い娘をそばに置くんだ、領地の端にあるあの別荘に二人で籠り生活しようと思う。
いきなりだが、これからのことはお前に全て任せるから、あとは頼んだぞ」
そういうと、にやりと悪ガキのような顔をして笑った。
「は? 何を言い出すんです? そんな、いきなり無理ですよ。それこそ何を考えているんだ! まったく!」
「ハハハ。いやあ、これから忙しくなりそうだ。楽しみでしかたないよ」
ギーズ辺境伯の息子であるエリクが詰め寄る。
「まあ、落ち着け。説明って、誰かに聞いたんだろう?じゃあ、その通りだよ」
「その通りって、俺は当の本人から話を聞きたいって言っているんです! まったく、いい歳をして。何を考えているんですか?」
二人の間にあるテーブルに手をついて、身を乗り出しながら聞き返す。
「はぁ……。世間では好色爺の狂乱だとか、山犬の乱心だとか、言われ放題だ。
悔しくはないんですか? いくらナミュール侯爵の頼みだからって、どうかしているよ」
「ほう、好色爺ねえ。良いこと言うじゃないか」
そういうと、くくくと口角を上げ笑ってみせた。
「笑いごとじゃないですよ。山犬と恐れられた父さんらしくないでしょう」
「ふんっ。山犬などと恐れられていたわけじゃない。ただ単に聞き分けがなく、躾の行き届かない田舎者とバカにされていただけだ」
「そんなことどうだっていいんです。なんだって、駆け落ちに失敗したような娘を父さんが娶らなければならないのかって事です。再婚するならするで、もっと他に良い人はいるだろうに」
ギーズ辺境伯は、ふっと鼻で笑い
「なあ、エリク。お前は今までの人生の中で、ただの一度も失敗したことはないのか?」
「は? そんなこと今はどうでもいいでしょう?」
「いいから、答えろ。どうなんだ? 失敗したことはないのか?」
エリクは一瞬うつむき考えたようにした後、すぐに顔を上げて言った
「そりゃあ、小さな失敗なら数え切れないほどにあるでしょうよ。ただ、人に迷惑をかけるような大きな過ちは犯していないと思いますよ」
「そうだろうな。お前は昔から聞き分けの良い自慢の息子だったよ。それは間違いない」
「はあ? 嫌味ですか?」
ハハハと、声を上げてギーズ辺境地伯が笑う
「人間は誰でも失敗するんだよ。大なり、小なり、失敗して成長するもんだと私は思う。
なら、その失敗の為に人生を捨てて良いと思うか?
たった一度の失敗で、やり直すことも許されず。若さ故に右も左もわからない者同士がお互いの人生を思い、考え抜いた末の行動を咎められるほど、私たちは出来た人間だと思うか?」
真剣な表情をしたまま、父であるその瞳を見据え、
「それでも、誰かを傷つけ犠牲にして良い理由にはならない。
たとえ若く何も知らないと言ったって、その先を考えられないほど馬鹿じゃないだろう?
だったら、責任は取るべきだ」
辺境伯は椅子に腰かけ腕を組み、背もたれに寄りかかっていた体を起こし、
「責任は十分取っただろうよ。これから先の人生を捨てて、償おうとしているんだから。
嫁いでくる娘はこんな祖父ほども年の違う、北の辺境の果てに嫁に来る。
悪いが、私はその子を抱くつもりはない。
一生、自分の子を持てず、女になることも叶わず枯れていく。
相手の男は平民に身を落とし、平民兵として東の戦地に志願兵として行ったそうだ。
貴族の立場を捨て、今度はその貴族の盾になるために命を張るんだ。
若く、これからの全てを捨てる覚悟でな。
そこまでしてもなお責任を負わせるか?ならば、これ以上どうすればいいと思う?
持てる物は若さだけ、地位も名誉も権力も何も持たない人間に、これ以上何を求める?
命まで奪うか? そこまでせねば納得は出来ぬか?」
「そこまでは思わなくても……。でも、納得しない者は多いでしょう。自分のことしか考えない者は王都には多いですからね」
「子供の過ちは親の責任でもある。ましてやその子たちは、まだ成人もしていなかった。
娘の親は爵位を息子に譲り、王都から離れた領地に身を置くそうだ。
それだけでは許されないと、ルネも息子に侯爵位を譲る決心をしたそうだ」
「え?ナミュール侯爵殿が隠居されると? それは本当ですか?」
「子の不始末は親の責任だ。そして、その親を躾られなかった責もまた、その親が償わなければならぬと言ってな。私も大分説得はしたが、決意は変わらなかった」
「そうですか、そこまで……」
「うちに来る娘はもう王都に戻ることはないだろうよ。私は社交などに出るつもりもないから、きっと一生この辺鄙な田舎で暮らすことになる。
貴族の娘が入るような修道院よりも、よほど詰まらない暮らしになるだろう。
私はな、常々思っていた。若い者がやり直しをしたいと思うなら、それを許してやりたいと。
それを見守ってやれる場所を与えてやりたいとな」
エリクは言葉もないままに、うつむきながら話を聞いていた。
「そこでだ、私もそろそろ隠居をしようと思ってな。隠居して、その娘の更生を助けてやれんかと考えた。それに、せっかく若い娘をそばに置くんだ、領地の端にあるあの別荘に二人で籠り生活しようと思う。
いきなりだが、これからのことはお前に全て任せるから、あとは頼んだぞ」
そういうと、にやりと悪ガキのような顔をして笑った。
「は? 何を言い出すんです? そんな、いきなり無理ですよ。それこそ何を考えているんだ! まったく!」
「ハハハ。いやあ、これから忙しくなりそうだ。楽しみでしかたないよ」
10
あなたにおすすめの小説
『嫌われ令嬢ですが、最終的に溺愛される予定です』
由香
恋愛
貴族令嬢エマは、自分が周囲から嫌われていると信じて疑わなかった。
婚約者である侯爵令息レオンからも距離を取られ、冷たい視線を向けられている――そう思っていたのに。
ある日、思いがけず聞いてしまった彼の本音。
「君を嫌ったことなど、一度もない」
それは誤解とすれ違いが重なっただけの、両片思いだった。
勘違いから始まる、甘くて優しい溺愛恋物語。
やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~
小桜
恋愛
ルディエル・アレンフォードは森に住む麗しの精霊守。
そんな彼が、いよいよ伴侶を迎えようと準備を始めているらしい。
幼馴染という関係に甘んじていたネネリア・ソルシェは、密かにショックを受けていた。
そろそろ彼との関係も終わらせなければならないけれど、ルディエルも精霊達もネネリアだけに優しくて――?
