マザーグースは空を飛ぶ

ロジーヌ

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第四章

旧正月の夜は更けて(2)

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「なんだ、その......涼介と同じような発想はどこから?で、帰国ってなに? 高校通うんじゃないの?」
「涼介くんも同じこと言ってたの? さすがお兄ちゃんと違って堅実派だね~。うん、高校は通うよー。九月からアメリカの学校に。だからその前に日本に戻るつもり」
「はあ?」
 花子によると、今回はシンガポールに一人残ったままの父親に直接話をしたかったのと、どうせだから旧正月を楽しみたかったという理由で、急遽こちらに来たらしい。
「......そのわりには、かなりドラマチックな別れのセリフだったような?」
「うん、あれ『非モテの僕が異世界でツインテ美少女から告白されました』のセリフをパクったのー。なに?ダメだった? 喜ぶかなと思ったのに」
「だから......俺の中のまりんちゃんと現実を混ぜないでくれ......」
 侑哉はがっくりと項垂れ、そのまま膝をつく。経過はどうあれ、花子は近いうちにまた日本へ戻るのだ。これが別れではないということに侑哉は安堵しているのも確かなので、花子に「サービスだよ?」と腕を組まれているのもなんとなくこそばゆい。
「夜は、パレードだね」
 旧正月もいよいよ本番だ。侑哉たちと花子の両親はパレードを見るために、再びチャイナタウンへと繰り出す。
 街には熱気が増し、活気が溢れている。侑哉と花子は手を繋ぎなおして、そのまま人混みを歩いた。
「屋台って面白いな」
 赤や黄色の原色飾りは、意味はわからなくても人々の高揚感を現わしていることが感じ取れれる。一年の節目である旧正月は、新たな暦の始まりであり、人々がまた順当に年を取り成長を重ねられたというお祝いなのだ。
 侑哉はお祝いムードの店先を興味津々で眺める。
「いろいろあるでしょー。豚の頭とかもあるよ~」
 売るほうも買うほうも、楽しそうだ。花子は中国語も多少喋れるのか、屋台の人と会話もしている。
「ほら、ガチョウ」
 花子が指さす方を見ると、羽をむしられた食用らしき鳥がぶらさがっている。
「なんか、グロい......」
「そう? 美味しいよ。日本じゃあまり食べないけどね。 家畜にする国も多いし。ほら、マザーグースだよ」
「ああ......」
 侑哉はマザーグースの詩を思い出す。表題になっているガチョウおばさんは、家畜のガチョウに乗って空を飛ぶのだ。
「でも家で飼ってたら飛んで逃げたりしないの? ほら」
「逃げないよ。てか、ガチョウは飛ばないもん」
 侑哉は「え?」と驚く。歌の印象が強く、ガチョウは飛ぶと思い込んでいたのだ。「家畜として、わざと飛ばないようにされちゃったんだっけ」と花子が記憶をたどりながら、マザーグースの詩をそらんじる。マザーグースのおかあさん、ガチョウに乗って空を飛ぶ。マザーグースのおかあさん、悪者たちをやっつける。聞けば聞くほど、ガチョウに乗る流れがよくわからない詩だ。
 友義が「なんでもあり」と言っていたが、確かに「ガチョウは飛ばない」という理由で改変されたりはしていない。マザーグースの中では、ガチョウはおばさんを乗せて空を飛ぶのである。

「本って、面白いよね」
 花子が笑う。
「でもさ、本読んで『これなんだろ』って思ったことが現実だったりするのが一番面白いかも。私、もっとちゃんと英語と日本語を勉強して、翻訳とかもやってみたいなあ......」
 独り言ともつかない様子で話しながら歩く花子を、侑哉が追いかけながら道を進んでいくと、両親が待つ店の前に着いた。人垣の中、四人で一緒にパレードを見る。
 派手で大きな作り物の飾りと、見映えのするダイナミックな踊りは、見ているほうにも高揚感を与える。夜なのに電飾は明るく、自己主張するそれらは生命力と前向きさを感じさせた。そうしてパレードを見ている侑哉の気持ちのモヤモヤも次第に晴れていき、いよいよ帰国の日となった。
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