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それは、初めて赤らんだ楓の音
苦いものにはジリジリがつきもの
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カランカラン
「いらっしゃいませー」
うちの店では珍しく、初めて顔を見るお客様だ
綺麗な女の人だな…
「あら、初めてのお客様ね。楓音、頑張ってみる?」
「は、はいっ」
わたしは本来すごくあがり症で、初対面の人がすごく苦手だ。
美柚さんはそんなわたしにじっくり常連さんの事を教えてくれて、少しずつ緊張を解いてくれた。
そして今日もまた、背中を押してくれる。
もう、学生じゃないんだもんね。
お席についたお客様はメニューをじっ、と見た後、「すいませーん」と声を上げた
低くてカッコイイ声だった
「は、はい!ただいま!」
「さ、楓音。落ち着いて、失礼の無い様にね。大丈夫大丈夫。」
「はい…!」
ドクドク唸る心臓を必死で飲み込み、お客様の元へ
「珈琲1つと、あとメイプルトーストお願いします」
「かしこまりました、ミ、ミルクとお砂糖はいかがなさいますか」
「あー。。。無しでお願いします」
「かしこまりました、少々お待ちください」
一礼を、忘れずに…
「よくやった、楓音。途中どもってたけど楓音にしては上出来じゃない!」
「あ、ありがとうございます~………」
珈琲にメイプルトーストか…大人だなぁ
でもメイプルトーストは美味しいよね。トーストにバターを塗って、メイプルシロップをたっぷり………と、お腹が空くからやめよう。。。
程なくして、美柚さんお手製の珈琲とトーストが出来上がる
ここからが勝負なのよ。。。
「落ち着いて行っといで」
「は……は、はい………!!!」
「力みすぎ」
「はい………」
過去に初めてのお客様に珈琲を運んで、緊張しすぎて零してしまった事があるのだ
お客様は大層お怒りで、怒鳴られてわたしはパニック状態
完璧な対応も出来るわけなく…
ダメだダメだ、思い出しちゃダメだ
そっと盆を持ち、お客様の所へ向かう
もう少し……あと少し………
”お前の部下のミスは上司のお前の責任だろう!!!”
”謝罪の1つもできないのか!!!”
”指導が全くなってない、どうせあんたもクソみたいな人間なんだろうなぁ!!!”
………っっ
もう美柚さんを悲しませたくない、怖い、怖いどうしよう
「あ………っっっ」
《ガシャーーーーン!!!!!!!》
「っっっっ…………!!!」
「だ、大丈夫!?」
気がついたら床は真っ黒
シロップが髪から滴り落ちて
身体中がベタベタの状態で
お客様が自らのハンカチで頬を拭ってくれていた
「………っっっっっ!!!本当に申し訳ございません!!今新しいものをお持ちします……!!本当に、本当にごめんなさい!!!」
「え、ええ!?それより君の腕の方が心配だよ!!!」
「腕?」
その瞬間、全ての感覚が一気に戻ってくる
「っっう、あああああ!!!」
左腕の皮膚が張り裂けそうな痛み
耐えられず、叫んでしまった
「楓音、さっさと水で冷やしてきなさい!!」
「ぅ、で、でも」
「いいから早く!!」
「は、はい」
「あ、私のハンカチ使ってね!」
「お客様、大変申し訳ございません……!!」
「大丈夫大丈夫、それよりあの子、大丈夫かな」
「ひとまず応急処置をして病院に行かせます、ご迷惑おかけしました…!!」
「いいっていいって。………良い先輩だね」
「………え?」
「貴女の事だよ」
水で冷やして、濡らしたハンカチで腕を覆う
ジリジリと痛いけど、そこまで広範囲じゃなくてよかった。。。
綺麗なハンカチなのに…申し訳ない…
「お騒がせ致しました…本当に申し訳ございません…」
「いいのいいの。幸いもう店の他のお客さんもいなくなるところだったし、それより腕、大丈夫?」
