18 / 36
第一章 クリスマスと藁人形
結んで、ほどいて④
しおりを挟む
「久しぶりに見ました、先生の祈祷……相変わらずワケはわかりませんけど」
内田は苦笑している。それを見て、正嗣は懐かしい記憶を思い起こした。
「昔高校に蛇が迷いこんだときか。追い出すのにちょっと無精して式神の蛇を出したとこに、内田がたまたま来たんやったかな」
蛇は難なく追い出せたものの、唖然とする内田に対して正嗣は祈祷の説明をする羽目になり、もともと生徒に壁は作らない正嗣であったが、その一件以来、内田からは特に懐かれるようになったのだ。
「なんや特撮映画の効果だけ半端に見えとる感じやからな」
からからと常連客は笑った。こちらは見慣れてるらしい。
ついでやから、と、客は気絶したままの女を背負っている。交番へ運ぶという。
「このあたりの古いもんは皆知り合いや。俺が、この女……いや、この男が人を突き飛ばした現場の証言をすれば、話もあっという間に回る。もうこの界隈に立ち入られんようになるやろ」
「男?」
風悟は、念のため聞き返したが、牧村は黙っている。
「うちで少し働いてた男や。俺と仲がいいからって正太郎に嫌がらせするから、辞めてもらったんや……」
内田が代わりに答えた。正嗣はわかっていたように頷き、じゃあそいつを頼みます、と客と挨拶をかわす。
残されたのは、内田、正太郎、正嗣、風悟、桃。そして牧村だ。風悟の肩は、打撲で済んだようだが、手当てもあるため店内に戻り、正嗣はゆっくりと話し出す。
「おそらくな。さっきの女装男子は牧村さんに嫉妬してたんやろ。牧村さん、ここ以外にオカマバーはよく行く?」
「あ、はい……女性より女性らしくて安心するので…」
「そこで、内田が好きやと、恋愛相談したんやな。けど実はライバルだったわけや」
率直すぎる言い方だが、今さらだろう。牧村も頷く。
「ネットで注文したという藁人形は、彼女がくれました。私も効かないと思ったんですけど、内田さんが騙されてるからとかなんとか……でも逆に呪われたらどうしようと不安になって、彼女に聞きにいって」
「呪い返しを気にするくらいなら、しなきゃ良いのに」
桃は呆れているが、勿論ほかの人には聞こえない。
「見つかる前にやっぱり藁人形は回収したほうが、と、ここに戻ろうかとしたら、事故に」
「突き飛ばされたのかもしれんな。防犯カメラを調べたらすぐわかるやろ」
正嗣はあっさり言う。少し日にちは経過しているが、近隣の防犯カメラを片っ端から調べたらわかる事例だ。しかし警察を連想したのか、牧村は体をかたくする。
「牧村さん」
怯えたままの牧村に、正嗣は教育者然とした優しい笑みを向けた。
「藁人形は、効きません。そんなオモチャを店に忘れただけで罰せられることはないので、安心していい」
牧村はほっとして顔をあげる。桃はそれを見て肩を竦めた。
「まーちゃんて、こういうとこずるいわよね」
「まあな、神主も教師も、口八丁の仕事だしなあ……」
桃と風悟は普段の癖がある正嗣も見ているので、正直な感想を漏らす。
「ん? 風悟くん何か言った?」
「いえ、内田さんのことじゃないです」
「風悟、正月のバイト代削られたければ別に構わんぞ」
正嗣は、風悟が肩に当てた氷嚢を軽く小突く。ひえ、と風悟は黙り、正嗣は話を続けた。
「内田。もうそろそろ公私を切り離せ。お前は自分の考えに呪われてる」
正太郎が頷くのを、正嗣も見る。
「さっきの、内田に横恋慕してたヤツな。あいつはもう、人間としても恋愛対象としてもアウトやろ」
うんうん、と何故か桃が激しく同意している。
「牧村さんは女性やけど、お客さんや。内田から恋愛対象としては見られていない」
しゅんとしながら、牧村も同意する。
「岩本も一緒や。内田は、友達として、人間として岩本を好きなんやろ。恋愛に報いることができんことに男女か同性かは関係無くて、そもそも罪悪感を抱く必要はないんや」
うん、と言ったのは、正太郎だ。
