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第一章 クリスマスと藁人形
結んで、ほどいて⑤
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「俺が内田を好きなのは、仕方ない。でもな、内田の気持ちを無視して、無理に恋人になりたいとは思わん。友達として付き合う範疇を越えて、内田が俺の人生のために自分を犠牲にする必要はない」
「犠牲って……」
「そうや。複雑にしてんのは内田自身やな。だから変なヤツや、変な邪気を呼ぶんや。そろそろ楽になったらええ」
正嗣は、柱に貼られた護符を剥がした。貼ったときには女の神様の隣に蛇が一匹描かれていたはずだが、今はいない。
「別に、結婚しながらオーナー続けてもええやろ。俺に悪いから彼女作らんのは、おかしい」
正太郎は内田に、苦笑しながら自分の気持ちを伝える。正嗣はシャツの胸ポケットから蛇が二匹絡まるように描かれた護符を取り出し、柱から剥がした護符に重ねた。よし、と再び正嗣が分けて掲げた護符には、蛇が元通り一匹ずつ加えられている。
「岩本は、自分の意思で今こうしてるんや。内田は自分で悔いのないよう、きちっと生きたらええ」
店内の時計が鳴る。もう電車はない時間なので、正嗣がタクシー会社へ電話し、皆も自然と帰り支度を始める。内田は、氷嚢の氷を入れ換えてくれた。
「縁、てのは不思議なもんや。たまたま惹かれた相手が人間の異性でも片恋で終わる場合は多い」
正嗣がゆっくり、通る声で話す。牧村は静かに頷いている。
「同性でも、両思いで、恋が叶うときもある」
正太郎は、無言だ。
「男女でも、そうやな……この世とあの世とか、身分違いとか、人間とお化け……幽霊とか、どう頑張っても結ばれん間柄もあるよな。例えやけど……」
正嗣は、風悟と、桃を見た。風悟は、父がよく自分たちのことを「難儀だ」と言っているのを思い返した。
正嗣のスマホが鳴った。配車が到着したらしいが、不穏なBGMに、教え子二人は渋面をつくる。
「……先生、その着信音。昔のドラマの……」
「渡る世間は一筋縄じゃいかんからな。まあ、鬼より、うちのおかあちゃんの方がおっかないけどなあ」
ああ、と風悟は苦笑する。息子に怪我をさせたと母は父に怒るのか。それとも息子が不甲斐ないと呆れるか。
正嗣は笑った。
「帰るか」
牧村を見送り、佐々木家三人も徒歩で帰宅した。
母はというと、晩酌の途中で抜け出した夫をひたすら待っていたらしい。居間で酒を酌み交わす両親をちらと見て、風悟は自室に戻った。
「なんやかんや、仲良いもんなあ……」
「そうよ。まーちゃんが先に惚れたってことになってるけど、逆だもの」
「え、初耳……なんで桃はそんなん知ってるん……」
「見てたから」
あー、と風悟は納得する。
「そうやな……桃は、式神やった……」
「本家の一人娘が、分家の男に惚れて家を捨てるって騒いだの。まーちゃんが婿入りしたからこの家が残ったわけだけど、当時は本家の財産目当てで誑かしたって散々な言われようだったわ」
風悟は両親の顔を思い浮かべる。父はそんなことはおくびにも出さず、対外的にはかかあ天下にも見える。やはり、人の気持ちというのは外側からではわからないものだ。
「やっぱり、親父にはかなわんなあ……」
ベッドに大の字になりながら呟いた風悟に、桃はいまさら、と笑った。
「犠牲って……」
「そうや。複雑にしてんのは内田自身やな。だから変なヤツや、変な邪気を呼ぶんや。そろそろ楽になったらええ」
正嗣は、柱に貼られた護符を剥がした。貼ったときには女の神様の隣に蛇が一匹描かれていたはずだが、今はいない。
「別に、結婚しながらオーナー続けてもええやろ。俺に悪いから彼女作らんのは、おかしい」
正太郎は内田に、苦笑しながら自分の気持ちを伝える。正嗣はシャツの胸ポケットから蛇が二匹絡まるように描かれた護符を取り出し、柱から剥がした護符に重ねた。よし、と再び正嗣が分けて掲げた護符には、蛇が元通り一匹ずつ加えられている。
「岩本は、自分の意思で今こうしてるんや。内田は自分で悔いのないよう、きちっと生きたらええ」
店内の時計が鳴る。もう電車はない時間なので、正嗣がタクシー会社へ電話し、皆も自然と帰り支度を始める。内田は、氷嚢の氷を入れ換えてくれた。
「縁、てのは不思議なもんや。たまたま惹かれた相手が人間の異性でも片恋で終わる場合は多い」
正嗣がゆっくり、通る声で話す。牧村は静かに頷いている。
「同性でも、両思いで、恋が叶うときもある」
正太郎は、無言だ。
「男女でも、そうやな……この世とあの世とか、身分違いとか、人間とお化け……幽霊とか、どう頑張っても結ばれん間柄もあるよな。例えやけど……」
正嗣は、風悟と、桃を見た。風悟は、父がよく自分たちのことを「難儀だ」と言っているのを思い返した。
正嗣のスマホが鳴った。配車が到着したらしいが、不穏なBGMに、教え子二人は渋面をつくる。
「……先生、その着信音。昔のドラマの……」
「渡る世間は一筋縄じゃいかんからな。まあ、鬼より、うちのおかあちゃんの方がおっかないけどなあ」
ああ、と風悟は苦笑する。息子に怪我をさせたと母は父に怒るのか。それとも息子が不甲斐ないと呆れるか。
正嗣は笑った。
「帰るか」
牧村を見送り、佐々木家三人も徒歩で帰宅した。
母はというと、晩酌の途中で抜け出した夫をひたすら待っていたらしい。居間で酒を酌み交わす両親をちらと見て、風悟は自室に戻った。
「なんやかんや、仲良いもんなあ……」
「そうよ。まーちゃんが先に惚れたってことになってるけど、逆だもの」
「え、初耳……なんで桃はそんなん知ってるん……」
「見てたから」
あー、と風悟は納得する。
「そうやな……桃は、式神やった……」
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風悟は両親の顔を思い浮かべる。父はそんなことはおくびにも出さず、対外的にはかかあ天下にも見える。やはり、人の気持ちというのは外側からではわからないものだ。
「やっぱり、親父にはかなわんなあ……」
ベッドに大の字になりながら呟いた風悟に、桃はいまさら、と笑った。
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