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第一章 クリスマスと藁人形
互いの気持ち⑤
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牧村という女性を見送ったあと、開店前の短い時間で正太郎がかいつまんで説明してくれたことを、風悟はバイトの休憩時間に反芻していた。
内田に惚れている常連の女性客、牧村が事故にあったのは、事実だ。藁人形の呪いでも自作自演でもない。そもそも藁人形は、牧村が正太郎への嫉妬から用意したもので、隙をみて店内にしのばせておいたのだ。
牧村は、悪いことをしている意識に苛まれてか、ぼうっと一人歩いていたところ、気づいたら車の前に飛び出していたという。幸い避けた際の骨折で済んだが、精神的ショックなのか記憶も曖昧でしばし入院することになった。藁人形を先に見つけたのは正太郎で、内田が牧村を責めないよう、正太郎が自分のものだと言ったのである。
帰宅後、居間で茶を飲む正嗣に風悟は概要を話したが、やはり正嗣は全て知っていた。
「色恋に使うんやったら藁人形じゃなく、せめて縁結びの御朱印ならなあ。うちの儲けにもなるんやし」
最後のは、わざとおどけて言っているのがわかるが、正嗣は藁人形から女の気配を感じたらしく、密かに正太郎に聞き、すぐに真相を知ったらしい。
「正太郎は内田にとって特別や。正太郎がほんまに犯人だったとしても、追い出したりしない。だからな、本来なら藁人形の件は解決してるはずなんや。けど、まだ何かおかしい、クリスマス前に何かあったらあかんから来てくれ、と内田から言われてなあ……それでおまえを行かしたんやけど。あとは当日か……」
「クリスマスは明後日よね。パーティーにまーちゃんは来るの?」
「ああ。俺は客として呼ばれてるし、風悟がデートやからな」
ぴしっ、と母屋に木材がきしむ音が鳴る。
「桃、柱はやめてくれ。おかあちゃんに怒られる」
正嗣が切なそうな顔をした。
「そういえば、おかんは」
「帳簿付けや。月末と年末は忙しい」
のんびりした親子の会話に桃は溜め息をつく。
「それより、内田さんのところはどうしたら良いのかしら?」
「ああ」
正嗣は立ち上がり隣室へいくと、なにやら紙を数枚持ってきた。
「お守りや。とりあえず明日はこれを持っていけ」
和紙には、ひらひらとした衣装の、女の神様の姿が筆で書かれている。琵琶のような楽器をもち、蛇を従え笑う様子は、弁天様のようだ。
「これ、御朱印帳の新作デザインやんか。持ってたら片思いが実るかもしれんいうやつ」
「そや。縁結びのお守りな。店内の壁に貼っとけ」
どれ、と正嗣は立ち上がる。いつもの、柔和な表情はこころなしか眠そうだ。
「結んでどうするんや」
風悟は和紙をぺらぺらと弄ぶが、正嗣はそこに人差し指を向ける。和紙が弾かれたように跳ね、風悟の手から落ちた。
「正しく結ぶには、一度ほどかなあかんからな」
内田に惚れている常連の女性客、牧村が事故にあったのは、事実だ。藁人形の呪いでも自作自演でもない。そもそも藁人形は、牧村が正太郎への嫉妬から用意したもので、隙をみて店内にしのばせておいたのだ。
牧村は、悪いことをしている意識に苛まれてか、ぼうっと一人歩いていたところ、気づいたら車の前に飛び出していたという。幸い避けた際の骨折で済んだが、精神的ショックなのか記憶も曖昧でしばし入院することになった。藁人形を先に見つけたのは正太郎で、内田が牧村を責めないよう、正太郎が自分のものだと言ったのである。
帰宅後、居間で茶を飲む正嗣に風悟は概要を話したが、やはり正嗣は全て知っていた。
「色恋に使うんやったら藁人形じゃなく、せめて縁結びの御朱印ならなあ。うちの儲けにもなるんやし」
最後のは、わざとおどけて言っているのがわかるが、正嗣は藁人形から女の気配を感じたらしく、密かに正太郎に聞き、すぐに真相を知ったらしい。
「正太郎は内田にとって特別や。正太郎がほんまに犯人だったとしても、追い出したりしない。だからな、本来なら藁人形の件は解決してるはずなんや。けど、まだ何かおかしい、クリスマス前に何かあったらあかんから来てくれ、と内田から言われてなあ……それでおまえを行かしたんやけど。あとは当日か……」
「クリスマスは明後日よね。パーティーにまーちゃんは来るの?」
「ああ。俺は客として呼ばれてるし、風悟がデートやからな」
ぴしっ、と母屋に木材がきしむ音が鳴る。
「桃、柱はやめてくれ。おかあちゃんに怒られる」
正嗣が切なそうな顔をした。
「そういえば、おかんは」
「帳簿付けや。月末と年末は忙しい」
のんびりした親子の会話に桃は溜め息をつく。
「それより、内田さんのところはどうしたら良いのかしら?」
「ああ」
正嗣は立ち上がり隣室へいくと、なにやら紙を数枚持ってきた。
「お守りや。とりあえず明日はこれを持っていけ」
和紙には、ひらひらとした衣装の、女の神様の姿が筆で書かれている。琵琶のような楽器をもち、蛇を従え笑う様子は、弁天様のようだ。
「これ、御朱印帳の新作デザインやんか。持ってたら片思いが実るかもしれんいうやつ」
「そや。縁結びのお守りな。店内の壁に貼っとけ」
どれ、と正嗣は立ち上がる。いつもの、柔和な表情はこころなしか眠そうだ。
「結んでどうするんや」
風悟は和紙をぺらぺらと弄ぶが、正嗣はそこに人差し指を向ける。和紙が弾かれたように跳ね、風悟の手から落ちた。
「正しく結ぶには、一度ほどかなあかんからな」
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