恋人が生まれ変わったら猫だったけど魔王は気にしません!

たかはし

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そして再び出会う

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僕にはいつも可愛らしい恋人がいた。

彼女の鈴を転がすような声に耳を傾け柔らかな体をぎゅっと抱きしめる。
そうすると決まって彼女は『だめだよレオ。そんなに力を込めて抱きしめられたら私死んじゃう』と言って笑った。
実際に一度だけそうやって殺してしまったことがある。だって彼女が生まれてくるのが100年も遅くなってたから寂しくて。つい力を込めすぎてしまったんだ。
だからその次の彼女にはあまり触れないようにそれこそガラスの人形に触れるみたいに優しく優しく触ったものだ。

そうやって僕と彼女は何度も出会っては別れてを繰り返している。
だって彼女は脆く儚い人間だから。魔族の頂点に立つ長命で頑健な魔王の僕とは違う生き物だから。



はるか昔、はじめて彼女と出会い将来を誓った時のことは忘れない。
あの時の彼女も可愛かった。
まっすぐ伸びる黒髪に胸のあたりまでが薄いグレーでそこから下が真っ白なバイカラーのワンピース。
それから左右で色が違う瞳。右が青く左が金色という美しい彩色にぼくは息を漏らした。
胸の膨らみさえかすかな幼い彼女は生贄として僕の所へ寄越された。
生贄になるのはとても名誉なことだと笑っていたのを昨日のことのようによく覚えている。

そんな彼女を食べずに少しの間放し飼いにした。
なんとなくの気まぐれ。味が良くなるかなとか考えて。
すると彼女は『私を食べないの?聞いていたのとは違うんだね。魔王さまって優しい!』と笑って僕に抱きついた。
そんな子供らしい思い込みで優しい魔王認定された僕はこのまましばらく優しく接してやって勘違いさせ彼女が油断しきった所で正体を現し、四肢を順々に細切れにしては彼女の慈悲を乞う表情と悲鳴と罵倒を肴にその肉をしゃぶり尽くしてやろうとか思ってた。

けど彼女の方が上手だったみたいで。
それを実行するまでに僕の方が彼女に参ってしまってた。
もうそれこそ彼女に触られれば顔を真っ赤にしてしどろもどろになったりするような。
そんな甘酸っぱい初恋。
愛していると伝えれば彼女もそれに応えてくれて。とても幸せだった。

でもそんな幸せな時間も長くは続かなかった。
まだ魔王としては年若かった僕は比類なき魔力を持っていても軽く見られていたようで反乱を起こされてしまった。
まあ幸いにも反乱は小規模ですぐ治めることはできたけどその分少数精鋭で王宮の深い所まで侵入されてしまって。
この頃にはもう彼女は僕の弱点と化していたことを反乱を起こした者もよく理解していたようで彼女を人質にして交渉を進めやすくしようとしていたくせに手違いで手にかけてしまったようだった。
彼女を攻撃された僕が怒り狂ったのは当然のことで正気に戻った時には反乱者の体は足首から下しか残ってなかった。
まわりにはほとんど炭化した肉やそれから発生した煙と瓦礫になった壁やらがそこかしこに散らばっていた。僕はそんなものには目もくれず彼女のそばへと急いだ。

彼女は赤い血で出来た絨毯の上で力無く横たわっていた。
僅かに呼吸をしている彼女を抱き上げると芳しい血の香りがぶわりと叩きつけられる。こんな時だというのに口の中によだれがじゅわりと溢れた。
おいしそう。とてもおいしそうだった。いや。彼女は確実においしいんだと思う。くぱりと口を開けて彼女をひと飲みにしてしまいたい欲求と争っているとひゅうひゅうと音がした。
彼女がなんとか言葉を残そうとしていることに気付いた僕は服が血で染まっても気にせずに彼女の手を取っていた。

「まお、さ、ま……また、ね……………」

彼女はもうそれ以上何も言わなかった。
僕は彼女の魂が彼女の肉体から離れていく所をじっと見守り、そしてその魂に目印をつけた。僕だけにわかる目印。
その魂が天に昇っていくのを見つめついには見えなくなってから僕はきっとまた生まれてくる彼女を見つけて再び僕を見てもらおうと誓った。
だって彼女は言ったから。またねって。


