有魂機人ツクモス The Comrades

霜月立冬

文字の大きさ
21 / 69

第二十話 待ち合わせ

しおりを挟む
 西暦二千百三十年、十月八日(日)。
 耀平ヨウヘイ雨淋ユーリンが仮想訓練室で邂逅を果たした日から、一か月ほど経った。その間、最強戦の日程が発表されていた。

 十一月二十三(木)日から十二月八日(日)。

 凡そ二週間。この期間内に、実機を使ったトーナメント戦が行われる。それに参加する選手は、例年通り十六名。既に選手本人達への通達は済んでいる。
 選手達は、それぞれ優勝を目指して、休む間も惜しんで特訓に励んでいる。
 耀平も、その内の一人。休日と言えども特訓に励む――はずだった。
 ところが、今日という日に限って、耀平はベッドの上に寝ころんだままだった。

 仰向けになった耀平の視界に濃紺の空が映っていた。
 枕元のレトロ時計は五時三十五分を指している。普段の起床時間より、三十分ほど遅い。
 今日は日曜日なのだから、登校する必要は無い。しかしながら、日課のジョギングが有る。その為に、起きる必要が有った。
 ところが、耀平は寝転がったままだ。

「むう」

 耀平は不満げに眉根を歪めながら、天井の空模様を眺めていた。

 昨日は――余り眠れなかった。

 耀平は寝不足だった。昨夜は、普段より早い時間にベッドに入った。しかし、日を跨いで尚寝付けなかった。何故なのか? 
 その理由と思しきイベントが、耀平の脳内に閃いていた。

 今日は――待ちに待った「デート」の日。

 デート。その言葉を想起した途端、耀平の胸を激しく高鳴った。その思春期男子らしい変調が、耀平を寝かせなかったのだ。
 今も、激しく昂る感情を抑えきれずに――

「未だ、ちょっと早いけど――」

 耀平は跳ね起きて、全力でデートの準備を開始した。

 先ず、お風呂で汗を流した。その際、寝間着を洗濯している。それらを畳んで右腕に抱えて、寝室兼居間兼勉強部屋の押し入れへと移動した。

 押し入れの襖を開けて、箪笥に寝間着を仕舞った。続け様に、下着と外出着を取り出した。
 耀平は、白の丸首シャツの上に黒の半袖シャツを羽織った。それと並行して、踝までの黒い靴下を穿いて、その上から黒のスラックスを穿いた。それらを身に付けた後、肩から襷のように細長い黒のボディバッグを掛けた。
 バッグの中にはスマホや財布などの貴重品が収納されている。それぞれ外出時には有用と思しきものばかり。しかしながら、耀平は「これ」だけでは不満だった。

 耀蔵爺ちゃんも連れていきたいなあ。

 耀平としては、耀蔵ヨウゾウ(AI)を組み込んだサポコンを持ち出したかった。それを望みたく理由がデートの目的地に有った。
 しかし、サポコンは軍事機密そのもの。校則でも「校外への持ち出しは厳禁」と定められている。それを破る気は、耀平には毛頭無かった。

 ま、仕方がない。

 耀平は渋々といった不満顔を浮かべながら、部屋を出た。
 向かった先は――食堂街。そこで腹ごしらえをしてから、デートの待ち合わせ場所、学園塔正面玄関前に移動した。

 時刻は、午前六時四十五分。
 太陽が空の闇を払い、学園塔前の太平洋を黄金色に輝かせている。天を衝く巨塔(学園塔)も、その白さを一層際立たせていた。
 耀平の足元から、濃く長い影が伸びていた。その地面に落ちた黒し染みをジッと見詰めながら、耀平は「はぁ」と溜息を吐いた。

 もう少し、食堂で時間を潰していても良かった。

 相手との待ち合わせ時間は、何と午前八時。未だ一時間以上も有る。どこかで時間を潰しても、十分間に合うだろう。しかし、耀平は――

 ま、いっか。

 動かなかった。耀平の直感が「このまま待っていた方が良い」と囁いていた。耀平も「まあ、一時間くらいなら」と、待つことを決めていた。しかし、待ち時間は存外に短かった。
 
 耀平が五分ほど学園塔前の太平洋を眺めていたところで、背後から聞き「慣れた声」が上がった。

「よ~へく~んっ」

 甲高い女子の声。それに反応して、耀平は振り向いた。
 すると、耀平の視界に一人の少女の姿が映った。
 
 小学生と見紛う低身長の女子。その体に白を基調とした衣服をまとっていた。
 鍔の広い帽子に、マーク付きのワンピース。足は、耀平と同じくスニーカー。その小さな肩から白いサコッシュを下げていた。
 陽光の中なので、一層白さが際立っている。
 しかし、その少女には衣装以上に目を惹く身体的特徴が有った。それが、耀平の視線を釘付けにしていた。

 その少女は胸部が豊満であった。

 ワンピースが腰元で絞られている為、放漫な双丘が一層際立っていた。だからと言って、マーク無しにする訳にはいかない。服全体が胸に押し広げられて太っているように見えるからだ。
 それほどまでに、少女の胸部は豊満だった。

 小学生のような低身長の、トランジスタグラマな女子。そのような存在は、耀平の知人の中では唯一人。

 耀平は、揺れる胸部に視線を奪われながら、少女に向かって元気良く挨拶した。

「ニーハオ。ユーリン」

 今日のデートの相手は、幼馴染の劉雨淋リュウ・ユーリンだった。尤も、他にデートをしてくれる相手など、耀平にはいない訳だが。

 今日は、二人にとって待ちに待った約束の日である。この日の予定を決めたのは――そう、一カ月ほど前の仮想訓練室での出来事だ。
 あのとき、雨淋は「今度の休み」と言っていた。普通は、その週末になるところ。二人も、最初はそのつもりだった。それなのに、一か月も間が空いた。何故なのか? それは――

拍謝パイセー。よ~へくん」
「ん? 何が?」
「今日まで時間が開いたこと」
「あ――うん」
「よ~じ先生のお手伝いが忙しくなっちゃって」

 第四世代型の開発。その開発主任である名取耀児《ナトリ。ヨウジ》が、「今度の最強戦に間に合わせる為に、突貫で作業するぞっ」と強引に計画を推し進めたせいであった。
 その為、雨淋を始めとした関係職員の休日が無くなった。皆が休日返上して奮励努力した結果、何とか間に合う目途が立った――と、いったところ。一段落したところで、漸くデートを敢行した訳だ。
 その事情を知った耀平は、右拳を固く握り締めた。

 父さん。うん、一発殴りたい。

 耀平の右拳には、パスタと錯覚するほど太い血管が浮き上がっていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』

まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。 朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。 「ご主人様の笑顔が見たいんです」 その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。 全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!? 甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。 ​「作品への感想代わりの『いいね❤️』や『エール📣』、心よりお待ちしております。」 ​「【応援のお願い】『いいね❤️』や『エール📣』をいただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!」 ​「最後までお読みいただきありがとうございます。温かい『いいね❤️』が更新の支えです。」

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...