内田は苦笑している。それを見て、正嗣は懐かしい記憶を思い起こした。
「昔高校に蛇が迷いこんだときか。追い出すのにちょっと無精して式神の蛇を出したとこに、内田がたまたま来たんやったかな」
蛇は難なく追い出せたものの、唖然とする内田に対して正嗣は祈祷の説明をする羽目になり、もともと生徒に壁は作らない正嗣であったが、その一件以来、内田からは特に懐かれるようになったのだ。
「なんや特撮映画の効果だけ半端に見えとる感じやからな」
からからと常連客は笑った。こちらは見慣れてるらしい。
ついでやから、と、客は気絶したままの女を背負っている。交番へ運ぶという。
「このあたりの古いもんは皆知り合いや。俺が、この女……いや、この男が人を突き飛ばした現場の証言をすれば、話もあっという間に回る。もうこの界隈に立ち入られんようになるやろ」
「男?」
風悟は、念のため聞き返したが、牧村は黙っている。
「うちで少し働いてた男や。俺と仲がいいからって正太郎に嫌がらせするから、辞めてもらったんや……」
内田が代わりに答えた。正嗣はわかっていたように頷き、じゃあそいつを頼みます、と客と挨拶をかわす。
残されたのは、内田、正太郎、正嗣、風悟、桃。そして牧村だ。風悟の肩は、打撲で済んだようだが、手当てもあるため店内に戻り、正嗣はゆっくりと話し出す。
「おそらくな。さっきの女装男子は牧村さんに嫉妬してたんやろ。牧村さん、ここ以外にオカマバーはよく行く?」
「あ、はい……女性より女性らしくて安心するので…」
「そこで、内田が好きやと、恋愛相談したんやな。けど実はライバルだったわけや」
率直すぎる言い方だが、今さらだろう。牧村も頷く。
「ネットで注文したという藁人形は、彼女がくれました。私も効かないと思ったんですけど、内田さんが騙されてるからとかなんとか……でも逆に呪われたらどうしようと不安になって、彼女に聞きにいって」
「呪い返しを気にするくらいなら、しなきゃ良いのに」
桃は呆れているが、勿論ほかの人には聞こえない。
「見つかる前にやっぱり藁人形は回収したほうが、と、ここに戻ろうかとしたら、事故に」
「突き飛ばされたのかもしれんな。防犯カメラを調べたらすぐわかるやろ」
正嗣はあっさり言う。少し日にちは経過しているが、近隣の防犯カメラを片っ端から調べたらわかる事例だ。しかし警察を連想したのか、牧村は体をかたくする。
「牧村さん」
怯えたままの牧村に、正嗣は教育者然とした優しい笑みを向けた。
「藁人形は、効きません。そんなオモチャを店に忘れただけで罰せられることはないので、安心していい」
牧村はほっとして顔をあげる。桃はそれを見て肩を竦めた。
「まーちゃんて、こういうとこずるいわよね」
「まあな、神主も教師も、口八丁の仕事だしなあ……」
桃と風悟は普段の癖がある正嗣も見ているので、正直な感想を漏らす。
「ん? 風悟くん何か言った?」
「いえ、内田さんのことじゃないです」
「風悟、正月のバイト代削られたければ別に構わんぞ」
正嗣は、風悟が肩に当てた氷嚢を軽く小突く。ひえ、と風悟は黙り、正嗣は話を続けた。
「内田。もうそろそろ公私を切り離せ。お前は自分の考えに呪われてる」
正太郎が頷くのを、正嗣も見る。
「さっきの、内田に横恋慕してたヤツな。あいつはもう、人間としても恋愛対象としてもアウトやろ」
うんうん、と何故か桃が激しく同意している。
「牧村さんは女性やけど、お客さんや。内田から恋愛対象としては見られていない」
しゅんとしながら、牧村も同意する。
「岩本も一緒や。内田は、友達として、人間として岩本を好きなんやろ。恋愛に報いることができんことに男女か同性かは関係無くて、そもそも罪悪感を抱く必要はないんや」
うん、と言ったのは、正太郎だ。
0
あなたにおすすめの小説
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
立花家へようこそ!
