私、侯爵令嬢ですが、家族から疎まれ、皇太子妃になる予定が、国難を救うとかの理由で、野蛮な他国に嫁ぐことになりました。でも、結果オーライです

もぐすけ

文字の大きさ
40 / 42

マリアンヌの行方

 ゾルゲは部下に敗走を演出させつつ、マリアンヌの捜索を命じていた。

 ダンブルに捕まってしまったら、死罪になるか島流しになるからだ。

 また、アードレー家からも捜索が行われており、アードレー家に捕まったら、一生幽閉されることになる。

 騙され、利用されていたゾルゲだが、マリアンヌの絶対的な美貌と高貴な佇まいに彼は心底魅了されてしまっていた。

 マリアンヌに何をされようとも徹底的に尽くす自信が彼にはあった。

 そして、遂にゾルゲの執念が実った。

 敗走途中の小さな村の教会のシスターに成りすましていたところをゾルゲの部下が見つけたのだ。

 部下に引きずられてマリアンヌがゾルゲの前に乱暴に座らされた。

 ゾルゲは部下に向かって激怒した。

「貴様、王妃様の母君になんたる態度だ。身の程をわきまえろっ」

「しかし、将軍、こいつは私たちを騙したのですよ。王国が滅びる原因を作ったのはこいつです!」

 部下には家族や恋人の安全と彼ら自身の安全を保証することで、敗走演出に協力させているが、王国への愛国心が消えたわけではない。

「黙れっ、貴様、厳重に処罰されたいかっ」

「しょ、将軍っ」

 ゾルゲは女好きで困ったところも多いが、部下からは親しみやすいおっちゃんとして、慕われていたが、自分たちよりもマリアンヌを大切にするゾルゲを許せなかった。

「マリアンヌ様は俺の憧れの人だったんだ。お前の気持ちも分かるが、丁寧に扱ってくれないか」

 だが、こう言われてしまうと、許さざるを得ない。男として、気持ちがわかるからだ。

「分かりました。下がります」

「マリアンヌ様、部下が申し訳ございませんでした。こちらにお座りください」

「ふん、ゾルゲ将軍、部下の教育がなってないわよ。だから、カトリーヌを仕損じるのよ」

「申し訳ございません。マリアンヌ様はどうされておられたのですか?」

「まあ、落ちぶれたわよ。アードレー家からも追われるようになったからね。教会で助けてくれたシスターに成りすまして生きて来たわ」

「そのシスターは殺したのですか?」

「私もさすがにそこまで鬼畜じゃないわよ。牢に入れてるわ。出してあげてくれるかしら」

 十分鬼畜じゃないか、とゾルゲは思った。

 しかし、見事に化けている。まるで別人だ。化粧とはすごいものだとゾルゲは改めて感心した。

「マリアンヌ様、私の庇護下に入りませんか? 化粧で隠せば誤魔化せると思います」

「嫌よ。私はロバートが好きだもの」

「でも、アードレー卿はあなたを罪人として捜索中ですよ」

「それはそうよ。陛下にはまだバレていないけど、虚偽の勅令を将軍に伝えた大罪だから」

「それは、そんなことはなかった、と私が言えば済む話です。それと、陛下はもう王国の王ではなくなりますよ」

「ダンブルが攻め落とすから?」

「はい。王都はもうダメです。陛下は南に逃げるでしょう。北はダンブルに併合され、カトリーヌ様の計画では、シャルロット様を新王国の女王に据えるらしいです」

「シャルロットに!?」

「はい。私はカトリーヌ様と何度かお話しさせて頂きましたが、あの方は本当に世界のため、人類のために尽くそうとされています。シャルロット様の王妃としての公務の実績をカトリーヌ様は非常に評価されていて、女王にとお考えです」

「あの子、小さい頃から妹に虐められてたのよ。あの子の頭の中は本当によくわからないわ。ロバートとも上手くやっているし」

「兄のため、自分のため、殿下のため、殿下と一緒に滅私奉公することしか考えておられないです。今回も戦争で一人も死んでいないです。田畑も民も誰一人傷ついていないです。そんな戦争ってありますか?」

