私、侯爵令嬢ですが、家族から疎まれ、皇太子妃になる予定が、国難を救うとかの理由で、野蛮な他国に嫁ぐことになりました。でも、結果オーライです

もぐすけ

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敵との対談

 ゾルゲは馬車を調べていたようだ。

 ドアがいきなり開けられて、驚いてこちらを振り返ったゾルゲの図だった。

 私は何でこんな図を見せられるのか。少しイラッと来た。

「何だ、お前たちは?」

 あら? 顔に似合わず、意外と渋い声を出すのね。

「やっと会えたわ、ゾルゲ。私はカトリーヌ・アードレー・ダンブル。こちらが私の夫よ。今は女装しているけど」

「ヒューイ・ダンブルだ」

 ゾルゲの細い目が力一杯見開かれていく。ヒューイの顔はよく知っているはずだ。

「こ、これはヒューイ殿下。このようなところに何用ですか?」

「用があるのは妻の方だ」

 ゾルゲの視線がヒューイから私に移る。

「カトリーヌ様、私はあなた様のお母様に勅命と騙されたのです。お、お許し下さい」

 やはり思った通りだ。

「二日後にダンブルから王国への侵攻が始まるわ。レインレイクまで兵を下げ、反転して王国を攻めるか、中立を最後まで保つのであれば許します」

「レインレイクですか!?」

 レインレイクは王都の北の郊外にある避暑地で王都まで馬で一時間の距離だ。

 ゾルゲにとっては、三千キロ以上の撤退となる。

 国境警備隊は有事の際に近隣から兵力を徴兵出来る権限があり、質に注文をつけなければ、最大で二十万の兵を集めることができる王国最大の戦力だ。

 そんな兵力が許可なく南下したら謀反以外の何ものでもないが、侵攻を受けての退却であれば、ある程度は許可するしかない。そう見せかける撤退ルートもカトリーヌはほぼ描いていた。

「そうよ。撤退ルートは後で知らせるわ」

「しかし、私が助かる保証はありますか?」

「今回ダンブル軍は、陸から二十万の大軍が最新兵器を引っさげて侵攻するの。私は軍師として全軍を指揮するから、あなたが約束を守れば、私も約束を守るわ」

 海軍も攻める準備をしていることは黙っておく。

「カトリーヌ様が軍師?」

「そうよ。王国を攻めるときは軍師をすることになっているの」

「信じられません……」

「おい、ゾルゲ。俺のカトリーヌの言うことを信じられないなら、ここで死ね」

「ちょ、ちょっと待って下さい。普通に考えて、まだ十九歳の娘に軍師を任せるなど信じられないです」

「ならば、死ね」

「ヒューイ、待って。ゾルゲが死んだら、ここの兵士は皆殺しにしないといけないのよ。三日間ほど時間が無駄になるのよ」

「皆殺し……?」

 ゾルゲがぎょっとした表情になる。いちいち不細工で、何だか同情しちゃう卑怯な顔ね。

「敵の兵士、いいえ、兵士だけではなく、剣を持って向かって来るものは、全て殺すわよ。剣を持つということは、私たちを殺すという意思の現れだから。当然、死ぬ覚悟は出来ているはずよね」

「そ、それは……」

「私は今日も母からの刺客を二人殺したけど、躊躇なく殺したわ。向かって来るものは殺す。でも、戦いに興味なく、土地に根づいて、日々を懸命に生きる民は大切にするわよ。ダンブル軍は掠奪、陵辱は一切しないわよ」

「降伏ではダメなのでしょうか」

「私は降伏でもいいのだけれど、ヒューイが降伏だけでは許してくれないのよ」

「その通りだ。死にたくなければ、俺が殺せないほどの手柄を立てろ。そうすれば、俺の大事なカトリーヌを怖がらせた罪を許してやろう」

「ヒューイったら……、格好良すぎるわっ」

「本当はこんな馬車男はここで殺してしまえばいいのだ。カトリーヌに危害を加えようとするなど万死に値するっ!」

「もう、ヒューイったら……」

「ちょっとゾルゲのおじさん、早く決めちゃわないと、イチャラブが始まっちゃうじゃない。どうするのさっ」

 ルミが早くしてヨォと、ゾルゲの脂肪豊かな腹を肘で突ついている。

「分かりました。仰せの通りに致します」

 ゾルゲがスキンヘッドを深々と下げた。

「あら、よく決心してくれたわ。悪いようにはしないからね」

「ちっ、ここで死ねばいいものを」

「じゃあ、二日後に攻め入るから、その時までにはいなくなっていてね。いたら皆殺ししちゃうからね。じゃあ、皆んな行くわよ」

 私はヒューイの手を取って外に出た。リリアが後に続いた。

 ルミがまだ残って、ゾルゲに話しかけた。

「ゾルゲのおじさん、女の子呼んできてあげるね。馬車、楽しみだったんでしょ?」

 後で知るのだが、ルミは情けない感じのオヤジを放っておけない性格らしい。

「ルミ、変態は放っておいて、さっさと行くわよ」

 リリアがルミの手を引っ張って、部屋の外に連れ出した。

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