「あ…ハンカチ使わせてもらいました…」
冷たく濡れたハンカチを当てているお陰か、さっきパニックになっていた時よりかは全然痛くない
「…とりあえず心配だし、病院行っといた方がいいよね」
「楓音、あんたもう今日は上がっていいから、病院に行ってきなさい」
「え、でもお店は…」
「もうそろそろお昼だから、もう1人来るわ、安心なさい!それともなにかな?私の事が信用出来ないのかな?美柚さんしょんぼりしちゃうわよ?」
「え、そ、そんな事無いですよっっ!わかりました…行ってきます」
美柚さんは顔文字のしょぼんみたいな顔でこっちを見ている。美柚さんなりの気遣いが本当に心にしみる。
「あ、じゃあ私付き添いで行こうか」
「え、ええええ!!そ、そんな、お客様にもご予定が…!」
「いいのいいの!あ、私菊里 潮織ね、楓音ちゃん」
「え、あ、未本 楓音です」
「本当に良いんですか?菊里さん」
「だって、貴女がとても心配そうな顔してるから。それに私今日休みだったしね!」
「心配…私そんなに顔に出てました?」
「それはもう。心配!!って顔に書いてあるみたいだったよ。本当に良い先輩を持ったね、楓音ちゃん。」
「美柚さん……!!いつも本当にありがとうございます…っ」
「さ、荷物取っといで」
「はい!」
戻ると、菊里さんがよし、と言って席を立つ
「美柚さん…だったよね。貴女はお店をしっかり守っておいてね。私が責任を持って連れて行ってくるよ。」
「わかりました…念の為、これ、私の連絡先です。もしなにかあれば電話ください。」
電話番号が書かれたメモをそっと菊里さんに渡す美柚さんは、本当にお母さんみたいな表情だった。
「しっかり受け取りました。じゃあ、楓音ちゃん。行こうか。」
「は、はいっ」
「ちゃんと美柚さんによろしく言ってね」
「あ、美柚さん…!本当にごめんなさい!!………行ってきます、お先に失礼します」
「行ってらっしゃい、後は任せなさい!」
「いらっしゃいませー」
うちの店では珍しく、初めて顔を見るお客様だ
綺麗な女の人だな…
「あら、初めてのお客様ね。楓音、頑張ってみる?」
「は、はいっ」
わたしは本来すごくあがり症で、初対面の人がすごく苦手だ。
美柚さんはそんなわたしにじっくり常連さんの事を教えてくれて、少しずつ緊張を解いてくれた。
そして今日もまた、背中を押してくれる。
もう、学生じゃないんだもんね。
お席についたお客様はメニューをじっ、と見た後、「すいませーん」と声を上げた
低くてカッコイイ声だった
「は、はい!ただいま!」
「さ、楓音。落ち着いて、失礼の無い様にね。大丈夫大丈夫。」
「はい…!」
ドクドク唸る心臓を必死で飲み込み、お客様の元へ
「珈琲1つと、あとメイプルトーストお願いします」
「かしこまりました、ミ、ミルクとお砂糖はいかがなさいますか」
「あー。。。無しでお願いします」
「かしこまりました、少々お待ちください」
一礼を、忘れずに…
「よくやった、楓音。途中どもってたけど楓音にしては上出来じゃない!」
「あ、ありがとうございます~………」
珈琲にメイプルトーストか…大人だなぁ
でもメイプルトーストは美味しいよね。トーストにバターを塗って、メイプルシロップをたっぷり………と、お腹が空くからやめよう。。。
程なくして、美柚さんお手製の珈琲とトーストが出来上がる
ここからが勝負なのよ。。。
「落ち着いて行っといで」
「は……は、はい………!!!」
「力みすぎ」
「はい………」
過去に初めてのお客様に珈琲を運んで、緊張しすぎて零してしまった事があるのだ
お客様は大層お怒りで、怒鳴られてわたしはパニック状態
完璧な対応も出来るわけなく…
ダメだダメだ、思い出しちゃダメだ
そっと盆を持ち、お客様の所へ向かう
もう少し……あと少し………
”お前の部下のミスは上司のお前の責任だろう!!!”