由奈(YUNA)
ライト文芸
私が出会ったのは立花家の7人家族でした・・・――――
これは、内気な私が成長していく物語。
親の仕事の都合でお世話になる事になった立花家は、楽しくて、暖かくて、とっても優しい人達が暮らす家でした。
秘書と社長の秘密
廣瀬純七
大衆娯楽
社内の調査のため、社長・高橋健一はこっそり秘書・木村由紀と不思議なアプリで入れ替わることに。
突然“社長役”を任された由紀と、自由に動ける立場を手に入れた高橋。
ふたりの秘密の入れ替わり作戦は、どの様な結末になるのか?
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
「ただの経費削減ですが?」 銀河最弱の補給艦隊が、俺の「在庫管理」で最強になったようです
空木 架
SF
日本の企業で総務として働く星野明日虎(32歳)は、ある日突然、見知らぬ宇宙の帝国へと転移してしまう。彼が配属されたのは、整理整頓もままならない「銀河最弱」の補給艦隊だった!
ひょんなことから戦艦の艦長に任命されてしまった明日虎だが、宇宙の戦い方など全く分からない。そこで彼が武器にしたのは、長年の社畜生活で培った「経費削減」と「在庫管理」のスキルだった。
「弾薬の無駄遣い禁止!」「エンジンはこまめに切れ!」――ただ徹底的なコストカットと業務効率化を推し進めただけなのに、それがなぜか「天才的な軍事戦略」として周囲に大勘違いされていく。
個性豊かな仲間たちと共に、最弱だった倉庫部門を最強の組織へと育て上げる、痛快・お仕事&成り上がりSFファンタジー!
※この作品は、「小説家になろう」「カクヨム」でも連載しています
幻獣保護センター廃棄処理係の私、ボロ雑巾のような「ゴミ幻獣」をこっそり洗ってモフっていたら、実は世界を喰らう「終焉の獣」だった件について
いぬがみとうま🐾
ファンタジー
「魔力なしの穀潰し」――そう蔑まれ、幻獣保護センターの地下で廃棄幻獣の掃除に明け暮れる少女・ミヤコ。
実のところ、その施設は「価値のない命」を無慈悲に殺処分する地獄だった。
ある日、ミヤコの前に運ばれてきたのは、泥と油にまみれた「ボロ雑巾」のような正体不明の幻獣。
誰の目にもゴミとしか映らないその塊を、ミヤコは放っておけなかった。
「こんなに汚れたままなんて、かわいそう」
彼女が生活魔法を込めたブラシで丹念に汚れを落とした瞬間、世界を縛る最凶の封印が汚れと一緒に「流されてしまう。
現れたのは、月光を纏ったような美しい銀狼。
それは世界を喰らうと恐れられる伝説の災厄級幻獣『フェンリル・ヴォイド』だった……。
華夏の煌き~麗しき男装の乙女軍師~
はぎわら歓
恋愛
国家占い師である胡晶鈴は、この中華・曹王朝の王となる曹隆明と結ばれる。子を宿した晶鈴は占術の能力を失い都を去ることになった。
国境付近の町で異民族の若い陶工夫婦と知り合う。同じく母になる朱京湖とは、気が合い親友となった。
友人になった夫婦と穏やかな生活を送るはずだったが、事情のある朱京湖と間違えられ、晶鈴は異国へと連れ去られてしまった。京湖と家族の身を案じ、晶鈴はそのまま身代わりとなる。
朱彰浩と京湖は、晶鈴の友人である、陸慶明に助けを求めるべく都へ行く。晶鈴の行方はずっと掴めないままではあるが、朱家は穏やかな生活を営むことができた。
12年たち、晶鈴の娘、星羅は才覚を現し始める。それと同時に、双子のように育った兄・朱京樹、胡晶鈴との恋に破れた医局長・陸慶明とその息子・陸明樹、そして実の娘と知らない王・曹隆明が星羅に魅了されていく。
Husband's secret (夫の秘密)
設楽理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる