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第一章 クリスマスと藁人形
結んで、ほどいて④
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「久しぶりに見ました、先生の祈祷……相変わらずワケはわかりませんけど」
内田は苦笑している。それを見て、正嗣は懐かしい記憶を思い起こした。
「昔高校に蛇が迷いこんだときか。追い出すのにちょっと無精して式神の蛇を出したとこに、内田がたまたま来たんやったかな」
蛇は難なく追い出せたものの、唖然とする内田に対して正嗣は祈祷の説明をする羽目になり、もともと生徒に壁は作らない正嗣であったが、その一件以来、内田からは特に懐かれるようになったのだ。
「なんや特撮映画の効果だけ半端に見えとる感じやからな」
からからと常連客は笑った。こちらは見慣れてるらしい。
ついでやから、と、客は気絶したままの女を背負っている。交番へ運ぶという。
「このあたりの古いもんは皆知り合いや。俺が、この女……いや、この男が人を突き飛ばした現場の証言をすれば、話もあっという間に回る。もうこの界隈に立ち入られんようになるやろ」
「男?」
風悟は、念のため聞き返したが、牧村は黙っている。
「うちで少し働いてた男や。俺と仲がいいからって正太郎に嫌がらせするから、辞めてもらったんや……」
内田が代わりに答えた。正嗣はわかっていたように頷き、じゃあそいつを頼みます、と客と挨拶をかわす。
残されたのは、内田、正太郎、正嗣、風悟、桃。そして牧村だ。風悟の肩は、打撲で済んだようだが、手当てもあるため店内に戻り、正嗣はゆっくりと話し出す。
「おそらくな。さっきの女装男子は牧村さんに嫉妬してたんやろ。牧村さん、ここ以外にオカマバーはよく行く?」
「あ、はい……女性より女性らしくて安心するので…」
「そこで、内田が好きやと、恋愛相談したんやな。けど実はライバルだったわけや」
率直すぎる言い方だが、今さらだろう。牧村も頷く。
「ネットで注文したという藁人形は、彼女がくれました。私も効かないと思ったんですけど、内田さんが騙されてるからとかなんとか……でも逆に呪われたらどうしようと不安になって、彼女に聞きにいって」
「呪い返しを気にするくらいなら、しなきゃ良いのに」
桃は呆れているが、勿論ほかの人には聞こえない。
「見つかる前にやっぱり藁人形は回収したほうが、と、ここに戻ろうかとしたら、事故に」
「突き飛ばされたのかもしれんな。防犯カメラを調べたらすぐわかるやろ」
正嗣はあっさり言う。少し日にちは経過しているが、近隣の防犯カメラを片っ端から調べたらわかる事例だ。しかし警察を連想したのか、牧村は体をかたくする。
「牧村さん」
怯えたままの牧村に、正嗣は教育者然とした優しい笑みを向けた。
「藁人形は、効きません。そんなオモチャを店に忘れただけで罰せられることはないので、安心していい」
牧村はほっとして顔をあげる。桃はそれを見て肩を竦めた。
「まーちゃんて、こういうとこずるいわよね」
「まあな、神主も教師も、口八丁の仕事だしなあ……」
桃と風悟は普段の癖がある正嗣も見ているので、正直な感想を漏らす。
「ん? 風悟くん何か言った?」
「いえ、内田さんのことじゃないです」
「風悟、正月のバイト代削られたければ別に構わんぞ」
正嗣は、風悟が肩に当てた氷嚢を軽く小突く。ひえ、と風悟は黙り、正嗣は話を続けた。
「内田。もうそろそろ公私を切り離せ。お前は自分の考えに呪われてる」
正太郎が頷くのを、正嗣も見る。
「さっきの、内田に横恋慕してたヤツな。あいつはもう、人間としても恋愛対象としてもアウトやろ」
うんうん、と何故か桃が激しく同意している。
「牧村さんは女性やけど、お客さんや。内田から恋愛対象としては見られていない」
しゅんとしながら、牧村も同意する。
