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14.それは成長か退化か

二百八十七話 毒溜りの森:毒沼の樹巨人

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287話 泥沼での戦い

飛んでくる液体を防ぎながらざぶざぶと水と泥を掻き分け、泥沼に取られる足を動
かして近付いて行く、これなら火の魔法を1つでも修得しておくべきだったかな・・・
あまり効果の無い呪弾だが、一応命中した時の衝撃によって少しだが攻撃の方向を
逸らす事が出来る、望んだ場所に向かう訳じゃないから期待は出来ないが偶に外れ
る事がある、それでも命中する時は大剣で打ち払う、剣が届く範囲までなんとか近
付いてから上部の花部分を斬り飛ばす、なんとか1体倒した・・・が、移動制限のせい
で1体倒すのにもそれなりの時間が掛かってしまった、それに倒した事で反応した
のか他のバーチスポアが活動し始めた、それよりも近くにあるグルネバリの水中に
ある茎と思わしき場所へと突き刺す・・・反応は無い、切れた花の部分が水面に浮かん
で僅かな波に流されているだけだ、どうやらこっちはただの植物だったようだ・・・
持ち上げてみると小さい花の下には大きな葉が幾らか重なっている、この細長い葉
は道具屋や市場でも見掛けたな・・・まぁこれと同じ物かは知らないが回収しておこう
動き出したバーチスポアが液体を飛ばして来る、だがそれなりに距離があるからか
命中精度は低いし、距離があるおかげで防ぐのも簡単だ、ただ倒すために近付かな
ければならないが・・・そうなると集中攻撃されるのは目に見えている、面倒だし相手
しないと言う方法もあるが、それでも先に進むにはそこを抜けないといけない訳だ
どうしたものか、ここから先もっと面倒なのだとしたらここで引き返した方が賢明
なのだろう、植物系と虫系がメインなら火属性があった方が良いだろうし・・・まぁ
属性攻撃なんて呪と聖以外持ってないから準備不足も甚だしいんだけど、ただ残り
のも確認はしておきたいから、取り敢えずキンリンガムイに呪弾を撃ち込んでみる
するとそこを中心に波が出来たかと思えば盛り上がり、押し寄せて来た大きな波を
大剣で防ぎ踏ん張って倒れるのを防ぐ、流石に全身濡れてしまったが転倒は防げた
ザバァと落ちてきた水飛沫が飛び散り最後の小さな波を作る、あの盛り上がりと大
きな波の割にその体は小さい・・・膝下と思われる部分から水の中だがそれでも人間と
似た形の2足2腕で2M程の人型の樹だ、胸部には窪んだ場所がありそこから黄色い
蔦が這い出ている、そして捻じれた木が絡まるようにして出来ている手足と大木が
細く圧縮されたような歪な縦に裂かれたような跡が模様になっている胴体に、捻じ
れた木が円を描く様になっている丸い形に刺々しく枝の突き出た頭部・・・そしてその
眼と思わしき部位は黄色く光っている・・・胸部の窪みの中心からも黄色い光が見える
手には3本の指の様な先端の鋭い枝があり、小さく開閉を繰り返している・・・滑らか
に曲がっているしあれは指に相当する部位なのだろう、奴が一歩前に足を出した・・・
すると周囲のバーチスポアが急速に朽ちていく、いやそれどころか沼の周囲の草木
さえも朽ち始めている、奴が周囲の生命体から生命力を吸収しているのだろう、だが
自分には影響が無いし土も影響を受けている様には見えないから植物系に当たる魔物
や生命体が対象と思われる、だから奴と直接触れている沼が土も水も影響を受けてい
ないのだと考えられる、なんだったら一時的でもいいからこの沼を枯らしてくれると
こっちとしては助かったんだがな・・・ただ奴もこの沼のお蔭で機動力が落ちているの
は間違いないだろうから後は力での戦いか、魔法や遠距離攻撃をしてこないと言う事
は持ってないと思っていいかな?2歩目で止まり両腕を振り上げた、だが魔力の反応
は無いし魔法では無い、生態能力だと判別出来ないが・・・そのまま両腕を近づけて振り
下ろした、ダパァンと水を叩く音が大きく響いたがただの物理攻撃で当然こっちまで
届く距離では無い、そして生まれたのはさっきのと変わらない程の大きな波、目的は
こっちだったのだろう、だがさっきと同じでしかないこの程度では攻撃にはならない
足止めは出来てももう1度波を防ぐだけで終わる・・・前方で先端の鋭い木の枝が3本纏
まって水から突き出てきた、そして順に突き出てくるそれは近付いて来ているときた
この攻撃のための足止めでありめくらましを兼ねた妨害行動か・・・奴は周囲の魔物に
比べて知能が高いと思った方が良いな、この沼に足を取られる場所でこれは今からで
は避けきれない、枝の速度は速くは無く全て等速で平地では対処しやすい技だ、だか
らこそこの沼地で使って来る訳か、そのためにここに隠れていたのか?さっきの2回
に渡る波のお蔭で少しは水位が減ってくれている、だがそれでも足を取る泥が厄介だ
大剣を振り体重を掛けて倒れる様にしてなんとか右に避ける、直進しか出来ないのか
横に逸れた私を追って来る様な事は無かった、しかし遅すぎたため左太腿に1本突き
刺さってしまった・・・枝の長さは胸部近くまである、避けていなければ中心と左脚が
貫かれていただろう、脚を動かしてみるも枝が折れる様子は無い、大剣を突き刺す様
に叩き付けて枝を折る、これは左足の機能が低下したか・・・機動戦は難しくなったが
ここで戦うなら問題無いか?そこで奴が一歩踏み出す、がその体勢のまま止まった
嫌な予感しかしないため枝を掴んでそっちへ移動しようとすると、十分頑丈だった枝
がポキリと折れた・・・そして右脚に何かが巻き付き奴の方に引き寄せられる、すると
泥から足を引き抜かれ後ろに倒れ水に沈む、直ぐに勢い良く引っ張られて途中の枝に
当たって砕きながら奴の眼の前まで連れて来られ逆さに吊り上げられる、脚に巻き付
いていたのは蔦の様な枝だ、剣は途中で手放してしまったようでぶら下がっている両
手はともに空いている、これと言って有効打なんて与えていないしこのまま放り投げ
て終わりにしてくれないかな・・・なんてバカみたいな願いをしていると、更に持ち上
げられ背中から沼へと叩き付けられる、そして細い枝が絡み合って槍になっている枝
に腹部を貫かれるというオマケ付き、しかも水中で貫かれて動きを止められると来た
濁った水を通してキンリンガムイの姿を確認する、こっちをじっと見たまま微動だに
していない、この状態を死んだと判断せず警戒しているようだ・・・高い知能を持つ奴は
厄介だな、取り敢えず今はまだ動かないでおこう、動かなければ無暗に攻撃してこな
いだろうから今の内に対処法を考えないとな
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