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王国への侵攻

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「陛下、大変です。ダンブルが宣戦布告して来ました」

「何だと!?」

「理由は国境付近で治水調査を行っていた調査団への襲撃です。三名の技術者が殺されたそうですが、それよりもまずいのは、襲撃から逃れた一人がカトリーヌ皇太子妃だったのです」

「何だ、それはっ! 事実なのか?」

「事実かどうかは分かりませんが、ダンブル王は激怒しており、すでにダンブル軍の侵攻は始まっております。国境警備隊は敗走につぐ敗走で、大混乱をきたしており、事実かどうかを確かめることができません」

「王妃を呼べ。説得に当たらせろ。仲が悪くても姉妹であろう。殺すことはあるまい」

「王妃は東北地方の飢饉の救済に行ってらっしゃいます」

「ダンブルの近くではないか。ちょうど良い。説得するよう王妃に伝えろ」

「アードレー卿にも動いてもらってはいかがでしょう」

「それも同時に行おう。卿はどこにいる」

「最近はご自分の領地にこもって、領地経営に専念されておられます」

「そのようだな。そこそこ成果を上げているとエーベルバッハ卿が言っておったぞ。王宮での立ち回りだけが得意の男と思っていたが、王国の真珠を妻に娶っただけのことはあるということか」

「そこそこだなんて、とんでもございません。陛下にご報告する予定でしたが、農業生産が倍増し、税収が三倍に伸びているとの報告です。近隣の農民はどんどんアードレー領に流れ込んでいますし、従属貴族は国内貴族の三分の一ですぞ」

「なんと。だが、ちょうど良いではないか。アードレー家は王都から北の一帯が地盤だ。このままではダンブル軍にせっかく育てた農民や農地を奪われてしまうぞ。アードレー卿にも説得に当たらせろ。こんなときのために、娘を皇太子の嫁に出したのだ」

「はっ。直ちに手配します」

 宰相のマルクスはさっそく三人の使者を送った。カトリーヌ、シャルロット、ロバートのいずれもアードレー家の人に対してである。

 カトリーヌに送った使者は会うことができなかったと言って帰ってきた。

 シャルロットに送った使者は、姉に会うのも公務だから会いに行きます、という言質を持って帰ってきた。

 ロバートに送った使者は、侵攻して来たときに説得してみます、という返事を持って帰って来た。

 マルクスが帰って来た使者三人から北の様子を聞いたところ、おかしなことに具体的にどこかで軍事衝突があったという噂が全くなかったという。

 確かにダンブル軍は侵攻しており、次々に市町村を配下にしているらしい。ただ、略奪や陵辱がなく、民はいたって平穏なのだという。

 そして、遂に国境警備隊がレインレイクまで敗走してきているとの報告をマルクスは受けた。

「ゾルゲ将軍を呼べ。侵攻が早すぎるし、戦死者が出ているのかどうかが全くわからない」

 マルクスは警備隊への使者を出したが、信じられないことにゾルゲ将軍は呼び出しに応じないと言っているらしい。

「どういうことだ?」

「敗走ではなく、ダンブル軍の案内をして来たようです。ダンブル軍もレインレイク近辺の大草原に設営しておりますが、国境警備隊との交戦は全くございません」

「何だと!? まずい、陛下を王都から逃さねば」

 アードレー家従属の貴族たちからは、ダンブルの軍事侵攻が刻一刻と進んでいることの報告は来ていたが、警備隊の敗走についてはよく分からない、とのことだったが、情報を隠蔽していたようだ。

 王都は王国の北側に位置しており、王都より北の一帯はアードレー家の勢力範囲だ。

 マルクスは王国の北三分の一が、ダンブルの手に落ちたことを確信した。
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