”謝罪の1つもできないのか!!!”
”指導が全くなってない、どうせあんたもクソみたいな人間なんだろうなぁ!!!”
………っっ
もう美柚さんを悲しませたくない、怖い、怖いどうしよう
「あ………っっっ」
《ガシャーーーーン!!!!!!!》
「っっっっ…………!!!」
「だ、大丈夫!?」
気がついたら床は真っ黒
シロップが髪から滴り落ちて
身体中がベタベタの状態で
お客様が自らのハンカチで頬を拭ってくれていた
「………っっっっっ!!!本当に申し訳ございません!!今新しいものをお持ちします……!!本当に、本当にごめんなさい!!!」
「え、ええ!?それより君の腕の方が心配だよ!!!」
「腕?」
その瞬間、全ての感覚が一気に戻ってくる
「っっう、あああああ!!!」
左腕の皮膚が張り裂けそうな痛み
耐えられず、叫んでしまった
「楓音、さっさと水で冷やしてきなさい!!」
「ぅ、で、でも」
「いいから早く!!」
「は、はい」
「あ、私のハンカチ使ってね!」
「お客様、大変申し訳ございません……!!」
「大丈夫大丈夫、それよりあの子、大丈夫かな」
「ひとまず応急処置をして病院に行かせます、ご迷惑おかけしました…!!」
「いいっていいって。………良い先輩だね」
「………え?」
「貴女の事だよ」
水で冷やして、濡らしたハンカチで腕を覆う
ジリジリと痛いけど、そこまで広範囲じゃなくてよかった。。。
綺麗なハンカチなのに…申し訳ない…
「お騒がせ致しました…本当に申し訳ございません…」
「いいのいいの。幸いもう店の他のお客さんもいなくなるところだったし、それより腕、大丈夫?」
「あ…ハンカチ使わせてもらいました…」
冷たく濡れたハンカチを当てているお陰か、さっきパニックになっていた時よりかは全然痛くない
「…とりあえず心配だし、病院行っといた方がいいよね」
「楓音、あんたもう今日は上がっていいから、病院に行ってきなさい」
「え、でもお店は…」
「もうそろそろお昼だから、もう1人来るわ、安心なさい!それともなにかな?私の事が信用出来ないのかな?美柚さんしょんぼりしちゃうわよ?」
「え、そ、そんな事無いですよっっ!わかりました…行ってきます」
美柚さんは顔文字のしょぼんみたいな顔でこっちを見ている。美柚さんなりの気遣いが本当に心にしみる。
「あ、じゃあ私付き添いで行こうか」
「え、ええええ!!そ、そんな、お客様にもご予定が…!」
「いいのいいの!あ、私菊里 潮織ね、楓音ちゃん」
「え、あ、未本 楓音です」
「本当に良いんですか?菊里さん」
「だって、貴女がとても心配そうな顔してるから。それに私今日休みだったしね!」
「心配…私そんなに顔に出てました?」
「それはもう。心配!!って顔に書いてあるみたいだったよ。本当に良い先輩を持ったね、楓音ちゃん。」
「美柚さん……!!いつも本当にありがとうございます…っ」
「さ、荷物取っといで」
「はい!」
戻ると、菊里さんがよし、と言って席を立つ
「美柚さん…だったよね。貴女はお店をしっかり守っておいてね。私が責任を持って連れて行ってくるよ。」
「わかりました…念の為、これ、私の連絡先です。もしなにかあれば電話ください。」
電話番号が書かれたメモをそっと菊里さんに渡す美柚さんは、本当にお母さんみたいな表情だった。
「しっかり受け取りました。じゃあ、楓音ちゃん。行こうか。」
「は、はいっ」
「ちゃんと美柚さんによろしく言ってね」
「あ、美柚さん…!本当にごめんなさい!!………行ってきます、お先に失礼します」
「行ってらっしゃい、後は任せなさい!」
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