「岩本も一緒や。内田は、友達として、人間として岩本を好きなんやろ。恋愛に報いることができんことに男女か同性かは関係無くて、そもそも罪悪感を抱く必要はないんや」
うん、と言ったのは、正太郎だ。
内田は苦笑している。それを見て、正嗣は懐かしい記憶を思い起こした。
「昔高校に蛇が迷いこんだときか。追い出すのにちょっと無精して式神の蛇を出したとこに、内田がたまたま来たんやったかな」
蛇は難なく追い出せたものの、唖然とする内田に対して正嗣は祈祷の説明をする羽目になり、もともと生徒に壁は作らない正嗣であったが、その一件以来、内田からは特に懐かれるようになったのだ。
「なんや特撮映画の効果だけ半端に見えとる感じやからな」
からからと常連客は笑った。こちらは見慣れてるらしい。
ついでやから、と、客は気絶したままの女を背負っている。交番へ運ぶという。
「このあたりの古いもんは皆知り合いや。俺が、この女……いや、この男が人を突き飛ばした現場の証言をすれば、話もあっという間に回る。もうこの界隈に立ち入られんようになるやろ」
「男?」
風悟は、念のため聞き返したが、牧村は黙っている。
「うちで少し働いてた男や。俺と仲がいいからって正太郎に嫌がらせするから、辞めてもらったんや……」
内田が代わりに答えた。正嗣はわかっていたように頷き、じゃあそいつを頼みます、と客と挨拶をかわす。
残されたのは、内田、正太郎、正嗣、風悟、桃。そして牧村だ。風悟の肩は、打撲で済んだようだが、手当てもあるため店内に戻り、正嗣はゆっくりと話し出す。
「おそらくな。さっきの女装男子は牧村さんに嫉妬してたんやろ。牧村さん、ここ以外にオカマバーはよく行く?」
「あ、はい……女性より女性らしくて安心するので…」
「そこで、内田が好きやと、恋愛相談したんやな。けど実はライバルだったわけや」
率直すぎる言い方だが、今さらだろう。牧村も頷く。
「ネットで注文したという藁人形は、彼女がくれました。私も効かないと思ったんですけど、内田さんが騙されてるからとかなんとか……でも逆に呪われたらどうしようと不安になって、彼女に聞きにいって」
「呪い返しを気にするくらいなら、しなきゃ良いのに」
桃は呆れているが、勿論ほかの人には聞こえない。
「見つかる前にやっぱり藁人形は回収したほうが、と、ここに戻ろうかとしたら、事故に」
「突き飛ばされたのかもしれんな。防犯カメラを調べたらすぐわかるやろ」
正嗣はあっさり言う。少し日にちは経過しているが、近隣の防犯カメラを片っ端から調べたらわかる事例だ。しかし警察を連想したのか、牧村は体をかたくする。
「牧村さん」
怯えたままの牧村に、正嗣は教育者然とした優しい笑みを向けた。
「藁人形は、効きません。そんなオモチャを店に忘れただけで罰せられることはないので、安心していい」
牧村はほっとして顔をあげる。桃はそれを見て肩を竦めた。
「まーちゃんて、こういうとこずるいわよね」
「まあな、神主も教師も、口八丁の仕事だしなあ……」
桃と風悟は普段の癖がある正嗣も見ているので、正直な感想を漏らす。
「ん? 風悟くん何か言った?」
「いえ、内田さんのことじゃないです」
「風悟、正月のバイト代削られたければ別に構わんぞ」
正嗣は、風悟が肩に当てた氷嚢を軽く小突く。ひえ、と風悟は黙り、正嗣は話を続けた。
「内田。もうそろそろ公私を切り離せ。お前は自分の考えに呪われてる」
正太郎が頷くのを、正嗣も見る。
「さっきの、内田に横恋慕してたヤツな。あいつはもう、人間としても恋愛対象としてもアウトやろ」
うんうん、と何故か桃が激しく同意している。
「牧村さんは女性やけど、お客さんや。内田から恋愛対象としては見られていない」
しゅんとしながら、牧村も同意する。
「岩本も一緒や。内田は、友達として、人間として岩本を好きなんやろ。恋愛に報いることができんことに男女か同性かは関係無くて、そもそも罪悪感を抱く必要はないんや」
うん、と言ったのは、正太郎だ。
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