「大丈夫。ずっと居たいと思えるような場所にしてみせるから」
鈍感なネネリアと、一途で奥手なルディエル。
精霊に導かれた恋は、本人だけが気づかない。
異世界チェンジリング
ainsel
恋愛
「お姉さま、それちょうだい!」
六つ下の妹は、私の物を欲しがる。
私の物を持っていくが、なぜか自分の物と交換してくれる。可愛い我儘だ。
「お姉さまだけ、ずるいです!!」
でも私に来た婚約、王子様はあげたくないし、あげられない。
王子様に憧れる妹には悪いけれど、その王子様の評判はすこぶる最低。不幸になる未来しか見えない。
前世で生を終えた姉妹は、再び姉妹として異世界へと転生した。
一方は異世界を謳歌し、もう一方は……
本編完成済み。
ハッピーエンド確約。
メガネの出番は思ったより少ない。
タグ渋滞注意。
なろう様でも投稿しております。
婚約破棄で異世界転生を100倍楽しむ方法 ‐漫画喫茶は教育機関ではありません‐
ふわふわ
恋愛
王太子エランから、
「君は優秀すぎて可愛げがない」
――そう告げられ、あっさり婚約破棄された公爵令嬢アルフェッタ。
だが彼女は動揺しなかった。
なぜなら、その瞬間に前世の記憶を取り戻したからだ。
(これが噂の異世界転生・婚約破棄イベント……!)
(体験できる人は少ないんだし、全力で楽しんだほうが得ですわよね?)
復讐? ざまぁ?
そんなテンプレは後回し。
自由になったアルフェッタが始めたのは、
公爵邸ライフを百倍楽しむこと――
そして、なぜか異世界マンガ喫茶。
文字が読めなくても楽しめる本。
売らない、複製しない、教えない。
料金は「気兼ねなく使ってもらうため」だけ。
それは教育でも改革でもなく、
ただの趣味の延長だったはずなのに――
気づけば、世界の空気が少しずつ変わっていく。
ざまぁを忘れた公爵令嬢が、
幸運も不幸もひっくるめて味わい尽くす、
“楽しむこと”がすべての異世界転生スローライフ譚。
※漫画喫茶は教育機関ではありません。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。
猫宮乾
恋愛
再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。
星屑を紡ぐ令嬢と、色を失った魔法使い
希羽
恋愛
子爵令嬢のルチアは、継母と義姉に虐げられ、屋根裏部屋でひっそりと暮らしていた。彼女には、夜空に輝く星屑を集めて、触れた者の心を癒す不思議な力を持つ「銀色の糸」を紡ぎ出すという、秘密の能力があった。しかし、その力で生み出された美しい刺繍の手柄は、いつも華やかな義姉のものとされていた。
一方、王国には「灰色の魔法使い」と畏れられる英雄、アークライト公爵がいた。彼はかつて国を救った代償として、世界の色彩と感情のすべてを失い、孤独な日々を送っている。
ある夜会で、二人の運命が交差する。義姉が手にしたルチアの刺繍にアークライトが触れた瞬間、彼の灰色だった世界に、一瞬だけ鮮やかな色彩が流れ込むという奇跡が起きた。
その光の本当の作り手を探し出したアークライトは、ルチアを自身の屋敷へと迎え入れる。「私のために刺繍をしろ」──その強引な言葉の裏にある深い孤独を知ったルチアは、戸惑いながらも、初めて自分の力を認められたことに喜びを感じ、彼のために星屑を紡ぎ始める。
彼女の刺繍は、凍てついていた公爵の心を少しずつ溶かし、二人の間には静かな絆が芽生えていく。
しかし、そんな穏やかな日々は長くは続かない。ルチアの持つ力の価値に気づいた過去の人々が、彼女を再び絶望へ引き戻そうと、卑劣な陰謀を企てていた。
【完結】捨てられ令嬢の冒険譚 〜婚約破棄されたので、伝説の精霊女王として生きていきます〜
きゅちゃん
恋愛
名門エルトリア公爵家レオンと婚約していた伯爵令嬢のエレナ・ローズウッドは、レオンから婚約破棄を宣言される。屈辱に震えるエレナだが、その瞬間、彼女にしか見えない精霊王アキュラが現れて...?!地味で魔法の才能にも恵まれなかったエレナが、新たな自分と恋を見つけていくうちに、大冒険に巻き込まれてしまう物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる