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第二章 茅の輪くぐりで邪気払い
千景の力⑥
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それから千景は、無事に高校へ進学した。地元では中堅の女子校である。
お礼に、と千景は正嗣へ遅めのバレンタインと称して手作りチョコをあげたが、「バイトやし気を使わんでも」と言われてしまった。高校生活もあわただしく2年と半年が過ぎ、千景は無事に短大への推薦が決まったが、正嗣はというと教師として勤めて3年が経ち、すでに家庭教師としてはお役御免となっていたので、本家へ顔を出すことも無くなっていた。
はぁ、と初冬の縁側で半纏を着たままため息をつく千景の隣に、桃はちょこんと座る。
「恋煩いね」
「うるさい」
「そんなに気になるなら、まーちゃんのとこへ行ったらどう?本家の娘が訪ねて行っても、無碍に追い返したりしないでしょう?」
「それや」
千景は更にため息をつく。
「本家ってだけで気ぃ使われるんは、嫌なんや……そもそも、まーちゃんはうちのこと、年下のめんどくさい小娘程度にしか思うとらんやろうし……」
「じゃあ、このまま龍ちゃんが決めた見合い相手と結婚するのね」
桃がさらっと言った言葉に、千景は眉を顰める。
「なんやそれ……」
「千景」
いつもより声音を落とした桃の言葉に、千景は思わず居住まいを正す。
「頑張れば結ばれるかもしれない相手が手の届くところにいるのに、何もしないのはただの怠慢よ?。私なんて…好みの男性の近くにいても、見ていることしかできない」
千景はハッとした。桃は、佐々木家に仕える身でありながらも、当主とは対等だ。そもそも仕えた経緯は千景にはわからず、龍之介の顔が好みとは桃本人から聞いたが、叶わぬものとわかっているからか、妻の清子とも仲が良い。
「桃……なんか……ごめんなあ。式神っていうのも不自由やなあ……」
「千景が謝ることじゃないわよ。それに、佐々木家が勝手に途絶えるのははっきり言ってどうでも良いけど、よくわからない相手と黙って結婚するような、腑抜けな家系だったかしらと呆れてるだけ」
「……うちの男は、皆豪傑やからなあ……」
「そうよ、それを近くで見ているのも、とても良いものよ?」
桃は笑顔で、長い袖を翻して宙を舞う。
「千景は女の子で、力が無くて。それでもし家が途絶えたとしても、それは千景のせいじゃないわ」
千景は、縁側に座ったまま敷地を見回した。無駄に広い家は、昔から権力者のもとで陰陽師の仕事をしつつ、どさくさ紛れで山や土地を手に入れて来た結果だ。けれど、自分が跡継の能力がなく継げないのは、また気持ちが違う。
「千景」
清子が、娘を呼んだ。
お母さん、と千景が答えると、清子はゆっくりと近づき、そのまま隣に座る。
「お母さんは、千景に力が無いってわかった時に、これは大変だなと慌てたわ。だって、力は無くても桃のことが見えるんやもの」
うん、と千景は頷く。
「だから、千景って名前にしたんよ。桃や、それ以外のお化けも沢山見えるかもしれんけど、それよりもっと、綺麗な景色も見て欲しいって思うて」
「あ……」
千の景色、と言ったのは、正嗣だ。命名の事情を知ってるはずはないが、言い当てた彼のことを思い、千景は自然と苦笑する。
「やっぱり、次男坊はクセもんやなあ……」
何?と聞く清子に、千景は笑顔で言う。
「お母さん、うちは家継がんでもええ?」
そのあとの千景は、とにかく行動が早かった。まず龍之介の元へ行き、正嗣を呼んでもらう。訝しがる父親に、「後で話す」の一点張り。そうして週末の夜、一同は佐々木家のちょっと広めの居間に勢揃いしたのである。
お礼に、と千景は正嗣へ遅めのバレンタインと称して手作りチョコをあげたが、「バイトやし気を使わんでも」と言われてしまった。高校生活もあわただしく2年と半年が過ぎ、千景は無事に短大への推薦が決まったが、正嗣はというと教師として勤めて3年が経ち、すでに家庭教師としてはお役御免となっていたので、本家へ顔を出すことも無くなっていた。
はぁ、と初冬の縁側で半纏を着たままため息をつく千景の隣に、桃はちょこんと座る。
「恋煩いね」
「うるさい」
「そんなに気になるなら、まーちゃんのとこへ行ったらどう?本家の娘が訪ねて行っても、無碍に追い返したりしないでしょう?」
「それや」
千景は更にため息をつく。
「本家ってだけで気ぃ使われるんは、嫌なんや……そもそも、まーちゃんはうちのこと、年下のめんどくさい小娘程度にしか思うとらんやろうし……」
「じゃあ、このまま龍ちゃんが決めた見合い相手と結婚するのね」
桃がさらっと言った言葉に、千景は眉を顰める。
「なんやそれ……」
「千景」
いつもより声音を落とした桃の言葉に、千景は思わず居住まいを正す。
「頑張れば結ばれるかもしれない相手が手の届くところにいるのに、何もしないのはただの怠慢よ?。私なんて…好みの男性の近くにいても、見ていることしかできない」
千景はハッとした。桃は、佐々木家に仕える身でありながらも、当主とは対等だ。そもそも仕えた経緯は千景にはわからず、龍之介の顔が好みとは桃本人から聞いたが、叶わぬものとわかっているからか、妻の清子とも仲が良い。
「桃……なんか……ごめんなあ。式神っていうのも不自由やなあ……」
「千景が謝ることじゃないわよ。それに、佐々木家が勝手に途絶えるのははっきり言ってどうでも良いけど、よくわからない相手と黙って結婚するような、腑抜けな家系だったかしらと呆れてるだけ」
「……うちの男は、皆豪傑やからなあ……」
「そうよ、それを近くで見ているのも、とても良いものよ?」
桃は笑顔で、長い袖を翻して宙を舞う。
「千景は女の子で、力が無くて。それでもし家が途絶えたとしても、それは千景のせいじゃないわ」
千景は、縁側に座ったまま敷地を見回した。無駄に広い家は、昔から権力者のもとで陰陽師の仕事をしつつ、どさくさ紛れで山や土地を手に入れて来た結果だ。けれど、自分が跡継の能力がなく継げないのは、また気持ちが違う。
「千景」
清子が、娘を呼んだ。
お母さん、と千景が答えると、清子はゆっくりと近づき、そのまま隣に座る。
「お母さんは、千景に力が無いってわかった時に、これは大変だなと慌てたわ。だって、力は無くても桃のことが見えるんやもの」
うん、と千景は頷く。
「だから、千景って名前にしたんよ。桃や、それ以外のお化けも沢山見えるかもしれんけど、それよりもっと、綺麗な景色も見て欲しいって思うて」
「あ……」
千の景色、と言ったのは、正嗣だ。命名の事情を知ってるはずはないが、言い当てた彼のことを思い、千景は自然と苦笑する。
「やっぱり、次男坊はクセもんやなあ……」
何?と聞く清子に、千景は笑顔で言う。
「お母さん、うちは家継がんでもええ?」
そのあとの千景は、とにかく行動が早かった。まず龍之介の元へ行き、正嗣を呼んでもらう。訝しがる父親に、「後で話す」の一点張り。そうして週末の夜、一同は佐々木家のちょっと広めの居間に勢揃いしたのである。
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