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第三章 遺跡の発掘

ワールドショップ

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ライルとルシアのコンビが作成した強固で巨大な氷のボードの上で、勇者パーティは戦っていた。ルシアとライルをメリンダたち四人が囲むフォーメーションだ。

後方からの攻撃もあるため、聖女のルミエールのところは防御を固め、残り三人で次から次に襲って来る魔物に危なげなく対応していった。

フロアボスはクラーケンだった。

ボス戦でもフォーメーションは変わらないが、後方からの攻撃がないため、ルミエールも攻撃に参加していた。

ライルは海水に毒素を混ぜる方法や海水に溶けている酸素を除去する方法がないかどうかを考えていた。特にイカは海中の毒素に敏感な生物なので、クラーケンは毒に弱いはずだ。今はボードの維持に集中する必要があるが、次回は水上戦でも戦えるように準備しておこう。

スターシアの放つ「雷神剣」という魔法がクラーケンに効果的だとわかり、パーティはスターシアを攻撃の要にした戦法に変えている。

ライルとルシアは最後尾であるため、戦闘の様子を後ろから見ている。

メリンダはクラーケンからの全ての攻撃を全身を使って防御していた。

ライルは妹の泥臭い戦い方を見て、「お兄ちゃんの盾になる」と力強い目で語っていた妹の幼い頃の顔を思い出していた。当時最高のタンクとして有名だったレンドルを紹介しろとせがまれ、レンドルに師事してしごかれ、女性でありながら、レンドルをも超える世界一のタンクに成長し、勇者にまでなった。

あんな小さな背中で、攻撃を一切後ろに通さない。

「すごいタンクになったな」

ライルの呟きにルシアが追随した。

「メリンダ、すごいね」

ナタリーがメリンダへの治癒魔法の合間にスターシアとルミエールに魔法強化の魔法をかけているようだ。

ルミエールは「神の雷」を放っている。「雷神剣」よりも効果は少ないが、確実にクラーケンの体力を削っている。

ついにクラーケンが倒れた。

すぐにクラーケンが消えてしまい、メリンダ達が驚いている。

「格納した」

ルシアが四人にウィンクした。格納のために開いたローブの前はすでに閉じていた。

ボス部屋の海水がどんどん抜けていき、下階への階段の扉が現れた。

メリンダを先頭に六人は地下61階へと降りていった。

その後も、勇者パーティは順調にダンジョンの攻略を進め、地下69階に到達した。

地下69階はアンデッドフロアだった。

ルシアが前に出る。

「ここはお姉さんに任せて」

ついにメリンダたちはルシアのスタバ戦法を見てしまった。

問答無用で次々に強力なアンデッドを格納していく姿はまさに圧巻だが、全裸を見せながら進んでいくルシアの後ろに、金魚のフンのようについて行く自分たちを何となく情けなく感じてしまった。

フロアボス手前のセーフティーゾーンで、それぞれが装備の再点検を行っているとき、同じ格納スキル持ちのルミエールがルシアに尋ねた。

「ルシアさんの格納容量ってどれぐらいなんですか?」

「多分なんだけど、制限ないと思う。確証はないけどね」

ルシアもよく分からないのだ。

そのとき、ボスの偵察に行っていたメリンダとライルの兄妹が戻ってきた。

「ボスはゴーストドラゴンによく似ているけど、ひと回り大きくて、からだのところどころが点滅していたわ」

メリンダは兄と二人の初チームということで、とても嬉しそうだ。

「恐らくゴーストドラゴンの上位種だと思う。ルシア、やってみるか?」

ライルがルシアに確認した。

「ええ」

「ちょっと待っててくれ。二人でやってみる」

メリンダたちを残して、ライルとルシアはボス部屋に入っていった。

二人が何の気負いもなく普通に部屋に入って行ってしまったので、メリンダたちは止めるきっかけを失ってしまった。

「ねえ、大丈夫かしら?」

ナタリーが心配して、みんなに問いかけていると、ボス部屋のドアが開いた。

「上手くいったぞ。さあ、地下70階に行くぞ」

メリンダたちが唖然としていると、階下から興奮したルシアの声が聞こえてきた。

「みんな早く来てぇ。すっごく綺麗なところよぉ」

地下70階は一面のお花畑だった。さまざまな色の花が咲き乱れていた。

少し先の小高い丘の上に赤いレンガ造りの建物がある。

ルシアはすでに建物の近くで何かしている。すると、建物が赤く輝きはじめた。しばらくすると輝きはなくなり、建物にドアが現れた。

ルシアがこっちこっちと手招きしている。

ライルがルシアの方に走って行く。メリンダたちも続いた。

建物の中に入ると、ルームキューブのような白いエントランスになっていた。ただ、奥の方に無人のカウンターがあるところが、ルームキューブとは異なっていた。

『いらっしゃいませ。ワールドショップのメイドのツェーです。皆様にカタログを展開します。精算は魔力で行います。ご注文がお決まり次第お声がけ下さい』

ルシアが聞こえているかと全員の顔をうかがっている。どうやら全員聞こえているようだ。

カタログに記載されている商品数は膨大だ。衣類、日用雑貨、家具などがある。ただし、食料品や書籍はないようだ。また、購入できる商品の大きさが決まっているようで、カウンターの上に置けるサイズまでのようだ。

女性陣は目を閉じているが、眼球が目まぐるしく動いている。

(こりゃあ、しばらく時間かかりそうだな)

ライルはキューブルームで待つことにした。

「おい、ルシア、キューブルームと繋げるように行ってくれないか?」

「ああ、ごめんなさい。夢中になってしまったわ。ツェー、キューブルームに繋げてくれる?」

『かしこまりました』

カウンターの左奥に扉が現れた。

「ルシア、みんな何に夢中になっているんだ?」

「化粧品よっ! 可愛いい服や雑貨も素晴らしいけど、まずは化粧品!」

ルシアの眼球がまたぐるぐるし始めた。

そして、全員で集まって何か相談し始めている。

ライルは「先に戻っているぞ」と声をかけたが、誰一人としてライルを気にするものはいなかった。

ライルは肩をすくめて、キューブルームへと戻って行った。
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