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13.皇族の帰還・再動

二百六十六話 皇族に継承されし眼

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266話 特別な眼・深淵に呑まれた皇具

「ふむ、これに関しても見た方が早く判り易いか・・・」
ちらりとバーゼスクライトがこっちを見る、まぁ深淵を防ぐ役割を持っているここ
なら出しても問題は無いのだろう、深淵に反応して互いに活性化しなければいいが
・・・とは言え私がためらったところで仕方ない、亜空間倉庫を開きそこから深淵と
同じ気配を放ち淀んだような暗く鈍い輝きを放つ王冠と皇剣を取り出す
「これが・・・?何かおかしくない?王冠は色がくすんでるし宝石も濁ってる、剣は
黒くなって何か赤い線があるし・・・これ本物?」
「本物だ、どちらかと言うとこっちが本来の姿なのやもしれん・・・性能が上がって
いるし王冠の宝石もこっちの方がそれらしく見える」
「んん・・・何か見てるだけで威圧感みたいな、息苦しさを感じるんだけど」
「成程、生者にとってはそう言う感じ方なのか・・・これは深淵に染まってしまった
影響の1つだろう、あまり触るなよ?深淵の一端でも危険だからな」
「触りたくないっての、なんか近付くだけでも死の予感がビンビンするし」
「我ら死者にとってはどこか恐ろしくも惹かれる気配なのだがな、人間にとっては
脅威としか認識しないのか」
「いや、私にも惹かれる感覚はあるよ・・・実際言ってる通りな感じだし」
「そうか・・・感じ方は生者も死者も同じなのか」
「多分ね、でも触ったら死ぬどころかもっと悲惨でおぞましい事になりそうで・・・
なんて言うか伸ばそうとした手が本能的に勝手に引っ込むかんじ?」
「ふむ・・・まぁ我らには深淵の耐性が僅かだがあるから耐えられるが、普通の人間
や魔物達では耐えれんだろう、それでも生者が触っていい事は無い」
そこで俯いて考えるような仕草をする、悩んでいるような思いをはせているような
「・・・もし呑まれればかつて龍を呑み込み起きた悲劇の再来になるやもしれん」
そしてボソッと息を吐く様な小さな声でそう溢した、彼女には聞こえて無いようだ
この言葉にも意味があるのだろうか?個人的にはバーゼスクライトは意味のない事
は口にしない者だとこれまでの事から思っているが・・・まぁあの口ぶりから歴史の
話しだろうから私には着いて行けない、それに彼女も知らないのかもしれない
ただ今の話から逸れるから私にのみ聞こえる様に言ったのかもしれないが・・・
「うーん、確かにこれはもう継承しているような物じゃないね」
「あぁ、さてこれで皇族の役目は判ってもらえたな?正直言って支配者や管理者と
しての統治はオマケで我等の役目は深淵の抑制と扉の管理だ、特に深淵に対して
干渉出来るモノが存在しなかったから仕事が統治になっているだけで・・・」
「えぇ・・・そんな適当なの?統治」
「適当と言うより変な事をしなければ問題ないからな、特に語る事も無い・・・だが
しいて言うなら緊急時の事だ、その時は先ず他者の意見を一回聞け、これだな」
「成程・・・確かに言う事無さそう、で?それなら私これからどうすりゃいいのさ
さっき言ってた眼の訓練?だってどうすればいいか判んないし」
「それに関しては正直色々見ろとしか言えんのだがな」
「色々って何なのよ」
「本当に色々だ、人でも魔物でも物体でも魔法でも書物でもなんでもいい」
「本当に色々ね、それでどうなるの?」
「基本的に特殊な王の眼と言うのには共通した能力がある、それが真偽や真贋を
見抜く力だ・・・正直これはそこまで重要なものでは無い、同じような能力は鍛え
れば誰でも身に着ける事が出来るからな」
「ん?じゃぁなんで?」
「他にも共通して、魔眼や邪眼と言った眼を使った能力と魔法への耐性を得る事が
出来る、これは眼の力が幾らか覚醒していなければならないが、鍛え上げれば眼の
魔法や能力に限らず精神系統に干渉するあらゆる全てに幾らかの耐性を得る」
「へぇ・・・そんな便利なものなの?良く知ってるね」
「私が実際にそこまでの覚醒はしているからな・・・今は死者になってしまった事で
これ以上成長出来なくなったのか現状では伸びている気がしないんだ」
「ふーむ、取り敢えずそこまでは鍛えろって事?」
「そうだ、異常への耐性はいくらあっても困らない、あって損は無い」
「確かにね、それ以上はどうするの?」
「残念だが私には判らん、私も独学・・・自力のみでやってきたからな、何か知って
いる者に会えたら聞いてみるしかないだろう」
「他にも居るの?」
「眼は大体血族による継承か契約による獲得だ、我らの祖先は深淵への対抗のため
行った最初の神や精霊、妖精との契約の際に目覚めたらしいが・・・」
「能力は判ってる?話を聞く限りその契約とかに関係してそうだけど」
「いや契約を契機に目覚めただけで契約によって得た物では無い、だから覚醒に
よって目覚める能力も判らん」
「はぁ、能力が判れば方向性も絞り込めそうなんだけど」
「仕方あるまい、前に目覚めたのは3代前の皇弟殿だったが私と同じくらいの頃に
死んでしまっているようでな、探しはしたが既に情報が残っていないのだ」
「うーん、確かに一族の力なんだから情報は在りそうだけど口伝でしか伝えてこな
かったのかな・・・途中で途切れそうだから普通やらないと思うけど」
「どうなのだろうな、父上もこの眼の事は一族の中に現れる事がある異色眼と言う
事しか知らなかったようだから、情報はもう途切れていると考えた方が良い」
「まぁそれなら仕方ないか」
「私は直感的に能力を把握した、もしかすると能力は直感的に判る様になっている
のかもしれん、取り敢えずは基礎を鍛えておけばいいだろう」
「分かった、まぁ何事も基礎からだしね・・・それで兄様たちはどうするの?」
「主の旅について行く、現状それ以外は考えていない」
「そもそも離れるのも難しいからな」
ふらふら壁や棺を見て回っていたバルゼリットがぼそっと溢した
そういえば今はこの体に憑りついているような感じだったか、別の物に移せれば?
「なーんかそっちは気楽って言うか自由でいいな~」
「いや何かをやらねばならない、そんな義務感や焦燥感に使命感に襲われている」
「どう見てもそんな風に見えないけど・・・」
「分からない事でいつまでもぐだぐだと悩み続けるは愚かなだけだ」
「俺もそんな感覚がある、だが何にも判らん以上兄者に任せている!」
「そんなはっきり言う事それ?まぁ分かった、こっちはこっちでなんとかする
道中顔見知りも居たし・・・なんとかなるかもしれないから」
「あぁそうだ、吸血鬼王とは仲良くしてくれよ?」
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