恋愛(仮)

志賀崎都

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嫉妬

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 構ってくれない。
 夜になるとその日のデイリーイベントが佳境に差し掛かるとか何とかで、ゲームに夢中になる僕の彼女。ゲームでのチームメンバーだか何だかとはずっとチャットしているのに。僕には返事が来ない。
 彼女がゲームに夢中になったのは、ここ数ヶ月の話だ。付き合い始めた頃はそんなことなかった、寧ろゲームとは無縁の生活をしている人だった。
 夜の11時半頃、ゲームに夢中だということは知っているけど、あえて知らないふりをする僕はどうなんだろうとも思うが、いつも通り当たり障りのない言葉を送る。
「明日バイトある?」
 おそらく日付が変わるまでは返事は来ないだろう。もっと遅ければ1時、2時になるかもしれない。彼女の夜更かしの酷さは前より悪化していた。その事を彼女に言っても「そっちの方が酷かったでしょ」と言われるだけだから言わないが。事実僕も彼女と付き合う前は毎晩一睡もせず昼間に死んだように寝るのが当たり前だった。
 返事が来る気配もなく、やがて睡魔が襲ってきた。寝たくない、もうちょっと話したい。だけど、返事は来ない。
 もしかして、僕の一方的な恋なのだろうか? 付き合っていると思っているのはすべて夢なのだろうか。それとも何かの手違いで僕達は別れてしまったのだろうか。
 あまりの返事の遅さにそう思ってしまうことがある。デートの時はあんなに楽しそうなのに。
 睡魔に耐えながら時計を見ると、日付が変わって30分が経とうとしていた。僕が送ってから1時間。そろそろ諦めて寝ようとした時、スマートフォンが着信メロディを奏でた。1時間ぶりの音だった。
『明日はないよ、どうして?』
 どうしてって聞かれてもなあ。ひとりきりの部屋で呟いた。何か送る口実の質問だっただけであって、別に意味はない。
「いや、なんでもない。聞いてみただけ」
 次の返事はいつ来るだろうか。僕に送るだけ送って、ゲームに戻って仲間とのチャットを楽しんでいるに違いない。ベッドに入って返事を待とう。
 案の定、すぐには返って来なかった。

 翌朝9時前。ふと気がつくと、カーテンの外から太陽の光が漏れてきていた。彼女からの返事を待っている間に寝てしまったらしい。枕元に手を伸ばし、そこにあるはずのスマートフォンを手探りで円を描くように探すが、それらしき硬いものは見当たらない。仕方なく身体を起こすと、それはベッドの下に落ちていた。再び寝転んで画面を立ちあげると、2時47分の着信が残っている。それもふたつ。
『もう寝ちゃったかな、ごめんね。明日家に行ってもいい?』
『早く会いたいから9時くらいに行くね』
 僕はベッドから飛び起きた。急いで身支度したが間に合わなかったのは言うまでもない。
「寝癖すごいよ、ほらここ。直してあげる」寝坊したおかげで少し同居生活感が出たから嬉しかったのも事実だった。たまにはこんなのも悪くないな、なんて呑気に思った。
「ねえ、今度泊まっていい?」彼女の口から彼女の声で確かにそう聞こえたが、寝ぼけて聞こえた空耳ということにしておこう。
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