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【私の過去】

 母親が死んだと聞かされたのは私が10歳の時。その時既に私はこの森の屋敷に閉じ込められていた。

 王太子妃になるから大事に育てる必要があるという建前の元ーー

 そして、母親が死んだ後、私の所には1人の可愛らしい子供を連れた若い美しい女性が訪れた。

「貴方が私の旦那様を長年苦しめた女狐の子供なの? なんて見窄らしい服、髪、顔‼︎ リリアナ、見てごらん。こんな子になってはいけませんよ?」 
「はい! 私あんなブタにはなりたくありません‼︎」
「ふふ、ブタではなくゴミと言いましょうね? この子には生きていく価値など無いのですから」

 そう言い捨てて、去った2人に当時の私は呆気にとられた。

 そこからだ、食料や生活用品が届かなくなったのは。今まで節約して食べていたものを更に減らし、私はギリギリの状態で食い繋いでいた。
 しかし、限界とは訪れるもので遂に食糧の無くなった私は森へ調達しに行かなければならなくなったのだ。

「うう……お腹すいた……これ、野菜に似てる。食べれるかな?」

 そんな風に試行錯誤しながら食料を集めていた私。そんな時、1つの不思議な石に出会った。

○○○
 
 ガチャリと扉を開けて自室に入った私はまず先に自身にかけていた魔法を解く。

「いつ見ても自分の体が細くなっていくのは気持ちいいねぇ」

 鏡の前の私は先程の容姿とはかけ離れた、プラチナブロンドの髪色を持つ美少女へと変化していた。勿論、スタイルも抜群である。

『おい、自分に見惚れるな。気持ち悪いぞ』

「はいはい、すみませんって。えーっと……」

『ハルクだ』

「あ、そうそうハルク。名前が覚えにくいのよ。ハルって呼んでもいい?」

『……だめだ。何度も言っているだろう』

「名前を省略すると戻れなくなるんでしょ」

『わかっているなら何度も言わせるな』

 ブツクサ文句を言う生意気な石は私を救ってくれた恩人……いや、恩石である。

 食糧難に見舞われた私は、不思議なハルクと出会う事で助かった。

 ハルクが言うには私には呪いがかけられていたそうだ。

『今からその呪いを解けば、激しい激痛にのたうち回ることになるだろう。どうする? 封印を解くか?』

 その問いに私は「うん」と返した。
 もしかしたら助かるかもしれないと言う淡い希望を持ったせいだ。
そして、呪いは解かれた。
 その瞬間、私は頭に流れ込んでくる大量の前世の記憶のせいで激痛に襲われることになる。

 ああ、ハルクが言っていたのはこう言うことか……と納得しながらも私は耐え続けた。

 そして、今、私は生きている。

「まさか容姿まで呪いが掛けられているなんて思っても見なかったよ」
『誰かが故意にやったんだろうな。なんせお前は聖女だから……』
 
 ハルクに話しかけながら、遅くなった夕食の準備をする。

「聖女とか私は遠慮するよ。魔王が復活したなんて聞いてないし。でもそのおかげでハルクに会えたからよしとする! ハルクが人間だったらどんな姿なのかな?」

 イケメン? それともオッサン? あ、でも石だから多分オッサン通り越してお爺さんだろうな。

『おい、今失礼な事考えなかったか? お前だって精神年齢はおばさんだろうが!』
「え? 私は転生したんだから、ぴちぴちの美少女よ!」
『……22+15は?』
「……37」
『ほーれ、おばさんじゃねぇか‼︎』

 やーいやーい、おばさんおばさん! と囃し立ててくるハルクにバサッと布をかけ黙らせる。

「私は15歳だ‼︎ 22歳の記憶はあるけど関係無いもん‼︎」
『……わかったから取り敢えず、コンロの火消せ。火事になる』

 ハルクに言われ、ハッと見るとお鍋の中からブクブクと泡が立っているではないか。慌てて、火を止め皿に盛りつけた。

「魔力って便利よねぇ」
『……そうだな』

 呆れた声のハルク。どうせ貴重な魔力を無駄にしやがってと思っているのだろう。

「まあまあ、ハルクにも魔力ちゃんとあげるから」
『うむ、ゆるそう』
「へへぇ~」

 ふざけた口調で私特製の座布団の上に鎮座しているハルクに魔力を注ぐ。

『やはり、お前の魔力は美味いな』
「毎度毎度褒めていただき光栄です~」

 クルリと回転して私は机に座る。

「いただきます」

 ほかほかと湯気を立てるご飯に食欲が刺激される、私は今日の鬱憤を晴らすかの如く夕飯を食べまくったのだった。

『……太るぞ?』
「和食はダイエットフードですぅ」
『ウゼェ』
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