僕は何年も待った。彼女が生まれ変わってくるのを待った。そうして次の彼女が生まれて来たのはあれから大体200年程度経ってからのことだった。
目印はちゃんと魂に定着していたけど魂と肉体がしっかりと融合するのに少なくとも10年近くはかかるみたいでそれらが渾然一体になるまではうまく目印の気配をたどることができないようだった。
たぶんそのせいでそこまで生きられなかった彼女のことが感知できなくて彼女を見つけるまでにこんなに時間がかかってしまったんだと思う。
でもそのおかげで僕は生贄として出会った頃のような彼女に出会うことができたんだ。
彼女は相変わらずまっすぐの黒髪に青と金のオッドアイでまるで本当にあの時の続きのようだった。
そして今度の彼女も僕を受け入れてくれてまた幸せな時を過ごした。
少しずつ成長していく彼女におっぱいは大きくなるのかな?ってふざけて触ったことがあった。
僕の手が大きすぎるのか彼女のおっぱいが小さすぎるのかまったく揉めなくてお互い何とも言えなくなったのもいい思い出だ。

そして彼女は数年で美しく成長した。
ここが人の国であったなら引く手あまただったろうに彼女はずっと僕だけを見てくれていた。この瞬間が長く続くようにと彼女を魔物へと変質させてから結婚をしようと話しあっていた。
でもやっぱり幸せな時は長く続かない。
あっという間だった。流行病にかかった彼女は見る間にやせ細りあっけなく死んだ。
やはり最後に『またね』と残して。

それから何回彼女を待ったことだろう。生まれては死んでいく彼女。ずっと一緒にはいれない彼女。僕の目の前で死んでいく彼女。何度も。何度も何度も何度も何度も何度も何度も!
それでも僕は彼女を諦められなかった。次の彼女とは末永く共にいられるかもしれない。ただそれだけを信じて。





前の彼女が死んで200年ちょっと。僕はこの頃になると毎年毎年いつ彼女に会えるのかと楽しみにしていた。
そしてある日、ある感覚が僕に走る。
彼女だ。彼女は生まれてたんだ!僕は嬉しくなって城を飛び出した。早く彼女に会いたい!その一心で足を動かせばそれこそ風のような速度になった。
そうやって魂につけた印の気配をたどれば人の町にたどり着いた。港町のようで遠くの方に大きな船が泊っている。とても活気があるみたいだ。
さすがに魔王然とした姿で町に入るほど僕は馬鹿じゃない。うねる角や鋭い爪、それから人間よりも大きな体などを町に溶け込むようなありきたりな人の姿に変化させていく。
明るいウェーブがかった栗色の髪が目にかかったのをきっかけに随分と前の彼女が好きだと言ってくれたのを思い出して笑みがこぼれる。
そして特別背が高いわけではないとは思うけど元が大きいからか平均した成人男性よりも目線が高い。彼女を探すのに小さいよりは大きい方が便利だから気にしないけどね!
瞳はグリーンで人間の瞳に多い色になっているのが面白い。一部を除き魔族が人間に変身するとたいてい人間の範疇の形や色になる。誰かこのあたりのことを研究してくれるならお金出すのになぁ。
上から下まで人間らしい姿になってから町に入る。そこの路地を右に左にと進んでいく。目印の気配を読みとり着実に彼女の下に近づいている。あと、もう少し……

こつりと靴を鳴らして路地を出れば地元の者しか使わないような小さな漁港に出た。そこから町の方にちょっと入った所。そこに彼女はいた。
真っ黒でオッドアイ。うん。彼女の特徴だ。

「みゃっ」

くりくりとこぼれそうな色の違う大きな瞳は僕をしっかりと見上げていた。しっぽがぴーんと立っていてとてもかわいらしい。
………………。
うん。あの。え??これ、彼女??
そこではまだ小さな子猫がみゃうみゃう叫んでいた。





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更新は不定期です。
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