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俺に記憶が戻ってから1日だった。
「エラ? どうしたの。ご飯に手をつけていないじゃない」
「あ、いえ。なんでもありませんわ」
母親であるマリアに問われ、慌てて否定する優希。しかし、フォークを持つ手は動いていなかった。
確か、今日初めて王子の婚約者としての顔合わせーー婚約披露式ーーがあるんだよな。もし、俺が王子を好きになってしまったらどうしよう。ゲームの補正とかあるって聞いた事があるし……
そう、優希はゲームのオープニングを思い出していたのだ。薔薇の花が咲き誇る宮殿で、悪役令嬢であるエラが王子から婚約成立としてキスと婚約指輪を贈られる場面ーー
嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!
そこまで思い出して内心絶叫する優希。ドレスで隠れた腕には鳥肌が立っていた。
「ああ、分かったわ! 今日は貴方のお慕いしている殿下にお会いできるから緊張しているのね! それで元気がないのかしら⁇」
視界の端では、一緒に食事をとっていた母親が何か勘違いしているが、それを正す余裕は今の優希には無かった。
結局少ししか手をつけられなかった食事を残して食堂を後にする優希。どうやって王子のキスを逃れるかと言う人生最大の問題が優希の頭の中を埋めていた。
どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう……
その後も魂が抜けたかのような優希に周りは、「お嬢様、緊張していらっしゃるのですね。普段のしっかりした様子とは違い、また可愛らしい」と勘違いし、微笑む。
男にキスされる? 嘘だろう? 俺は嫌だ!
ギリっと奥歯を噛み締めながら馬車に揺られて王宮へ向かう優希。側から見れば、切なそうな表情の絶世の美少女である。それがますます周囲の勘違いを進行させた原因なのだが、本人は気づかない。
タイムリミットはすぐそこまで迫っていた。
控室、1人取り残された優希は必死でキスの回避方法を考えていた。が、何か思いつくでもなし。結局、婚約披露式の時間が来てしまったのであった。
「ベアトリス公爵家、エラ様。こちらに」
差し出された手を取り、進む優希。顔面蒼白なのだが、それは美少女効果で儚い美しさを周囲に振りまいていた。
「君が僕の婚約者になるんだね。よろしく」
優希曰く、腹黒サイコパス顔面国宝王子がニコリと微笑んで大臣が差し出した指輪を手に取り近づいてくる。
対する優希は、バレないようにジリジリと後ろに若干ではあるが後退していた。
ひぃぃぃぃ! 俺は男にキスされても嬉しくないっ‼︎
「ん? ちょっと距離が遠いかな……もう少しこちらに来てくれるかい?」
にっこりと微笑まれて渋々近づく優希。周囲から「おお!」と言う歓声が聞こえる。
なんだ?
訝しげに周囲を見る優希に、王子が近づく。スルリと流れるような動作で優希の手を持ち上げ指輪をはめた。
いつの間に⁉︎
あまりの速さに呆然としている優希に次なる試練が迫り来る。なんと、王子が顔を近づけてくるではないか!
ゾワゾワゾワと優希の背中に鳥肌が立ち、我慢の限界が訪れる。
「あの」
「なんだい?」
「もういいのではないでしょうか?」
あと少しで頬に唇が触れる……と言うところで優希は王子にしか聞こえないぐらいの小声でストップを申し出た。あえて言うが、側から見れば絶世の美少女が照れているようにしか見えないのである。勿論、王子もそう見えた。結果ーー
「ひぁっ⁉︎」
キスの場所が頬から唇へと変更されただけであった。
「ふふっ、耳まで真っ赤にしちゃって……可愛い」
うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ‼︎
ぷるぷると唇を両手で押さえて涙目で震える絶世の美少女。中身の優希はこの世とは思えないほどの絶叫を心の中で響かせなのだった。
優希の大切に守って来た何かが音を立てて崩れ落ちた瞬間であった。
「エラ? どうしたの。ご飯に手をつけていないじゃない」
「あ、いえ。なんでもありませんわ」
母親であるマリアに問われ、慌てて否定する優希。しかし、フォークを持つ手は動いていなかった。
確か、今日初めて王子の婚約者としての顔合わせーー婚約披露式ーーがあるんだよな。もし、俺が王子を好きになってしまったらどうしよう。ゲームの補正とかあるって聞いた事があるし……
そう、優希はゲームのオープニングを思い出していたのだ。薔薇の花が咲き誇る宮殿で、悪役令嬢であるエラが王子から婚約成立としてキスと婚約指輪を贈られる場面ーー
嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!