「それは私も分かったわよ。実際にあの子のやり方を民の目線で見たから。あの子の兄のレイモンドの魂を感じるわ。だから、もう殺そうとは思わないけど、私はあの子も私も許せないのよ」

「マリアンヌ様ご自身を許せないってのは?」

「レイモンドはあの子をかばって馬車にひかれて死んだの。その日、私はあの子に危ないからふざけないように言ったのだけど、レイモンドには何かあったら妹を守るように言ったの。そして、カトリーヌは私の言うことを守らず、レイモンドは私の言うことを守って死んだの」

「いや、それはマリアンヌ様のせいでは……」

「私のせいかどうかを決めるのは私なのよ。私は自分を許せないし、カトリーヌも許せないの。あの子は一度だって私の言うことを聞いたことがないわ。シャルロットは素直なのにね」

「マリアンヌ様……」

「ゾルゲ将軍、あなた、女好きだけどいい人ね。でも、私はあなたの好意は受け取れないわ。私は自分を一生許せないから。私を側に置いておけるのは、同じ苦しみを味わっているロバートだけなの。私、ロバートのところに帰るわ」

「しかし、何をされるか分からないですよ」

「そうね。でも、ロバートの決めたことなら受け入れるわ。じゃあ、さようなら、ゾルゲ将軍。騙してしまってごめんなさいね」

 マリアンヌはその日、レインレイクのアードレー家の別荘にひょっこり帰って来て、ちょうど別荘に来ていたロバートを大いに驚かせた。

 ロバートは修道女の格好をして、化粧が崩れてしまっているマリアンヌを見て、ため息をついた。

「やりたいことはやって来たか?」

「ええ、あなた」

「許せないことをまた一つ増やしたな。許可なく外出することを禁止する。それとカトリーヌに謝罪しなさい」

「分かりました。あなたに従います」

あなたにおすすめの小説

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

異世界に逃げたシングルマザー経理は、定時退勤だけは譲れない

木風
恋愛
DV夫から一歳の娘を抱えて逃げた鈴木優子は、光に飲まれて異世界の王宮へ転移してしまう。 生きるために差し出した武器は簿記と経理経験――崩壊寸前の王宮会計を『複式簿記』で立て直すことに。 ただし譲れない条件はひとつ、「午後五時の定時退勤」。娘の迎えが最優先だからだ。 その姿勢に、なぜか若き国王ヴィクトルが毎日経理室へ通い始めて――仕事と子育ての先に、家族の形が芽吹いていく。

【今さら遅い】毒で声を失い公爵に捨てられた私。妹では精霊が応えず国は滅びへ。ですが隣国皇帝に溺愛される私に、今さら縋ってきても遅いです

唯崎りいち
恋愛
国一番の歌姫だった私は、妹に毒を盛られ声を失い、婚約者に捨てられた。 すべてを奪われた私を救ったのは、隣国の皇帝。 「お前の歌がなければ国は滅びる」と言われた私の歌は、精霊に届く“本物”の力を持っていて―― 一方、私を追放した国は偽物の歌では加護を失い衰退。 今さら元婚約者が縋ってきても、もう遅い。

全てを奪われてしまいそうなので、ざまぁします!!

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
義母に全てを奪われたジュディ。何とかメイドの仕事を見つけるも義母がお金の無心にやって来ます。 私、もう我慢の限界なんですっ!!

愛さないと言われた妻、侍女と出て行く

菜花
ファンタジー
お前を愛することはないと夫に言われたコレットは、その日のうちに侍女のイネスと屋敷を出て行った。カクヨム様でも投稿しています。

死ぬまでに叶えたい十の願い

木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」 三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。 離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する—— 二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

《完結》悪女と噂されたわたくしのざまぁ

ヴァンドール
恋愛
悪女と噂のわたくしとの結婚なら、どれほど軽んじても問題はないと思っていた旦那様。 ところが……。