そこまで思い出して内心絶叫する優希。ドレスで隠れた腕には鳥肌が立っていた。
「ああ、分かったわ! 今日は貴方のお慕いしている殿下にお会いできるから緊張しているのね! それで元気がないのかしら⁇」
視界の端では、一緒に食事をとっていた母親が何か勘違いしているが、それを正す余裕は今の優希には無かった。
結局少ししか手をつけられなかった食事を残して食堂を後にする優希。どうやって王子のキスを逃れるかと言う人生最大の問題が優希の頭の中を埋めていた。
どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう……
その後も魂が抜けたかのような優希に周りは、「お嬢様、緊張していらっしゃるのですね。普段のしっかりした様子とは違い、また可愛らしい」と勘違いし、微笑む。
男にキスされる? 嘘だろう? 俺は嫌だ!
ギリっと奥歯を噛み締めながら馬車に揺られて王宮へ向かう優希。側から見れば、切なそうな表情の絶世の美少女である。それがますます周囲の勘違いを進行させた原因なのだが、本人は気づかない。
タイムリミットはすぐそこまで迫っていた。
控室、1人取り残された優希は必死でキスの回避方法を考えていた。が、何か思いつくでもなし。結局、婚約披露式の時間が来てしまったのであった。
「ベアトリス公爵家、エラ様。こちらに」
差し出された手を取り、進む優希。顔面蒼白なのだが、それは美少女効果で儚い美しさを周囲に振りまいていた。
「君が僕の婚約者になるんだね。よろしく」
優希曰く、腹黒サイコパス顔面国宝王子がニコリと微笑んで大臣が差し出した指輪を手に取り近づいてくる。
対する優希は、バレないようにジリジリと後ろに若干ではあるが後退していた。
ひぃぃぃぃ! 俺は男にキスされても嬉しくないっ‼︎
「ん? ちょっと距離が遠いかな……もう少しこちらに来てくれるかい?」
にっこりと微笑まれて渋々近づく優希。周囲から「おお!」と言う歓声が聞こえる。
なんだ?
訝しげに周囲を見る優希に、王子が近づく。スルリと流れるような動作で優希の手を持ち上げ指輪をはめた。
いつの間に⁉︎
あまりの速さに呆然としている優希に次なる試練が迫り来る。なんと、王子が顔を近づけてくるではないか!
ゾワゾワゾワと優希の背中に鳥肌が立ち、我慢の限界が訪れる。
「あの」
「なんだい?」
「もういいのではないでしょうか?」
あと少しで頬に唇が触れる……と言うところで優希は王子にしか聞こえないぐらいの小声でストップを申し出た。あえて言うが、側から見れば絶世の美少女が照れているようにしか見えないのである。勿論、王子もそう見えた。結果ーー
「ひぁっ⁉︎」
キスの場所が頬から唇へと変更されただけであった。
「ふふっ、耳まで真っ赤にしちゃって……可愛い」
うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ‼︎
ぷるぷると唇を両手で押さえて涙目で震える絶世の美少女。中身の優希はこの世とは思えないほどの絶叫を心の中で響かせなのだった。
優希の大切に守って来た何かが音を立てて崩れ落ちた瞬間であった。
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